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40 遊園地
男が一人で遊園地に来たときのことだった。
子供たちに風船を配っていた園のマスコットの着ぐるみが、男に気づいて手招きをした。自分にもくれるのかと思って近づくと、男は待ってましたとばかりに殴り倒された。びっくりして起き上がると、着ぐるみは向こうの方で風船をねだる子供たちに囲まれていた。
男がベンチでポップコーンを食べながら次にどのアトラクションに乗ろうか考えていると、ふいに影が差した。先ほどの着ぐるみが、隣に立ってこちらを覗き込んでいた。何か用かと訊こうとすると、着ぐるみはポップコーンの容器を持つ男の手を下からぐいと押し上げた。男はポップコーンを顔面に浴びてベンチもろとも後ろ向きに倒れた。あわてて起き上がると、着ぐるみは向こうの方で風船をねだる子供たちに囲まれていた。
ジェットコースターに乗ったときのことだった。コースターがじわじわと急な坂をのぼり、男が安全バーにしがみついていると、眼下にあの着ぐるみがいるのが目についた。着ぐるみは何かきらりと光るものを男にかざして見せた。安全バーを固定するネジだった。男はまさかと思って安全バーをがたがた揺らしてみた。それは簡単に外れてしまった。
何度もきりもみ回転するジェットコースターだった。男は振り落とされないように必死でシートにしがみついた。泣きながら止めてくれと叫んでいると、眼下に着ぐるみが若い女の子たちと一緒に写真を撮っている姿が目に入った。
気を取り直してゴーカートに乗った。園の外周沿いに走る全長一キロほどのコースだった。快調に飛ばしていると、後ろから煽ってくる車がいた。例の着ぐるみだった。逃げようとしたがダメだった。着ぐるみは男を煽っては後ろからわざと追突してきた。
ふいに着ぐるみが車をぴたりと横につけてきた。横目に見ると、着ぐるみはまるで謝罪の印だとでも言うようにソフトクリームを差し出し、首をかしげて男を見ていた。その姿には園も請け合いの愛嬌があった。
男は受け取ろうとして手を伸ばした。すると、着ぐるみはそれをさっとかわし、身を乗り出してソフトクリームを男の顔に押しつけてきた。目がつぶれて前が見えなくなった。男はカーブを曲がり損ね、壁に激突した。
夕方、そろそろ帰ろうとするとゲートのところにあの着ぐるみがいた。着ぐるみは帰っていく子供たち一人ひとりとハイタッチをしていた。みんな笑顔だった。男の番がきた。着ぐるみは同じようにハイタッチを求めてきた。男が応えようと手を上げると、着ぐるみはがら空きになった男の腹にえぐるようなアッパーを放った。
うずくまった男が起き上がると、すでにゲートは閉まっていた。着ぐるみも子供たちも園のスタッフも、もう誰もいなくなっていた。
いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。