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69 ビニール袋

男は仕事帰りに少し遠回りをして電線に引っかかったビニール袋を見に行った。何週間も前の風の強かった日に引っかかって以来、ずっとそのままになっているのだ。その行為は習慣となりつつあった。

数日後、男は以前から気になっていた同僚の女子社員Y沢と二人で遅くまで残業になった。ようやく仕事が終わると、男は一緒に見たいものがあるのだけどと彼女を誘った。Y沢は気軽にオーケーの返事をよこした。

男は例のビニール袋の下の歩道に立つと黙って上を見上げた。Y沢は男の視線を追い、見るべきものを探した。分からなかった。

「どれ?」

男は頭上を指さした。Y沢は空のことかと思った。

「違うの? どれ?」

男は改めてビニール袋を指さした。Y沢は電線のことかと思った。

「違う? どれよ?」

男は辛抱強くもう一度指先をビニール袋に合わせた。Y沢は見当違いのマンションの窓を見た。はるか上空に飛行機が浮かんでいた。

「あれか」

そうではなかった。

「全然分かんないんだけど」

男は分かってもらえない悲しみに打ちのめされ、一人その場をあとにした。




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