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『伝説の再現』J1第31節 札幌対川崎【マッチレビュー】

スターティングメンバー

ベンチメンバー

北海道コンサドーレ札幌
GK 大谷 DF 西 中村 MF 宏武 FW 興梠 ミラン ゴンヒ

川崎フロンターレ
GK 丹野 DF 谷口 山根 MF 瀬古 FW 小林 遠野 宮城

スタッツ

Match Review

 聖地と呼ばれる厚別競技場で行われた試合の中でも語り草となっている97年のJFL川崎戦。通称、厚別の奇跡。終盤まで3-1とリードされていたものの、バルデスの試合終了間際の2得点と延長後半のVゴールで劇的勝利を飾った伝説の試合だ。

 厚別最終戦。そう囁かれる試合の対戦相手がその奇跡の共演者である川崎フロンターレとは、何か因果というものを感じさせられる。札幌にとっては現場もサポーターも一層気合の入るこの試合。最後にもう一度、この聖地で奇跡を起こせるか。

赤黒の土俵にようこそ

 おさらいするまでもないが、札幌はどこが相手であろうとミシャ式&オールコートマンツーマンという基本戦術を崩さない。多少調整することはあれどやり方自体は変えないので、真っ向から強みを消してくる相手などには苦戦を強いられることも多いのだが、その点において川崎は札幌に真っ向から付き合ってくれるチームであった。

 札幌はやはり立ち上がりからマンツーマンプレスを仕掛ける。各対面の選手は下の図の通り。王者川崎といえどオールコートマンツーマンには流石に苦しむようで、試合全体を通してポゼッションよりも知念のポストプレーやマルシーニョの裏抜けを狙ったロングボールに傾倒してくれた。

 札幌にとってラッキーだったのが、この2CB+アンカーの対面。川崎の2CBであるジェジェウと車屋はこちらのマークを外そうとする意思をあまり見せず、バックパスや3トップへのロングボールに終始した。25分に荒野が負傷するというアクシデントで機動力に劣る興梠が投入されたが、その流れは変わらず。また、アンカーのシミッチに質の良いボールが入る回数も少なく、左足一辺倒の選手であるため、狙い所として誘導すればあとはカウンターの起点にできる状態だった。

 そうなれば狙うのは速攻である。今節の札幌はいつもより縦への意識が強く、スペースがあればGXや興梠にボールを送り、スピードのある小柏や両WBに展開して素早くゴールに迫った。先制こそ許してしまったが、この攻撃は川崎相手にも機能しており、1点目と2点目はこの速攻から生まれた。

数試合前までは「横パスバックパスするな!前行け前行け!!」という批判がTLを飛び交っていたが、これには横パスバックパスするなサポーターもご満悦であろう。

 川崎としては点差以上に厳しい展開だ。得意の止める蹴るを生かしたパスワークはマンツーマンプレスに封殺され、守備では速攻に苦しめられた。知念のところでボールが収まれば攻撃は何とかなっただろうが、そこも岡村が一歩上手だった。札幌陣内でのプレー時間を増やそうとこちらも立ち上がりからプレスを仕掛けてはいたものの、WGの裏やサポートに出るIHの後ろで浮いているシャドーを使われ、これも見事に剥がされた。

 川崎は前半、乗ってしまった札幌の土俵から抜け出すことが出来なかった。狙い通りのプレーを遂行できた札幌が一枚上手だったと言っていいだろう。

ここは我らが聖地厚別なり

 後半になると両チームともに縦への意識が強くなり、徐々に試合はオープンで殴り合う展開へと推移していく。

 先に動いたのは川崎。HTに家長との補完性が高い山根を投入。家長を自由に動けるようにするため盤面を調整。さらに56分にジェジェウとシミッチに代えて小林と谷口を投入し、フォーメーションを4-4-2に変更した。

 この交代が川崎に流れを呼ぶ。脇坂のクロスから混戦となったゴール前で知念が押し込み同点弾を奪うと、さらにその5分後にカウンターから札幌キラー小林がゴールを決めて逆転に成功した。

 川崎がフォーメーションを4-4-2に変更して以降、オープン合戦はさらに勢いを増す。札幌は川崎に合わせるため駒井と小柏が一列下りて対応したことで中盤から本職のボランチがいなくなり、川崎もアンカーを排したことで中盤がフィルターとして機能しなくなった。これにより両者とも簡単にボールが行き来するようになり、ノーガードで殴り合うカウンターの応酬となった。

 逆転は許したが、スペースが至る所にある走力勝負の展開は我々にとって望ましい状況だ。川崎はその後の車屋の負傷というアクシデントの影響で、本職CBは谷口一人。厚別の風はまだ札幌に流れていた。

 83分、ドリブルで切り込んだ青木のサイドチェンジを受けたルーカスのクロスにGXが下がり気味のヘディングで合わせ今日二度目の同点ゴールが決まる。

 この直後に橘田がPA前でGXを倒し一発退場すると、あとはもう札幌の流れ。試合終了間近、PA内で前を向いた小柏がゴールの隅にシュートを流し込み逆転。

 両チーム合わせて3回目の逆転弾がネットを揺らし、最終スコアは4-3で試合終了。今季厚別ラストゲームで25年前の伝説を彷彿とさせる奇跡を起こし、札幌が激戦を制した。

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