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フードデリバリーから考える「飲食店DX」の未来

マップボックス・ジャパンの高田です。

最近、新型コロナ感染症が落ち着いた後の「フードデリバリー」の動向がとても気になっています。

「デリバリー(配達) × 地図」は、密接な関係にあり、また「店舗 × 地図」は顧客が店へ足を運ぶときに欠かせないものです。

飲食店などの店舗は、特定のエリアに根ざしたローカルビジネスであり、地域経済の”要”です。みなさんは日本全国に飲食店がどれぐらいの数があるかをご存じでしょうか?

なんと国内には約50万もの飲食サービス事業者がいるそうです(総務省統計局「平成28年 経済センサス‐活動調査」より)。

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個人的にも、また地図情報サービスの開発プラットフォームを提供するビジネス事業者としても、コロナ状況下で苦境のなかにあった飲食店になんらかのカタチで貢献したい気持ちがあります。

そこで、今回は「フードデリバリー」サービスの最新状況をリサーチしながら、地図にできることは何かを考えてみたいと思います。

フードデリバリーの利用者が急増した背景は?

フードデリバリー系の上位5アプリの月間利用者数(MAU)は850万人程度。実に前年比で約3倍の飛躍的な伸びとなっています。利用者が多いのは首位の「ウーバーイーツ(Uber Eats)」と2位の「出前館」です。両アプリの合計MAUは、上位5アプリの約8割を占めます(日経MJ)。

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最近は、テレビCMなど積極的なプロモーション施策を実施しており、クーポンなどの割引で多くのユーザーの利用を促しています。

では、フードデリバリーの利用者が急増した背景は何でしょうか?

一般的によく言われるのが、ポストコロナにおける消費者の行動変化です。ハーバード・ビジネス・レビュー (Harvard Business Review)誌に寄せられた論説には、①在宅勤務の増加、②単身世帯の増加、③密集環境を回避するニーズの増加、という3つが、消費者行動の変化として挙げられています。

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こうした行動の変化が、フードデリバリーの需要を喚起したのはまちがいないと思います。

実際に、「外食業態(レストラン)」は前年同月比10~50%程度減少しているのに対し、「出前」は2020年5月が204%増、21年5月が159%増と一人勝ちの様相を呈しています(下図いちばん右)。

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(外食・中食市場情報サービスを提供するNPD Japanのリサーチより)

こういった論説やデータだけを見れば、コロナの影響による”ステイホーム”のような消費者の行動変化がフードデリバリー利用者の急増につながったと結論づけられます。

しかし、本当にそうでしょうか?

さまざまなデータをリサーチしてみましたが、どうやら理由はそれだけではないと思いました。

進化する”飲食店のフードデリバリー対応"

消費者だけではなく、フードデリバリーに料理を提供する飲食店の変化も大きかったようです。

フードデリバリーのように「飲食店」と「消費者」の2つを結びつけて販売することを”プラットフォームビジネス”と表現することがあります。次の図のようなイメージです。左側に「飲食店(ToB)」、右側に「消費者(ToC)」がいます。

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消費者からの注文が多ければ多いほど、飲食店も売り上げが多くなるので参加店舗も増える。逆に、飲食店が多いほど”料理”の選択肢が増えるので、フードデリバリーを注文したいと思う消費者が増えます。

調べてみると、やはり参加する飲食店の数は急拡大していました。ウーバーイーツは2021年5月に、35都市、10万店を超えたとアナウンスしています。

同じく出前館は2021年7月に、8万店を超えたとアナウンス。1年前の同月が約3万店だったので、わずか1年で5万店を獲得した計算です。

この店舗数が、いかに驚くべき数字なのかを示すのは、次の「飲食店予約サイトのネット予約対応店舗数」のデータです(2020年7月時点)。インターネットで席の予約できる店舗数は、最大手の「ホットペッパーグルメ」で4万3322店でした。

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つまり、今やフードデリバリーで注文できる数のほうが、レストランを予約できる店舗数よりもはるかに多くなっていたのです。いろいろと調べていた中でも、この数字が私もいちばん驚きました。

すでにフードデリバリーは、消費者が増えるほど、参加する飲食店が増えるという好循環になっていました。

市場規模は、次のグラフのように右肩上がりになると予測されています(ICT総研「2021年 フードデリバリーサービス利用動向調査」より、2021年4月)。

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こうしたことをふまえると、国内でもいよいよ本格的な飲食店のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が始まったのではないかと感じました。

「飲食店DX」で”どう変わるべき”なのか?

