『価値ある引き分け』J1第3節 アビスパ福岡対北海道コンサドーレ札幌【レビュー】
スタメン
ベンチメンバー
アビスパ福岡
GK 山ノ井 DF 井上 MF 田邊 田中達 金森 FW 渡 デガルト
北海道コンサドーレ札幌
GK 中野 DF 柳 MF 深井 荒野 深井 FW ミラン 中島
スタッツ
試合レポート
■ 札幌の自由を奪う福岡の守備戦術
立ち上がりから福岡の守備がハマる。福岡の基本布陣は4-4-2だが、この試合では3-4-2-1に変更。基本布陣を札幌に合わせることでマッチアップを明確にした。
まず福岡は札幌のビルドアップに対してルキアン、山岸、クルークスを中心にプレスを仕掛ける。まずルキアンがアンカーの駒井へのパスコースを切りながらプレスをかけて片方のサイドへと誘導。それに合わせて山岸とJクルークスがCB-SB間に立って外切り。パスコースがなくなり、無理な縦パスやロングボールを蹴ったところでボールを回収する。
札幌がミドルサードへ前進すると、撤退して5-4-1ブロックを組んで中央封鎖。ルキアンが駒井、山岸とクルークスがCB-SB間を見るのは変わらないが、宮澤と高嶺にはプレスをかけることなく放置。札幌のCB2枚をフリーにしてしまうが、その代わりに福岡のボランチ2枚が5トップの前で常に縦パスを警戒する。シャドーが下りる動きを見せてもCBが動かずにボランチで対応できるため、札幌は中央を使った攻撃が完全に機能しなくなってしまった。
札幌は福岡の守備に阻まれて思うように攻撃を組み立てられない。自陣で引き込んでからの疑似カウンターやマンツーマンプレスからのカウンターで縦に速い攻撃を仕掛けたいが、福岡のシャドーやボランチはそこまで高い位置を取らないため、自陣に引き込もうとしてもスペースが作れない。マンツーマンプレスに関しては、まず福岡にボールを"持たされている"ことから仕掛けるタイミングがない。福岡にボールを渡しても、すぐルキアンや山岸めがけて蹴り返してくるため、やはりマンツーマンプレスは仕掛けさせてもらえなかった。
サイド攻撃やセカンドボール争いを制して前進することもわずかながらもあったが、それも散発的でゴールに迫るまでは至らず。結果として、札幌の攻撃は福岡に完璧に封じられた。
そんな感じで主導権を握るのは常に福岡。ボールを奪ったらルキアンか山岸にボールを収めさせるとそこを起点にシャドー、ボランチ、WBが一気にゴールまで駆け上がり、幾度となく札幌ゴールを脅かす。ルキアンと山岸は宮澤と高嶺に対してフィジカルという質的優位を持っているため、札幌は彼らに簡単に起点を作らせてしまった。しかし、PKは菅野のビッグセーブ、ルキアンのゴールは宮のハンドで取り消し、湯澤の決定的なシュートは菅にクリアされるなど、運と札幌の執念にゴールを阻まれ、得点を奪うまでには至らなかった。
■ 修正によって動き出す札幌の歯車
後半が始まってからも流れは変わらず福岡ペース。だが、60分から試合が動く。札幌が宮澤、駒井、興梠に代えて柳、深井、青木を投入。対人守備と攻撃参加に秀でた柳、守備とセカンドボール回収が出来る深井、ボールを引き出すのに長けた青木。この3人の持ち味が遺憾なく発揮され、チームを活性化させていく。
また、戦術面でも変化が加えられる。札幌はこの時間帯からサイド攻撃が増加。シャドーが流れるなどサイドに人を集めて攻撃することで、中央封鎖したい福岡の意識をサイドに向けさせて福岡の守備を広げようとする。このサイド攻撃が上手くハマり、福岡の中央や逆サイドに徐々にパスコースが生まれ、札幌はピッチを自由に使った攻撃が可能となった。
そうして流れは徐々に札幌ペースに。68分には右サイド奥に抜け出した小柏のクロスを青木がヒールで合わせる。シュートは惜しくも枠の右に外れたが、これ以降チャンスを作るシーンも増えていった。
札幌は69分に菅を荒野、福岡は71分にクルークスと山岸を金森とフアンマに交代。福岡は疲れが見え始めていたため、ルキアンとフアンマの高さを活かした攻撃にシフトしていく。
