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ホテル業・旅館業の再建計画 取引行の思惑 経営者の対立を調整するドラマ

今回は『ホテル業・旅館業の再建計画 取引行の思惑 経営者の対立を調整するドラマ』というお話しです。コロナ禍で旅館ホテル業の経営で苦しむ経営者も多いと思います。コロナ以前のお話しとなりますが参考になれば幸いです。経営者の方に届くと嬉しいです。

1.地方における旅館ホテルの重要性と事業再生のポイント

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地方において観光産業の基盤となる旅館ホテルは、地域のおもてなしを代表する顔役であり、関係する裾野も広く(農業・漁業・観光業・八百屋・肉屋・魚屋・リネン消耗品等)、雇用の担い手(フロントスタッフ、サービススタッフ、料理人、清掃員、ドライバー等)としても、地域経済に一定のインパクトがあります。

小さい町村になると町に1軒だけの場合もあり、そこを失えば観光客が宿泊で訪れることのない町になってしまいます。そうなると当該の市町村は観光で町の活性化をするには大きな制約を抱えることになります。それだけに旅館ホテルの再生は地域としての一大関心事となりえるのです。

旅館ホテル業は従事してみると分かりますが、お客様の為に尽くす大変な仕事で朝昼晩関係無く働き詰めになりかねない仕事です。企業として成長し、分業が確立し、サラリーマンを従業員として配置できるようになるのはホテル旅館業のうちの一部であり、特に地方の旅館ホテルは、自宅にお招きする心づくしのサービスの延長線上に今もあります。それが悪いと言っているのではありません。

私が過去に関与した多くの旅館ホテルもまた、そのような家業として始まり、お客様のニーズを叶える事で旅館として成長、更に温泉付となり、宴会場を備え、本館と別に新館も建設、更には冠婚葬祭を扱い事業を拡大したという会社でした。

どこの町でもこのような経緯の旅館ホテルはあると思います。

そのような経緯の中で、本件の先代経営者はメインのホテル旅館業以外にも赤字体質のグループ会社を作り、メインの会社から資金援助をする事により、債務肩替わり→債権放棄→財務状況悪化→メイン会社も債務超過転落という道をたどりました。

ホテル旅館は装置産業とも言われ、「まず始めに巨額の設備投資を行い、その借金を長期で返済する」ビジネスモデルです。バブル期には好景気を前提にした客単価を想定し、巨額の設備投資を行い、不良債権化した施設も多くありました。コロナ禍ではオリンピックやインバウンド需要を見越した民泊投資も見誤ったという意味では類似の不良債権や倒産が発生しやすい構図にあると思います。

結果として、本件の先では資金も人材も分散してしまい、必要な建物や設備の維持更新投資もままならず、老朽化した設備だが、地域のニーズを多角的に満たすことにより存在を許されている感じの施設でした。

ホテル旅館のマネジメントのポイントは、減価償却費を次の投資の為に貯蓄できているかです。施設の魅力を維持更新する上での大事な要点ですが、日本の旅館ホテル業は創業時の巨額の設備投資による負債を返済する為に、減価償却費同等額を返済し、いつまでも貯蓄が貯まらない。利益も蓄積せず、金融機関への信用も積み上がっていかないという施設が多く、結果としてそのような施設に、事業再生の必要が迫ってきます。

本件の施設では、耐震補強の必要性が新聞にて報道された為、対応が急務になりました。新館こそ耐震基準を満たしていましたが、本館は適合せず工事に取り組まざるおえなくなりました。既に金融機関への返済はリスケジュールしており、設備投資に必要な資金が借りられる見込は無く、もちろん貯蓄があるわけでもありません。


2.兄妹の確執はそれに敵味方する関係者を巻き添えに

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リスケジュールしながらも、まとまった金額の設備投資を行う。一般論で言えば、金融機関として本音を言えば「ふざけないでください、そんなお金があるのであれば約定通り返済して下さい」という所です。

しかしながら、その旅館ホテルが地域経済においてどのような役割を占めるのかを考え合わせ、金融機関も政策的な判断をする事があります。また、現在では既に金融検査マニュアルは廃止され金融庁は「格付けに関わらず、金融機関は独自の融資判断をしてよい」としています。

特に旅館ホテルの場合は、1年365日休まずに施設を運営することが原則となっているため、施設の稼働を止めることに繋がりかねない、水回りのトラブル、空調関係のトラブル、ボイラー、エレベーターなどについては不可避的に緊急で対応しなくては売上を諦めるだけでなく、施設運営を断念しかねない、倒産リスクに直結します。

その為、水回り、空調、ボイラー、エレベーターなどについては、リスケジュール中にニューマネーの融資を決めた金融機関を見てきました。また、ニューマネーが出ないまでも、リスケジュールへの協力により、設備投資資金が貯蓄できるように返済金額や返済期間を配慮する事例は多くあります。

本件でも、そのような合意形成をすべく鳥倉に依頼が来たわけです。なぜ鳥倉のような専門家を雇う必要が出たのでしょうか。単純なリスケジュールであれば、会社と金融機関で合意が可能だったはずです。

実は、本館と新館の建設資金が別々の金融機関から融資されており、比較的経営が順調な新館に融資していた金融機関側が難色を示していました。また、同族経営の同社ですが本館と新館の責任者としての経営者が兄妹で分かれており、対立関係にあり両者で相談して経営改善計画書をまとめるというコミュニケーションが困難な状況にありました。

耐震補強問題、メインサブメインの対立、同族関係の困難さと三重苦とも言える状況にありました。

3.金融機関の経営体力により再建計画は変わる!?

