【ドラッカーの“ジョーク混じりの名言”に学ぶ。2】 辞める事を決めて“集中”しなさい。
ドラッカーは強めのジョーク混じりに、本質的課題をわかりやすく提示してくれる。
ドラッカーの著作の中から “クスリと笑えて印象的で、役にもたつ言葉” をピックアップして紹介するシリーズです。(2019.11.01記事作成)
【今日のドラッカー“名言”】その2
いくつもの球(ボール)を操ることは曲芸である。
できても10分間が限度である。
サーカス団員のピエロが頭に浮かんでくる言葉だ。お手玉をしたり、球の上に立ったり。
重要なのは“集中”
ドラッカーは、繰り返しこう啓蒙する。
「“成果をあげるための秘訣”を一つだけ挙げるならば、それは“集中”である。成果をあげる人は、最も重要なことから始め、しかも一度に一つのことしかしない」、と。
この“秘訣”には、2つの要素が含まれている事がわかる。
1つは“優先順位づけの重要性”で、もう1つが“シングルタスクの重要性”だ。
「シングルタスク」の重要性
“シングルタスクか、マルチタスクか”。
このふたつの言葉はいつも対になって登場する。
この言葉は、仕事を進める上での“スキル”の話しで、マルチタスクのほうは複数の仕事を同時に推進したり片づけたりしていくビジネススキルを指しており、個人的な印象だと、2000年代頃はけっこう「ビジネスにはマルチタスクが重要だ」という記事を見かけていた記憶がある。
しかしいまググッてみると、「マルチタスクは効率が悪いので、これからの時代は“シングルタスク”の能力を身につけなさい」という記事のほうが多くみえる。(両方の推薦者がもちろんいるが)
その中から、いくつか記事を引用紹介しよう。
マルチタスクとは、さまざまなタスクに対応して『常に気が散っている』状態であり、実際には役に立っていない。一つの作業に集中するシングルタスクは『結局、何もできなかった』という日をなくすものであり、マルチタスクをやめた瞬間、生産性は10倍になる。
アメリカ心理学会のとある研究によれば、2つの作業をマルチタスクに切り替えながら行うのと、シングルタスクで1つが終わってからもう片方を行うのでは、どうしてもマルチタスクのほうが遅くなったという報告がされています。そのロスは、シングルタスクに比べておよそ40%というのですから見過ごせません。
私達人間の脳は本来マルチタスクが苦手。脳が一度に注意を向けられる総量は有限だからです。これを、心理学では注意資源(アテンショナル・リソース)と言います。
にもかかわらず、「○○の案件の資料を作らねば」「××の件、返事まだかな」といった具合に、現代人は、常に多くの事柄に意識が分散しています。すると、脳は常にアイドリング状態で、休むことができません。
こういう“シングルタスクかマルチタスクか”のような二元論の議論は、社会変化や背景技術などの影響も受けるので、流行に“波”があると思う。
ITが今ほど整っていない1990年代に比べ、ネットやメーラーやオフィスのグループウェアが発展した2000年代は、これらの新たなツール環境を使いこなし過去より沢山の人たちと同時多発に効率よく沢山の仕事をこなそうという課題感があったから“マルチタスク”が推奨されて、
それが2010年代になると、逆に情報量の飽和が想像以上に進み、大量すぎる情報に埋もれずにやるべき事に集中する“シングルタスク”が注目されるようになったのかもしれない。これは仮説だが。
さて、ドラッカーの最初の言葉に戻ると、
ドラッカーは、「曲芸師(サーカス団のピエロ)でもなければマルチタスクは向かない」と語っていると読みとれるが、そのあとの文章を読むと、本質的には“スキル”の話しはあまりしていない。
「優先順位づけ」の重要性
ドラッカーは、経営とマーケティングの専門家だ。
そのドラッカーが“集中”のために必要なのは、個人のテクニック以上に「捨てる事だ」と説明する。
集中のための第一の原則は、生産性でなくなった過去のものを捨てることである。
仕事を定期的に見直し、「まだおこなっていなかったとして、いまこれに手をつけるか」を問うことである。
不毛な試みに消費されるのが、最も有能な人たちの能力である。
シングルタスクであろうがマルチタスクであろうが、まず優先順位がきちんと設定されていないと、“手をつけるタスクが間違ってたら意味がない”のだ。
何に着手するのか。
つまり“優先順位づけ”が何より重要だと説く。
古いものの計画的な廃棄こそ、新しいものを強力に進める唯一の方法である。
「優先順位」という言葉よりも、ドラッカーは「劣後順位」という言葉をよく使う。聞き慣れない言葉だ。
優先順位とは“何から順番に手をつけるか”だが、劣後順位とは“何から順番に手をつけないか”だ。
「やらないことを決める」である。
優先順位の決定は比較的容易である。
劣後順位の決定、すなわち取り組むべきでない仕事の決定とその決定の順守は至難である。
劣後順位第一位を決定することは楽しいことではない。誰かにとってはそれが優先順位第一位であるに違いないからである。(しかしそれでも重要なのは過去を捨てることである)
まとめ
それではあらためて、最初のドラッカーの“ジョーク混じりの名言”を再掲しよう。
最初と印象が変わっているかもしれない。
いくつもの球(ボール)を操ることは曲芸である。
できても10分間が限度である。
ここでドラッカーが皮肉っているのは、“マルチタスクスキル”でもあるが、それ以上に「優先順位をつけられていない事」である。
それは「辞めることを決められていない事」ともいえる。
辞められずに「あれもこれも」と言い続けている限りは、それは曲芸師だとドラッカーは笑うのだ。
(おわり)
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