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43 空き地の出来事

裏通り沿いにある空き地に、半ば草むらに埋もれるようにして木箱が打ち捨てられていた。ビールケースくらいの大きさのみすぼらしい箱だった。粗大ゴミまがいのものだったが、不思議と目を引くものがあった。

空き地は人目につきにくい場所で、木箱はしばらくそのまま放置されていた。男は前を通りかかるたびに気にして目をやった。木箱がまだあることを確かめるために、わざわざその道を通ることもあった。

あの箱には何か秘密があるのではないか。そんな気がして仕方なかったが、近寄って中身を確かめるのは憚られた。男には木箱が自分を呼んでいるようにも感じられた。

数日後、大雨が降った。男はこのときを待っていたかのように、レインコートに身を包んで例の空き地へ向かった。この雨なら誰に邪魔されることもないだろう。男は周囲に人通りがないことを確認すると、おもむろに草むらに足を踏み入れた。

木箱は変わらずその場にあった。植物が成長したせいで、以前にも増して草に埋もれているように見えた。上部に蝶番のついた蓋があり、鍵はついていなかった。雨に濡れているせいか遠目に見るより重々しい印象で、どこかゲームに出てくる宝箱を思わせるところがあった。

男はごくりと唾を飲み込むと、恐るおそる腕を伸ばして蓋に指をかけた。

そのとき、中で何かが動く気配がした。

男はびくっとして思わず手を引っ込めた。

中は空ではなかったのだ。何となくそんな予感はしていた。だが、一体何が入っているというのか。何か生き物が閉じ込められているのか。それとも――。

再び木箱に手を伸ばすと、指先がわずかに震えた。ここまで来てやめるわけにはいかなかった。男はごくりと唾を飲み込むと、一思いに蓋を開けた。

中から猛烈な勢いで何かが飛び出し、男に襲いかかった。男は声にならない悲鳴をあげて後ろ向きに倒れ、尻餅をついた。あわてふためいた男は、そのまま這いつくばるようにして濡れた草むらの上を逃げた。驚きのあまり腰が抜けてしまっていた。

追撃はなかった。男は木箱から数メートル離れたところまで来ると、正体を確かめるために恐るおそる後ろを振り返った。途端に謎が解けた。

それぞれ別の方向を向いているぎょろりとした大きな目玉、べろんと垂れ下がった長い舌、つんと突き立つ数本の硬い毛、手を模した棒と軍手――。

手製のお化けの縫いぐるみを取りつけた、バネ仕掛けの飛び出すおもちゃだった。今まで見た中でも一番大掛かりなやつだ。

男は腹の底から抜けていくような安堵を感じた。それとともにパンツの中に生温い不快感が広がった。ちびってしまったのだ。

立ち上がることもできないまま呆然とお化けの縫いぐるみを見つめていると、次第に己の失態が客観的に理解されてきた。男の顔が雨の中でもはっきり分かるほど赤く染まった。男はレインコートについたフードで顔を隠すようにして空き地から走り去った。



いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。