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意外に思われるかもしれませんがメインバンクの経営体力により、再建計画の内容が変わることは事実としてあります。正しい再建計画と採用される再建計画には差があるのです。法的整理(民事再生、会社更生、破産)によらない、私的整理による事業再生はステークホルダーの合意形成により成立します。逆を言えば、合意形成ができなければ法的整理のような強制力はありません。その為、ステークホルダーの中でも重要な位置を占める債権者としての金融機関の意思決定は重い意味を持ち、金融機関の合意無くして私的整理による事業再生は成り立たないとも言えます。

再建計画とは、金融機関にとり不良債権をどのように処理するかと同じ意味を持ちます。再建計画に協力することにより、金融機関の債務者区分が変わります。正常先→要注意先→要管理先→破綻懸念先→実質破綻先→破綻先へと格付けし、それに見合った貸倒引当金を計上します。

貸倒引当金は、金融機関にとって融資した資金と別にそれだけの資金を寝かす意味合いを持ち、返済がしてもらえないだけでなく、格付けに応じてその破綻に備えて資金を積むという二重の負担となります。

ただし、貸倒が現実のものとなり、貸倒損失を計上すれば税務上の損金となり利益と相殺できるだけでなく、貸倒引当金を積む事が無くなります。二重苦ならば、せめて一重苦を受け止め利益と相殺したいと考えるのは、金融機関だけでなくお金を貸して返済されなかったことがある経営者ならば考えたことがあるはずです。金融機関はお金を貸すのが仕事ですから、もちろんそういう案件がたくさんあり自身にとって合理的な検討をしています。

しかし、金融機関の経営体力が無ければ当たり前ですが「貸倒損失による損金」が欲しいなどとは思えず、何としても返済して欲しいと考えます。結果として、回収可能性が低かったとしても、債権回収ができるという計画を望みます。正しい再建計画と採用される再建計画が違うのはこのような都合によるものです。

事業再生では、このような現実に直面することが多く、実抜計画(実現可能性が高く抜本的な計画)という言葉が作られ金融庁も、債権者都合による「おためごかし」の計画が作られていないかを見ています。

本件では、調子の悪く耐震補強が必要な本館のメインバンクは経営体力が弱く「おためごかし」の計画を望み、調子の良い新館のサブバンクは経営体力があるため当社に資する実抜計画を望むという、同床異夢の状態にありました。

4.再建計画の策定により問題発覚

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当社の案件は、「本館」vs「新館」・「兄」vs「妹」・「メインバンク」vs「サブバンク」・「設備投資」vs「返済」といった「あちらを立てればこちらが立たない」という対立軸が入り乱れておりました。事業再生の渦中にある会社とは得てしてそのようなものです。

このように対立する軸が多い場合は、全ての勢力と逃げずに対話し印象ではなく、事実に基づいて解決の糸口を探す必要があります。鳥倉自体が旗幟鮮明にして誰の味方であるとのポジションを明確にすれば、真実を話してもらう機会を失います。

依頼者に忠実であるというクライアントファーストは、結果において最優先されますが、過程においては事実を中立的に解明する姿勢が必要です。金融機関に対しても同様の姿勢が求められます。最重要のステークホルダーですが、再生に資するという観点での一致が第一です、経営悪化の際には必要な情報が金融機関に届いていないことが多く、まずは現状把握のための情報提供により信頼を得ていきます。

従来、兄と妹の対立のため、本館新館をまたがった経営管理がされておらず決算書だけ繋がった状態でした。結果として、「兄・妹」と「メイン・サブメイン」も双方共に横断的な情報を知り得ておらず、統一的な再建計画の立案はできていませんでした。

調査の結果、兄の私的流用や職務怠慢などが見つかり、その善後策を改善計画に織り込むと共に、マネジメントの舵取りは妹が主軸となりました。メイン・サブメインも耐震補強の必要性では見解が一致し、必要な資金確保の為のリスケジュールには協力するとの支援体制が構築されました。

5.オーダーメイド型リスケジュールと後日談

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通常、リスケジュールにおいては、多くの事例で単純プロラタ方式といわれる債権残高に応じて返済財源を比例按分する方式がとられます。その方が債権者間の担保状況の差や利害関係の差がある中でも緊急避難的に現実に即した早期のリスケジュール合意形成が可能だからです。

しかし、本件では新館本館から上がる収益による返済財源を分離した上で、メインバンク・サブバンクへ一定の根拠の下、配分するという案に落着しました。

私的整理はオーダーメイドすることが可能と言われる由縁ですが、丁寧な対話からひねり出された再建計画となりました。メインバンク・サブバンク共に一定の譲歩を引き出し、耐震補強への投資額を確保しました。更には合理的な再建計画のもとのリスケジュールであったこと、返済が長期化する一方で将来的な完済への道筋が示されたことが評価されました。

こうして大団円を迎えた本件の再生。幕を閉じるかと思われました。その後、金融庁が金融検査マニュアルを廃止、格付けや貸倒引当金の議論については金融機関の裁量によると政策が変更しました。

そのような政策的な変更のもと、サブバンクがメインバンクの債権を肩代わりする形でメイン替えを行い、返済財源を統一し、正常債権として正常化への道を開いたのでした。

当時は鳥倉も格付けによる思い込みも強く少なからず驚きました。新館本館の財源を分離したことにより、一定程度の返済はリスケジュールに際してもサブバンクに充当されていたことが功を奏した一因となったと思います。

当然、妹の経営努力、インバウンドの風が吹いたなど幸運に恵まれた要素もあります。事業再生に成功する会社というのは、運を味方にすることも多いです。

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