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その他短編

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短いお話が入ってます。
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#ショートストーリー

【短編】ナイト・オブ・ザ・8月31日のリビングデッド

 長い夏休みが終わり、明日からまた新学期がはじまるという日の夜のことだった。学校が生き地獄でしかない十代の少年少女たちがいっせいに自らの命を絶つと、彼らは一人残らずゾンビとなって甦った。  翌朝、彼らは子供の苦悩などまるきり理解しない親たちによって、ゾンビになったことも気づかれないまま玄関から蹴り出された。  それが世界の終わりのはじまりだった。  水前寺響子は神奈川県Y市にある公立中学校の二年生だった。  何人かの同級生が、通学路をよろよろと歩く彼女を追い越しながら「ブス!

猫小説「お隣に預ける」

▼ 外部リンクですが、私が書いた掌編小説の紹介です。山猫文庫というサイトに掲載されています。 『お隣に預ける』 初めて書いた猫小説です。 小説家と猫の関わりはよく言われますが、「猫小説」というジャンルは……、あるんですね、多分。よく分かりませんが。いつもの「マンウィズ~」と同程度の短いものですので、気が向きましたら是非。 ▼ 54字の物語のテーマも「動物」でしたが、それとは別に、そして同時期に、ツイッター上で「猫」をテーマにした掌編の公募がありまして、そこに応募し

52 ユニコーン(旧:54字の物語 番外編2)

*もともと54字の文学賞用に書いたもの膨らませた作品ですが、掌編集「a man with NO mission」シリーズに収録することにしました) 「ユニコーン」  ある夜のことだった。  男は、パプアニューギニアから男性が股間に装着する角型ケースを輸入して、ポニーにつけてユニコーンと偽って売ると大儲けできるという、お告げのような夢を見た。  さっそく実行に移した。  自分でもびっくりするほど売れず、男は大量の角型ケースとポニーを抱えて破産した。  その頃、パプアニューギ

54字の物語 番外編1

*54字には収まらなかったので。 「河馬(カバ)」  疲れて寝てしまった子供を抱っこしながら、もうおしまいだと思ってじっと河馬を見ていた。  もうおしまいだ。  おれたち家族はもう――。  この子が生まれてから何もかもおかしくなった。子供というものが天使のように笑いながら親の首を絞めてくるものだなんて知らなかった。  低い鉄柵のすぐ向こうで、河馬があくびをするみたいに口を大きく開けた。ちょっと身を乗り出せば手が届きそうな距離だ。  そのとき、どこかから声が聞こえてきた。お

54字の物語 まとめ3

今週分です。 ▼「新入社員の仕事」 ▼「羊派」 ▼「ペンギン」 ▼「あかなめ」 ▼「支配」 ▼「スーパーワン」 ▼「交尾」 だんだん厳しくなってきました。一応ストックは月末まで毎日更新できる分はありますが、残りはもっと厳しいので(出来が)、どうしようかと迷ってます。あとはお蔵入りでいいんじゃないか、とか。 しかしですね、タグで検索して人様の作品をチラ見してみたりすると、「こんなものが、まさか(失礼ながら)」というくらい、「イイね」されてたりして、なんというか

ゆめゆめ 六の夜

綱渡り  こんな夢を見た。  渓谷に渡したロープの上を歩いていた。  向かう先は霞んで見えず、もと来た方も遥か地平線の彼方に消えていた。ときどき谷底から強い風が吹きつけてきた。命綱もつけてなかった。  とにかく前に進むしかなかった。  足は震え、一メートル進むのにも体力を消耗した。時間もかかった。いくら行っても向こうの先は見えそうになかった。  遠くに鳥が見えた。鳥は真っすぐこちらに飛んできた。  鳥ではなく、ドローンだった。 「郵便です」  搭載されている音声アプリが喋っ

ゆめゆめ 五の夜

夢の記憶  こんな夢を見た。  ある男が同僚を訪ねて一緒に酒を飲む。最初こそ楽しくやっているが、男が共通の知り合いである女性の話を持ち出すと雰囲気はいきなり険悪になる。  その女性とは男の元恋人であり、今ではその同僚と付き合っているのだ。  男は挑発的な言葉を投げつけ、ねちねちと同僚をなじる。最初は耳を貸さない同僚だが、男が恋人の品性を貶めるようなことを言うと思わず手が出てしまう。  男はそれをきっかけにしてポケットに忍ばせていたナイフを取り出す。相手が先に手を出すのを待っ

ゆめゆめ 四の夜

華々しき生涯  こんな夢を見た。  街の中を歩いている。目的は自分でも分からないが、今自分は夢を見ているのだということは分かっている。  停留所に停まっていたバスに乗る。乗客は他に誰もおらず、運転手もいない。仕方なく、自分で運転することにする。  バスはデパートの店内を走る。什器をなぎ倒し、ガラスを突き破り、やがて階段口に突っ込んで止まる。  バスから降りて自分が破壊した道を振り返ると、どこか誇らしい気持ちにすらなる。救急隊が駆けつけて現場はえらい騒ぎになる。 「あなたの仕

ゆめゆめ 三の夜

 ある情景  こんな夢を見た。  風がそよぐ中で、わたしは洗濯物を干している。草原にぽつりと建つ、丸太小屋のような家の庭先である。雨上がりの晴天で、地面には大きな水たまりがいくつもできている。水たまりには青空が映り、わたしはシーツを広げながら誰かの帰りを待っている――。  言葉にするとたったそれだけのことだった。  もっとずっと長い夢の気がした。長編映画ほどのストーリーがあり、その中で名状しがたい感情が複雑に絡まりあって流れていたように思えた。  それなのに、いくら思い出そ

ゆめゆめ 二の夜

 小石を蹴る  こんな夢を見た。  小石を蹴飛ばしながら一人で帰り道を歩いていた。大人の体だったが、ランドセルを背負っていた。蹴った石が向こうから歩いてきた男の人に当たってしまい、ぼくはしまったと身を固くした。  その男の人はどこか変だった。よく見ると、顔が完全に左右対称なのだった。左右ともに同じ目、同じ眉、同じ耳をしていた。ぴったり真ん中で分けられた髪の毛、まったく同じ角度につり上がった口角。奇っ怪で恐ろしい顔だった。  怖くなって逃げ出すと、男の人は怒鳴り散らしながら追