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線香花火のしずく

二人同時に火をつけると
したたるように ぶらさがる
赤いしずく

足元を照らすほど明るくはなく
浴衣の襟足をなでる
かすかな風にさえ
今にも落ちそうに揺れている

 あぶないよ

風をさえぎろうとあなたが動いて
二人の額が触れ合いそうなほど近い。

うつむいて
互いの顔は見えない

待っているのは 開花のささやき
擦過音のような

 ちょっと、やめて
 落ちちゃうよ

開花前の
ふたつの赤いしずくを
あなたはそっと寄せて
大きな
一つのしずくにしてしまう。

繋がっている
ほそく

またたき始めるひかり。
葉脈のように広がる花の。
かすかなコマ送りの。

 動かないで。

じゅっと音をたてて
大きなしずくが
足元に落ちると

月明かりだけの暗闇の中で
煙の匂いより濃く
あなたの匂いがそばに。

はじめて
目を閉じずに
重ねる唇。

耳に
かるい擦過音。

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