フードデリバリーで、飲食店はどうデジタル化していくのでしょうか?

それを考えるにあたり、出前館COOの藤原彰二さんの『それっておかしくね? 「素朴な問い」から始める出前館のマーケティング思考 』(ダイヤモンド社)というを読んでいたら、とてもおもしろい図がありました。

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そもそも、店舗での飲食(①イートイン)だけではなく、持ち帰り(②テイクアウト)、そして出前(③デリバリー)の3つを前提として、飲食店を考えているのです。

これまでの飲食店は、①イートインを前提にして売り上げから「家賃・人件費・食材費」などを引いたものを利益としていたため、どれぐらいお客さんの回転数を上げるかが勝負でした。

たとえば、「俺のフレンチ」など「俺の○○○」という系列で有名な俺の株式会社は、原価率45%という謳い文句で、回転率の高さをウリにしていました。つまり、「お客さんの回転率の高さ」がコロナ以前の飲食店の勝負どころでした。

ところが、コロナ以後の勝負どころは「①イートイン、②テイクアウト、③デリバリー」の合わせ技です。これまでの定石が通じなくなった、というわけです。

では、飲食店はどのように対応したらよいのでしょうか?

出前館の藤原さんは、飲食店の予約でいちばん多いのは1、2日前であることから①イートンを「1〜2日後のニーズ」と呼びます。そして③デリバリーは配達時間を入れて「30分後のニーズ」、②テイクアウトは思い立った瞬間に食べたいから「0分後のニーズ」と整理しています。

すると、②テイクアウトは「すぐ食べたい」というニーズなので、藤原さんは次のように述べています(太字は筆者)。

実はテイクアウトに「出来たて、熱々」であることのニーズは、それほどありません。「出来たて、熱々」を優先したい人は、むしろデリバリーを選択します。ということは、テイクアウトメニューは「作り置き」でも構わない、ということになります。

「なるほど!」と私は思いました。たとえば、テイクアウトの商品を買いに来たお客さんが商品がなくて立ち去ること(機会ロス)と、作り置きの商品をダメにすること(廃棄ロス)には、トレードオフの関係があるのだ理解しました。

こうした考え方は、コンビニでは当たり前だったかもしれませんが、テイクアウトを初めて扱う飲食店にとっては馴染みがないものだと思います。

藤原さんのには、「①イートイン、②テイクアウト、③デリバリー」の合わせ技を考える上で、ヒントになる話がたくさんありました。興味あればご一読ください。

PayPayが仕掛ける「店舗DX」のゲームチェンジ

さて、こうした飲食店DXを加速する大きな流れを強く感じた出来事がありました。2021年8月に行われたキャッシュレス決済サービス「PayPay(ペイペイ)」のオンライン記者発表会です。

これまで大きな消費者還元施策で話題をつくってきたPayPayが「ついに手数料を有料化した」ということで、メディアでも大きく取り上げられて話題となりました。

PayPayはスマホ決済の取り扱い高で68%、回数で66%と圧倒的なシェアとなったことが報告されており、ユーザー数・加盟店数も右肩上がりに増えてきました。

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PayPayは加盟店向けの「PayPay for Business」アプリで提供していた店舗紹介サービスを拡大し、「PayPayマイストア」の名称で新たに「ライトプラン」という有料プラン(月額1980円)を設けました。「ストアページ」に店舗の写真や説明などを掲載し、クーポン配信などでマーケティングツールとして機能する仕組みです。

PayPay取締役副社長執行役員COOの馬場一さんは、インタビューで次のように語っています。

「決済で大きく儲けるつもりはない」「できれば“トントン”くらいの水準で、決済をプラットフォームとして、その上で『PayPayマイストア』のようなサービスであったり、PayPay銀行と連携してのローンなどの金融サービスを提供することで利益としていきたい」(馬場氏)

つまり、決済手数料だけがメインビジネスではなく、「PayPayマイストア」のような月額課金のサブスクリプションや金融サービスで収益を上げていきたいと言います。

馬場さんのオンライン記者発表会でのプレゼンに、「店舗運営のデジタル化を推進」と題したスライドについて語る場面があり、さまざまなツールが提供される予定であることがわかりました。

