UIデザインチームをマネージメントするということ ~インダストリアルデザイナーからUIデザインチームマネージャーになった経験を語る~
こんにちは。UIデザインチームの高間です。
私は、入社して25年間、家電製品のインダストリアルデザイナーをしていました。10年前のある日、突然UIデザインチームへ異動となり、戸惑いながらもインダストリアルデザインの経験を活かしながらマネージャーとしてチーム運営に取り組んできました。
今回はそんな経歴の私から見た、UIデザインの魅力と難しさ、マネージャーとして心がけていることをお話ししたいと思います。
1 経歴
モノづくりが好きで大学では工業デザインを専攻し、将来は人々の生活の身近にあるインダストリアルのデザインをしたいと考えていました。
1988年、インダストリアルデザイナーとして東芝に入社しVHSのビデオデッキのデザインチームに配属されます。その後、約4年の周期で洗濯機やエアコンなど担当製品を変えながら商品開発にかかわってきました。そのころの会議の場では、「商品が売れるかどうかはデザインにかかっている」とよく言われていましたね。デザインで重要なのは、店頭で目をひき選ばれるもの、アピアランスで機能や期待感を伝え、使ってみてその良さを実感できるものといった意識で取り組んでいました。
2 UIデザインチームのマネージャーへ
2013年にUIデザインチームに異動となりマネジメントに関わるようになりました。
画面デザインで高度なグラフィック表現やモーション効果が可能となってきたころです。最初のチームはテレビやPCといったコンシューマー向け製品の画面デザインで、グラフィック表現を中心とした見た目の品質やユーザビリティの向上に注力していましたが、その後、東芝の事業がBtoBにシフトし、業務システムや、社会インフラを支える事業者向けシステムの画面デザインに取り組むようになりました。デザイン活動に求められるものが、美しいアピアランスや使い勝手の良いものを作ることだけでなく、使い始める前から使い終わった後までの良質なユーザー体験を創り出すことにまで広がり、UIデザイナーの活動も、開発上流の戦略立案や製品企画の段階からかかわるようになっていきます。一方、デザインで使用するUIデザイン開発ツールの進化により作業の効率化が飛躍的に進みました。
3 マネージャーが考えるUIデザイナーの可能性
このように、私がUIデザインにかかわり始めた時期にチームをとりまく環境は大きく変化し、今でもその流れは加速していると感じています。
BtoBシステムの開発は、以前はお客様ごとのカスタムメイドが主流でしたが、開発スピードの向上、開発コストの低減を目指し、機能ごとにコンポーネント化してシステマティックに開発できる仕組みつくりが進んでいます。画面デザインから実装までの開発プロセスにおいても同様の動きがあります。すべてをオリジナルで作り上げるのではなく、既存の開発ツールやソフトウエアを活用しながら、自社の強みを発揮した顧客体験をいかに効率的に実現するかが重要になってきています。開発の仕組みの変化やツールの進化による開発の効率化が進み、デザイナーだけでなく誰もが簡単に画面デザインができる時代が近づいています。そうなると、マネージャーとしては、デザイナーのプレゼンスをどう発揮していくのかが課題になってきます。
タッチポイントとなるUIの設計以前に、それがもたらす社会的な意義を考えることは、これからのデザイナーの役割として重要なひとつでしょう。
また、今後あらゆるものがデジタル化され、クラウドにつながり、集められたデータを活用していくビジネスが拡大していくなかで、そのデータを使ったサービスフローの設計や、データをどう見せるか、つまりデータ可視化のスキルがデザイナーのプレゼンスを発揮する上でますます重要になっていくでしょう。デザイナーのこうした可能性を引き出し、デザイン活動の幅を押し広げていくことが、私たちマネージャーの役割のひとつだと思っています。
4 まだまだ変化し続けるUIデザイン
デザイナーの可能性について、もう少し詳しく説明します。
