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最も汎用性ある移住施策は、華やかなデザインや戦略的なマーケティングでも多額の補助金でもなく、泥臭い取り組み。愛媛県西条市の事例から。

僕は移住推進の先進地とされる海士町に3年間住んでおり、かつて地域おこし協力隊として移住定住推進の取り組みをしていたこともあり、卒業後もちょくちょく移住定住推進に関する相談を受けることがあります。

マニアなので他地域の事例も蒐集する癖があり、まあまあ移住定住推進に関する取り組みには詳しいつもりです。

その中で、多くの自治体が見習うべきだな、と思う自治体に、愛媛県西条市さんがあります。

すごいぞ西条市

愛媛県西条市は、「住みたい田舎ランキング1位」なんです。特に若者部門では3連覇とのこと。

愛媛県西条市は、株式会社宝島社が発行する『田舎暮らしの本』(2022年2月号)で発表された「2022年版 住みたい田舎ベストランキング」若者世代部門において、全国1位を獲得しました。若者世代が住みたい田舎部門は2020年、2021年に引き続き全国1位となり、3連覇を達成しました。コロナ禍でも移住者が増加傾向にあり、その約8割を若者世代が占めています。
今、西条市に移住してきた若い世代の活力が、さらに次の移住者を呼ぶという好循環を生んでいます。
【出典】愛媛県西条市が3年連続で「住みたい田舎」ベストランキング全国1位を獲得!:時事ドットコム

この手のランキングは総じて眉に唾をつけて読んだ方が良いことは言うまでもありませんが、それでもなお「住みたい田舎」という移住定住推進担当者なら誰もがほしがるタイトルを連覇している、というのはすごいことだと思うのです。

西条市はいたって普通な地方都市

僕は以前半年に一度はバイクツーリングをして色んな地域に訪れてまちづくりの様子を見る、みたいなことをしていました。西条市にも訪れたのですが、この西条市、たしかに良いところです。水も豊かで海も山もある。

でも、そんなまちって、全国各地にいくらでもあると思うんです。正直バイクで西条市に訪れて見た感じ、いたって普通な地方都市だな、という印象を受けました(※)。

※話が脇道にそれますがこちらは決してディスってるわけではなく、日本の地方都市ってどこも水準自体高いと思うのです。自然が綺麗、飯うまい、人優しい、治安良い、文化歴史ある、みたいな……。ので、ここの「普通の地方都市」とは、「日本全国良いまちがいっぱいあるよね・・・! 」という話だと理解してください。

とっても泥臭い取り組みをしていた

ある日、お仕事を通じて、この西条市の職員さんとお話をする機会がありました。これは良い機会だと思い質問をしました。

「どうしてこんなに人気なんですか?」

色んな要素があると思いますが、お話を聞いていて僕が特に重要だな、と思ったのが、職員さん自ら移住希望者さんにアテンドする移住体験ツアーです。

西条市の移住サポートの中でも特に好評なのが、完全オーダーメイド型の移住体験ツアー。なんと宿泊費・往復交通費・食費すべて無料で体験可能!ひと組ごとのリクエストに合わせてツアー内容をカスタマイズします。
【出典】愛媛県西条市が3年連続で「住みたい田舎」ベストランキング全国1位を獲得!:時事ドットコム

職員さんはこう言いました。

「かなり泥臭くやっています」。

どこか誇らしげでした。

条件を徹底比較して移住する人って、そういない。

移住先を探している人、多く見てきました。そこで気づいたのは、「条件面を徹底比較して移住先を決めている人って、ほとんどいない」ということです。

平均家賃や平均年収、もらえる補助金などを徹底比較して最も条件の良い土地に住む。そんなことをしそうな移住希望者さんっていそうなものですが、少なくとも僕はあまり見たことがありません。