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PayPayの加盟店は飲食店だけではありませんが、「PayPayマイストア」のサービス内容を見て一つ感じたのは、これまでの”飲食店向けネットサービス”との違いです。

これまでの飲食店予約サイト運営では、エリアマネージャーなどの営業担当者がいて、”ご用聞きに回る”というイメージがあります。前提にあるは「飲食店は忙しいのでインターネットやデジタル化ツールを使いこなすのは難しい」というものだったように思います。

しかし、PayPayは「店舗が主体性をもってデジタル化ツールを使ってください」という発想であり、「SaaS(Software as a Service:サービスとしてのソフトウェア)」の発想に思えました。ここに飲食ビジネスのゲームチェンジを感じました。

キャッシュレス決済で飲食店はどう変わる?

先ほどまでは、コロナ以後の勝負どころは「①イートイン、②テイクアウト、③デリバリーの合わせ技」という話でした。

しかし、キャッシュレス決済サービスまでがDXされるとなると、もう一つ先の勝負どころまでが見えてくるような気がしました。たとえば、①イートインにおける「テーブル注文」や、②テイクアウトの「ピックアップ注文」です。

QRコード決済の先進国である中国では、飲食店の席についてもメニューはなく、テーブルにあるQRコードを読み込んで注文から決済までをすべて自分のスマホで完結する方式が多くあります(中華IT最新事情「中国で急速に浸透する飲食店の「スマホ注文」」より引用)。

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②テイクアウトも10分、20分前にオーダーが届く「ピックアップ注文」なら、「0分後のニーズ」だけではなく「10-20分後のニーズ」を作り置きではない熱々の料理を提供することで実現できるかもしれません。

当然、こうした①②③の注文のすべてが同じ決済で行われるならば、どういう料理がどういう顧客に対して人気があるかなど、インターネットと同じようにデータ分析できるようになっていくはずです。

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このように考えていくと、「①イートイン、②テイクアウト、③デリバリーの合わせ技」での勝率を上げようとすれば、飲食店はデジタルのツールを上手く使いこなすことが求められるようになるのかもしれませんね。

最後に、地図にできることはあるか?

冒頭に書きましたとおり、私がCEOを務めるマップボックス・ジャパンは、地図情報サービスの開発プラットフォームを提供する事業者です。最後に、あらためて私たちにできることを考えてみます。

まず、飲食店での①イートインについては、現在は「1〜2日後のニーズ」ですが、もしかしたら地図を起点にすればユーザーの「10分後〜3時間後のニーズ」をつかまえることができるかもしれません。

以前、「地図×広告」に関するnoteを書いたときに、地図は”意図(インテンション)の瞬間”をとらえるものだと紹介しました。地図を開くとき、ユーザーは「どのレストランへ行こうか」などの明確な目的を持っているからです。

地図を搭載したアプリを開いた時点で、ユーザーが求める適切な飲食店をオススメできることができれば、①イートインへの誘導は可能です。もし、店内の席が空いていなければ、そのまま②テイクアウトに誘導することもできるでしょう。

さらに、地図のナビゲーションは、目当ての飲食店(目的地)までの到着時間を表示できるので、ユーザーにとっての時間コストを計算できます。「きょうは行くのが面倒くさいから、家にしよう」と③デリバリーへ誘導できるかもしれません。

このように、地図アプリや地図情報サービスは、①イートイン、②テイクアウト、③デリバリーの新たな3つの軸が求められる飲食店ビジネスの起点の一つになれるはずです。

これからも飲食店にとって欠かせない存在となるため、地図情報サービスの開発プラットフォームとして、自分たちの技術力に磨きをかけていきたいと思います。

あとがき

地図は、みなさんの日常に溶け込んでおり、ふだんの生活ではほとんど目立たない存在です。

いくら「地図ビジネスには未来がある!」とお伝えしても、ほとんどの方には伝わりにくい。ですので、みなさんに興味を持ってもらえるような話題から、いつも地図ビジネスとの接点を考えています。

今回はフードデリバリーをテーマにした記事でしたが、少しでも「学びがあった」と思っていただけたなら、とてもうれしいです。

もし地図を使ったビジネスでご相談があれば、TwitterのDMなどでいつでもご連絡ください。すぐに私が対応できなければ、適切な社内の担当者につなぎます。

これからも「こんなに便利なデジタル地図があるのか」と、ユーザーの方々にサプライズを与えられる開発プラットフォームを提供していきたいと思います。

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