私がUIデザインチームに異動した10年前はちょうどスマートフォンが急速に普及している頃で、その頃から多くの人が日常的に先進的なGUIに触れるようになりました。これらの影響でBtoC向けの製品はUIデザインが洗練され進化する一方で、プロフェッショナルユーザーが業務で使うBtoB向けは、確実に正しい操作ができることが一番に求められるため、技術者自らが作り上げることも少なくありませんでした。
しかしその状況も変わってきます。BtoB向けでも高い表現力が可能になり、また普段、スマートフォンのUIで目の肥えたお客様からのニーズもあり、BtoCとの差は無くなってきています。変化は表現力だけではありません。もっとも大きな変化は、お客様が本当にやりたいと思っていることが実現できるか、またその目的に適った機能や操作フローになっているかなど、サービスとしてのUXが重要になってきていることです。そのためにUIデザイナーの活動にはこれまでと違ったアプローチが必要となります。事業としての目標を見定めるために、顧客やユーザーを巻き込んで、彼らと社内のマーケッターとの関係を築くことをサポートしたり、そのサービスが技術的に実現できるか、技術者や顧客と一緒にプロトタイピングしながら事業的に価値があるかを確認したりといった、サービスデザインのアプローチへと広がっていっています。
社会や技術の変化からすると当然の流れですが、それを実践する現場のデザイナーは大変です。顧客の業務を理解することでさえ難しいうえに、デザインワークの経験がない様々な関係者を巻き込み、一緒にビジネスを考えていく。加えて、審美性やユーザビリティに配慮しながらアピアランスを検討することはもちろん、デザインツールの変化にも対応していかなければなりません。これらを一人の力で対応していくのは不可能なので、得意分野が異なるメンバー同士で連携して進めていくことになります。
連携作業は簡単ではありませんが、プロジェクトチームとしていいアウトプットが出せた時の喜びは格別です。そういった案件は、インフラ事業を支える人材の不足やカーボンニュートラルへの取り組みなど、社会課題解決に直結するものが多く、難しさと同時に大きな達成感を味わうことができます。
デザインワークの変化やデザイナーの役割の変化は、これからもまだ続いていくことでしょう。常に新しい挑戦をし続けることが求められますが、それは同時にデザイナー自身の成長にもつながるものと信じて、私たちマネージャーは、デザインというものの拡張を率先していく必要があると考えています。
5 おわりに:時代が変わっても変わらず大切にしていること
私がインダストリアルデザイナーとして仕事を始めてから、UIデザインにかかわるようになった現在に至るまでの間、世の中の価値観はモノの所有よりもそこで得られる体験を重視するようになり、デザイナーの役割や、デザインアウトプットの形態が経験価値の創出に対応したものに変わっていきました。しかし時代が変わっても、変わらず大切にしていることがあります。それはモノでもサービスでも、届ける相手がどうすれば喜んでくれるかをイメージしながらデザインすることです。そのために、いろいろな使用シーンや未来のあるべき姿の中での顧客やユーザーのことを強く想い浮かべながらデザインするようにしています。もちろん想像だけでは限界があるので現場観察やインタビューなどは行いますが、一生懸命相手のことを想うことで、その想いが隠し味のようにデザインに反映され、届ける相手に伝わると信じています。こうした地道な取り組みにより社会を支える業務にあたる方々がうれしさを感じ、最終的に社会全体がうれしくなってゆく。これは東芝のデザインのフィロソフィーである「うれしさの循環®」の考え方です。
今後も「うれしさの循環®」を常に意識しながら、社会的な意義のある仕事にかかわれることに感謝してUIデザインに取り組んでいきたいと思います。社会やビジネスの仕組みや働き方が大きく変わりデザイナーが果たす役割も広がっていく中で、マネジメントも単なる「管理」ではなく、デザイナーの可能性を広げて成功に導く「仕組み」でなければならないと、より一層強く感じています。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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ライター:高間