幻想


一人の聖が説法をしている

王の悪政を公然と批判している

人々はみすぼらしい彼を一瞥すると

話を碌に聞くこともなく

嘲笑い 愚弄し つばを吐き掛け

しまいには石を投げるものまで現れる

聖は黙ってそれを受け入れて

風のように立ち去っていく



王の元には今日も大勢の人が訪れる

彼に気に入ってもらえさえすれば

立身出世 栄耀栄華 が約束される

彼に取り入るために珍しい品々や財宝中には己の娘まで差し出す者もいる

その中の一人が王にこうささやく

王こそが真の人格者でございます
聖などはもう誰も話を聞くものもなく今や見る影もありません

王はそうかそうかと高笑い

その者は立身出世を約束された




ある晩前人未踏の凍てつく雪山の中でなにやら話し声がする

A お前たちしっかりとやっておるのか

BC  はい、我々はしっかりとやっているつもりでございます

B これ以上ないほどにやっておるのですが、成果はかんばしくありません

C 私も同じでございます 

B 何時もだったらとうに変化が現れてくるはずですが

C 全く以て反応がございません

B ですからそろそろ今回はこれで何時ものようにお願いしたいのですが

A そうか そろそろか わかった

BC それではすぐにでも準備いたします

A その必要はない

BC ?

A 後はまかせた

BC 御裁きは?

A 全て見ておったのだよ

BC ?

A 放っておけば なるようにしかならん それが裁きじゃ

BC はい

A 行くと救いたくなるでな しっかりと 見届けておくれ 王と聖よ

BC 承知しました いつもながら異存は全くございません









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