成瀬巳喜男作品連続リリース 2023年7月
2023年6月21日、7月19日。東宝DVD名作セレクションから成瀬巳喜男作品が連続リリースされます。これで戦後の東宝作品は全てDVD化されることになります。
男女の情愛の機微に迫る文芸作品『舞姫』(’51)や『お国と五平』(’52)ほか、『白い野獣』(’50)『おかあさん』(’52)『夫婦』(’53)まで、成瀬巳喜男監督作品5タイトルを6月に続き連続リリース。すべて初DVD化となる作品です。価格:各2,750 円(税抜価格:2,500円)
『白い野獣』
凄さまじき現実描破!白い肉体のゆくえ
大胆に衝く戦後最高の野心的異色作!
摘発された街娼の更生施設・白百合寮に、新たに入寮した贅沢な身なりの啓子(三浦光子)と純朴なマリ(木匠久美子)。啓子は、寮内で煙草を吸ったり、自分とことごとく衝突する元慰安婦の玉枝(北林谷栄)と取っ組み合いの喧嘩をしたりするなど、反抗的な態度だったが、入寮者の更生を信じる寮長(山村聰)に惹かれてゆく。ある日、マリが父親の分からない子を妊娠していることが判明した。そして、啓子も神経性の梅毒に蝕まれていることが判った…。
戦後の混乱の中で身を落とした女たちが、更生寮で逞しく、美しく、哀しく生きてゆく姿を正面から描く。公開当時は「東宝映画衝撃の問題作!!」と謳われた人間ドラマ。
『舞姫』
絢爛四大スタアが適役で演技に火花を散らし
川端康成の妙筆銀幕に躍如!
バレエ教師の波子(高峰三枝子)は大学教授の矢木(山村聰)と結婚して20年になる。矢木は結婚前に波子が交際していた竹原(二本柳寛)との仲を疑っており、大学生の息子・高男(片山明彦)に見張らせている。しかし、波子と竹原の関係はプラトニックなものだった。娘の品子(岡田茉莉子)は、波子の期待通りにバレリーナとして舞台に立っている。ある日、波子は、冷たい態度をとり続ける矢木に堪えられなくなり、家を出てしまう…。
元プリマドンナでバレエの夢を娘に託した妻と、現実から目を背け妻に冷たく当たる夫。そのいびつで冷え切った関係が静かなタッチで描かれる。原作は川端康成の新聞連載小説。
『お国と五平』
艶麗谷崎文学の粋をつくす名作
妖麗お国と美男五平の哀恋旅姿
お国(小暮実千代)は夫・伊織(田崎潤)の敵討ちのため、奉公人の五平(大谷友右衛門)と共に旅を続けていた。伊織を闇討ちで手にかけた友之丞(山村聰)は、かつてお国と相思相愛の仲だったが、親が伊織との結婚を決めたので別れたのだった。友之丞を探す旅を続けるお国と五平。足を痛め、体調を崩したお国を、五平は懸命に看病する。そして、いつしか五平は奉公人を越えた感情を、お国に抱くようになる…。
1922年、谷崎潤一郎の演出による帝国劇場での初演以来、谷崎潤一郎の戯曲の中でも上演回数が一番多いといわれている「お国と五平」を映画化。武家の定めと男女の情の相克を描く。
『おかあさん』
成瀬巳喜男が童心に触れて描いた清き母情の涙!
年子(香川京子)は、小ぶりな母・正子(田中絹代)、ポパイの父ちゃんと呼ぶ逞しい父(三島雅夫)、妹のチャーコ、従弟の哲ちゃんと暮らしている。ある日、奉公先で病気になった兄・進(片山明彦)は病院を抜け出して帰宅するが、家族に看取られて亡くなる。自力でクリーニング店を再建した父も、過労がたたって亡くなった。年子は洋裁学校に入りたいが、学費が工面できず、クリーニング屋を手伝うしかない。それでも日々を生きてゆくのだった…。
全国から集められた綴方集「おかあさん」をベースに水木洋子が脚本を執筆。本作以降、成瀬巳喜男監督と水木洋子のコンビは『夫婦』(‘53)『浮雲』(’55)『驟雨』(’56)などの傑作を生みだしてゆく。
『夫婦』
市井の片隅に揺れているわびしい夫婦のささやかな愛の灯
妻の幸せとは……全女性に捧げる愛の珠玉
東京に転勤が決まり、住まいを探す中原(上原謙)と妻・菊子(杉葉子)は、中原の同僚で、妻を亡くして一人暮らしの竹村(三国連太郎)の家の一階を借りて住むことになった。三人は気が合い、仲良く暮らしていたが、やがて竹村の気持ちが菊子に傾き始める。菊子との関係を疑った中原に問い詰められた竹村は、菊子が好きだが、それは、理性のある美しい薔薇を愛でるような純真な思いだと答えるのだが…。
上原謙が子供のいない、倦怠期夫婦の夫役を演じていることから、『めし』(‘51)『妻』(’53)と並んで成瀬巳喜男監督の夫婦3部作とも呼ばれる、静かな感動を呼ぶ傑作。
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