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ゆめゆめ 二の夜

 小石を蹴る

 こんな夢を見た。
 小石を蹴飛ばしながら一人で帰り道を歩いていた。大人の体だったが、ランドセルを背負っていた。蹴った石が向こうから歩いてきた男の人に当たってしまい、ぼくはしまったと身を固くした。
 その男の人はどこか変だった。よく見ると、顔が完全に左右対称なのだった。左右ともに同じ目、同じ眉、同じ耳をしていた。ぴったり真ん中で分けられた髪の毛、まったく同じ角度につり上がった口角。奇っ怪で恐ろしい顔だった。
 怖くなって逃げ出すと、男の人は怒鳴り散らしながら追いかけてきた。まるで壊れたレコードみたいに同じ台詞を繰り返していた。ちらりと振り返ってみると、操り人形みたいにでたらめな走り方だった。捕まったらただでは済まなそうだった。
 なんとか逃げおおせると、急に喉が乾くのを感じた。ちょうど自販機があった。さっきからポケットの中で小銭がじゃらじゃら鳴るのを感じていたところだった。
 小銭を投入口に入れると、自販機は何も反応しなかった。壊れていたのだ。ぼくは気がつかないまま小銭をすべて入れてしまった。返金レバーを下げてもお金は取り出せなかった。
 急によく行くカフェのお気に入りの店員さんに会いたくなった。お店に来てみると、初めて見る店員が一人いるだけだった。彼女は自己紹介をした。ぼくにはうまく発音できない、外国風の長い名前だった。
 ここに来た目的がばれないように振る舞ったが、なんとなく見透かされているような気がした。恥ずかしくなって帰ろうとすると、外国風の名前の店員は引き留めようとするかのように意味のないことをべらべらと喋り続けた。
 彼女の話にあいまいにうなずきながら、ぼくはパスタが茹であがるまでの時間を気にしていた。いつの間にパスタなんか茹ではじめたのか自分でも分からなかった。茹で時間が七分のパスタだった。
 結局、何も注文しないまま閉店までカフェにいた。店内を見回すといつの間にか客も店員もみんないなくなっていた。
 ぼくは茹で過ぎたパスタのことを考えながら、小石を蹴飛ばして家に帰った。



いただいたサポートは子供の療育費に充てさせていただきます。あとチェス盤も欲しいので、余裕ができたらそれも買いたいです。