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66 ゴミ収集マニュアル

男は家の中でうるさく駆け回る子供たちを捕まえて殴りつけると、両手両足を縛りつけて口をガムテープでふさぎ、一人ずつごみ袋に入れた。自治体指定の容量45リットルのごみ袋だった。

翌朝、男は子供たちをごみに出した。ちょうど燃えるごみの日だった。回収してくれるかどうか分からなかったが、仕事帰りに収集所を覗いてみるとごみはきれいさっぱりなくなっていた。「回収してくれたみたいだな」男が報告すると、妻は黙ってうなずいた。

数日後、男はまたしても自分のクレジットカードを使って勝手に買い物をした妻を、やはりごみに出すことにした。何度言ってもやめようとせず、買うものもいつもろくでもないダイエットグッズだった。効果があった試しもなかった。

妻は抵抗することもなく、自ら用意された袋に入った。体を亀のように丸めさせると、なんとか70リットルのごみ袋に収まった。男は袋を二重にし、口を念入りに縛りつけた。仕事帰りに収集所を覗いてみると、ごみはしっかりと回収されていた。

それからというもの、日々の暮らしは気楽で愉快なものとなった。男はより快適な環境を求めて仕事もやめた。

何もかもが男の思い通りとなった。男は近隣の家や店から金品を強奪し、邪魔するものがあれば暴行に及んだ。好きなときに起き、食べたいものを食べたいだけ食べ、寝たくなった女と無理やり寝た。

やることは次第にエスカレートしていき、気に入らないやつがいれば殺し、ときにはそいつの住んでいる街ごと焼き払った。住むところをなくした女たちをいいように奴隷にした。男は街を焼き払うのがいたく気に入り、次から次へと家に火をつけて回った。休む暇もないほどだった。

ある日のこと、男は冷蔵庫のドアに貼ってあった自治体のごみ収集マニュアルにふと目をとめた。何が書いてあるのか気になり、マグネットをはずして詳しく読んでみた。

それによると、この自治体では指定のごみ袋さえ使えば中身を問わず何でも捨てられるということだった。自分で燃やして処分することも大いに推奨されていた。

妻子をごみに出すことも、街を焼いて回ることも、すべて許されたことだった。すべてはここに書いてあったのだ。男はもっと早くこのマニュアルを読んでいればよかったと思った。と同時に、今まで誰一人としてこれを詳しく読んだものはいないに違いないと確信した。

男は自らを偉大な先駆者のように感じた。そればかりでなく、自分はルールを守ってごみ出しをする優良市民でもあるのだ。この二つが両立することはなかなかあるまい。男は焼け野原に響き渡るような高笑いをした。それから記念にまた一つ街を焼きに出かけた。燃え上がる街を眺めながら食べるドーナツは格別だった。



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