ざっくりと参考程度に数字を眺めるとは思いますが、それよりももっと感覚的なものとか、訪れたときのフィーリングで移住先を決めている人の方が多いように思うのです。

受け入れてもらえた、という体験が移住先を決める。

さらにいうと、人は「よく来たね」「また来てね」「君みたいな人に住んでほしい」と言ってもらえるような地域に住みたくなる。これはまぎれもない事実だと思います。ソースは僕です。

だから、人と出会って、受け入れられるという良好な体験を提供する。これが最も重要な移住推進の施策だと思うのです。

会いに行ける人だけを紹介してほしい。

ちょっと話が脇道にそれますが。

地域の魅力は人。だから人をPRする。移住推進のメディア展開の定石です。実際にコンテンツとしては面白いですよね。意思を持って移住し、自分の暮らしや仕事を作り上げているような人の話がつまらないわけありません。

でも、ちょっと聞いてみたいことがあります。

その人は、誰でも会えるんですか?

その人達が語る仲間のネットワークに、移住希望者さんも入れるんですか?

移住希望者さんからすると、会えない人のエピソードを聞いても、それほどありがたくはないはず。だって会えないんなら、つながれないんなら、行ってもしょうがないじゃない。僕はそう思うんです。

だから、先輩移住者さんや、地域の人とつながれるような仕掛けのデザインまでしないといけない。人とつながれる仕掛けとして、西条市さんのように「移住希望者さんにべったりとつく」というやり方は理にかなってると思います。

顧客よりも顧客に詳しくなる。

べったりとつくことの価値について、また別の切り口から見てみましょう。

僕が新卒の会社でシステムコンサルをしていた頃先輩に教わりました。「良いコンサルは顧客よりも顧客に詳しい」ということを。

その人は客先に入り浸り、「これってこうなんですか」と聞きまくったり仕事の様子を見まくったりした結果、お客さんよりもお客さんの運用に詳しくなっていました。

当たり前ですがお客さんからとても信頼されてましたし、お客様の運用に関する知識を生かして企画したソフトウェアの機能もとてもお客様に響いていました。

時は経ち、自治体職員さん向けに研修やワークショップを企画させてもらうようになりました。僕がそのときに毎回伝えているのが、この「顧客よりも顧客に詳しくなる」という視点の重要性です。

崇高な理念を掲げても、空振りに終わってしまう施策、山ほどあります。それはなぜそうなるか。施策の対象者のことをわかりきれていないんだと思います。

だから、顧客よりも顧客に詳しくなる。これがシステム屋さんのみならず、行政職員さんにとっても非常に大事です。

では、どうしたら顧客よりも顧客に詳しくなれるのでしょうか。先輩の姿を思い返してみると、少なくとも顧客と一緒に長い時間を過ごし、色々聴くことが大事なんだと思います。あとはこのスライド(カスタマーマニアになろう)を見るとよいです。

話が長くなりましたが、西条市さんの話に戻ります。

西条市の職員さんは、移住希望者さんにべったりアテンドします。色んな話をすることでしょう。これまでの人生のこと、これからやりたいこと、家族のこと、夢や挫折、好きなスポーツや趣味、共通の知人、他に考えている移住先などなど……。

これらの情報は非常に有益な一次情報です。これからの移住施策を考える上で、「あの人にこの制度は便利だ」「あの人なら喜んでくれるはずだ」と顔が浮かぶようになります。移住希望者さんの解像度が高まるのです。

解像度が高まった結果、響く提案ができたり、刺さる施策が打てたりするようになります。

ので、僕は移住推進部署の立ち上げ相談があったら、「まずはべったりアテンドしましょう」と提案しています。

楽でスマートなやり方ではなく、泥臭い取り組みを。

実は僕も、久米島での移住定住推進の窓口をやっていたときには、「こんな泥臭い取り組みなんて・・・」と軽視していました。

今では反省しています。もっと早くから、泥臭く動いておけばよかった、と。

その後悔もあり、いろんな移住推進の相談をうけるたびに、「べったりアテンドするの、とっても大事です」というようにしています。

スケールしないことをしましょう。

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