80分を過ぎると福岡は湯澤を田中達、札幌はルーカスを中島に交代することで攻撃を勢いづけようと試みる。両者ともにゴールに迫るが、福岡は中村のシュートが枠の上へ外れ、札幌は柳のシュートを青木が押し込むがオフサイドの判定でともに最後の決定機をふいにしてしまい、試合は0-0の引き分けで幕を閉じた。
■ 証明されたボール保持の有効性
3試合連続の引き分けとなった福岡戦だが、これまでの2試合とは大きく違う点が1つあった。それがボール保持の時間である。今試合では福岡に長い間ボールを持たされていたため、マンツーマンプレスを仕掛ける回数も少なく、オープンな展開になってピッチの往復を繰り返して間延びすることもなかった。そして、後半途中にガス切れを起こすこともなかった。総走行距離のデータを見ても、清水戦の113.995km、広島戦の114.065km
に比べて福岡戦は107.258kmと過去2試合と約7kmほど総走行距離に差があることが分かった。相手の戦術にハマったことによる怪我の功名だが、これでボール保持によって体力の消費を抑え、布陣をコンパクトに保つことが出来ると証明された。
また、後半の修正後からは福岡の守備をポジショニングとボール保持でチームとして能動的に崩すことも出来ていた。そのため、縦に速い攻撃に頼らずとも、仕組みさえあれば相手を崩して得点できることも明らかになった。速攻だけでなく、遅攻も使いこなせれば、福岡のような相手を上回ることができるようになるだろう。
ボールを保持し、遅攻を使いこなすことが出来れば、間延びやガス切れを防ぎながら能動的に相手を崩すことが可能になる。縦への意識を持つのもいいが、今季は盾への意識が強すぎることも否定できない。相手の出方と自らの状況を見て、戦術を使い分けることができれば、チームにもバリエーションが生まれるはずだ。
あとがき
どうも、鶏つくねです。深夜2時にデータが全て吹き飛び、夜なべして朝6時現在にようやくあとがきまで辿り着くことが出来ました。とても眠いので今回は手短に行きます。
さて、結果を言ってしまえばこの試合は福岡の勝ちに等しい試合でした。戦術面では完璧に福岡に上回れ、札幌は下手に回ってしまいました。昨季の福岡戦の時にも書きましたが、長谷川監督には今回も脱帽です。
それでもこの試合でポジティブに感じられたものが3つあります。まず一つが前述したボール保持の有効性が証明されたこと。そして残り2つが試合の流れを変えられたことと負けない試合が出来たことです。
試合の流れに関しては、交代選手と戦術面の修正が大きく作用しました。相手に合わせた交代選手がここまで機能する試合を見るのはミシャ体制で多分初めてです。特に柳選手は素晴らしい活躍を見せてくれました。選手の成長もありますが、こういった手が打てるのは素晴らしいです。先日の柏戦もそうでしたが、戦術面の悪いところを修正できた試合を見ることも中々ありません。ミシャの理念には合わないかもしれませんが、こういった修正が出来るならどんどんしてほしいと思いました。
"負けない試合をする"というのは、昨季終盤にミシャが掲げた目標の一つです。負け試合を引き分けに、引き分けの試合を勝ちに。そういった目標を達成することが出来た試合だったと思います。それこそ過去の2試合は勝てるチャンスもあったのに、間延びやガス切れから自滅したという捉え方も出来ますから、この点は今回の福岡戦では一つ成長が見られました。これからも勝ち点を落とすことなく、一つでも順位を上げてほしいところです。
というわけで、福岡戦は勝ちは出来ませんでしたが、様々な点でチームの成長を感じられた面白い試合だったと思いました。福岡側の戦術も面白かったですし、次はちゃんと序盤から上回って勝ちたいですね。それではもう睡魔に勝てないのでこの辺で。次こそは初勝利、J1通算100勝を達成しましょう。
終わり
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