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着眼点4:ビジネスモデル(収益構造)の競争力はあるか?

事業戦略大学(教員1名・生徒無限大)「成功する事業戦略計画の7+1の視点コース第5回」


■驚異的なアイリスオーヤマのビジネスモデル


宮城県仙台市に本社を置くアイリスオーヤマ。2019年12月決算で売上5,000億円、従業員約3500人で、2000年代に入ってからは家電市場に参入し、いまや家電業界でも存在感は大きい。創業時は、プラスチック成型品をつくっていた大阪の零細企業であったが、二代目の大山健太郎社長の代で、プラスチック成型品をベースにペット用品、園芸用品、家庭用品等を製造し事業を大きく拡大した。だいぶ前だが日経ビジネスのウエブサイトの記事を書いてい2005年ごろ、仙台の本社に伺って大山社長から直接お話を伺ったこともある。2時間ほどのインタビューであったが、透明性の高い経営と、大山社長ご自身が考え抜き、実践してきたビジネスモデルが実に戦略的でとても印象的で今でも覚えている。

アイリスオーヤマは2002年から″セールスエイドスタッフ″と呼ばれる派遣スタッフを大手ホームセンターの売り場に派遣している。セールスエイドスタッフは、アイリスの商品にかかわらず、店頭に買いに来た消費者の相談にのる販売支援を行う。その際に消費者とやりとりをした情報は、スマホからメールでアイリスオーヤマの本社に送られ、それが、製造・営業。開発などに反映される重要な情報となるのだ。「全国のSASが本部に向けて送信する日報の件数は1年間に約80,000件。 彼女たちがお客様との対話から見つけた潜在的なニーズや課題は、ただちに商品開発部門にフィードバックされ、商品開発や改善に活かされる」(アイリスオーヤマ Webページより)店頭のレジのPOSデータよりも早く、しかも質の高い情報である。

アイリスオーヤマは3年以内に発売された新商品が販売中の全商品の5割以上の割合にすることを目標を掲げて毎年達成している。そのアイデアは毎日、部門や年代を問わず多くの社員から寄せられる。アイデアが消費者から来ることも少なくない。社内外では、つねにアイデアコンテストが行われ、競ってアイデアが出される。また、年間数千点以上出される新製品は、大規模小売り店の店頭にさえ置ききれない。そのため消費者は、自分の好みの商品をアイリスオーヤマのネットで購入するようになる。とくに、ペツト用品、園芸用品を購入する人は、単にそれらを購入するためだけにアイリスオーヤマのネットに入るのではなく、自分の趣味に関する情報をもそこで入手する。ときには自分も情報発信側になる。


アイリスオーヤマの製品の多くは中国で製造され日本に輸入される。日本ではホームセンターに商品を卸すメーカーの立場であるが、中国ではその商品の小売りまですべて一貫して直接手がけている。海外ではメーカーというポジションにとどまらず、小売りまでビジネスを広げることによつて高い収益を獲得している。


■ ビジネスモデルは大きな資産である


家庭用プラスチック成型品など生活雑貨を製造する他の日本企業すべてと比較したわけではないが、アイリスオーヤマの収益力は他社と比べて高く、収益自体も安定していると思われる。その成功要因は何か。成長領域なのだろうか、あるいは製品力が高いためか、優秀な人材が多いからか、それとも仕入れ力だろうか。

その答えはビジネスモデルである。ビジネスモデルとは、日本語で収益構造と呼ばれる。その意味するところは、一つひとつの要素の差別化だけでなく、むしろビジネスの構造としての差別化が収益を生むということである。アイリスオーヤマが製造業でありながら小売業を超えたビジネスを展開できるのは、製造業に軸足を置いた独自のビジネスモデルを構築したからだ。このケースから学べるのは、ビジネスモデルの本質は、「ビジネスの構造そのものが将来利益を生む重要な資産になり得る」という考えである。


アマゾンや楽天などは創業から数年間赤字決算が続いてきたが、創業当時から株式時価総額は他社に比べて高かった。それは、彼らが構築したビジネスモデルという仕組みそのものに、将来価値があると考えられているからである。


■ 差別化に成功したビジネスモデルの共通要素とは

では、ステークホルダーに高い価値を感じさせるビジネスモデルの要素にはどのようなものがあるのだろうか。アイリスオーヤマ、アマゾン、アップル、楽天など、ビジネスモデルの差別化で成功している企業をイメージしながら考えてみたい(図表参照)。

202020721事業戦略大学図表⑤


202020721事業戦略大学図表⑥


まず1つ目は、顧客提供価値が高く、他者との圧倒的な差別化が図られていること。やはり、どんな差別化された構造をつくったとしても、商品やサービスの価値が高くなくては成り立たない。

2つ目に、情報を活用した構造であること。顧客情報が直接把握でき、その情報が仕入れ部門、商品企画部門にフィードバックされ、その結果、さらに良い商品・サービスが提供される好循環をつくり出
していること。


3つ目は、既存参入者が発想しないようなアライアンス、アウトソーシングを行っており、それが自社のコア・コンピタンスと連動し、高効率のプラットフォームをつくり出していることである。

4つ目は、従来の発想を超えた自社の経営資源の徹底活用が見られること。その経営資源はコア・コンピタンスとなり、他社がマネできないスキル、能力になっていること。また、顧客の情報が経営資源やコア・コンピタンスをさらに強化するようなフィードバックが存在することなどである。


■ 効果的なビジネモデルを企画するためのポイント

効果的なビジネスモデルを発想するには、いくつかのポイントがある。
まず、 1つ目は、既存の業界の枠組みにこだわらず、顧客の視点で、広くビジネスを把握するセンスを持つことである。業界の周辺や業界を超えた範囲において、つねに業界の枠を超えた発想でビジネスを提える習慣が求められる。


2つ目は、物理的なモノにこだわらず、情報やネットワーク、新たな顧客価値やブランドなど目に見えにくい要素を意識することである。他社がマネしにくい構造とは、情報をはじめとした目に見えにくいものをベースにしたものである。


3つ目は、自社の強み、コア・コンピタンスは何かを徹底して考えることである。ビジネスモデルのほとんどは一社のみでは成立せず、アライアンスが必要となる。効果的なアライアンスのためには、相手が組みやすいように、そして自社を選んでくれるように、自社の何が優れているのかを明確にしておかなければならない。


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