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[読書記録]名著の話(伊集院光) / 深い思考に入る

NHKEテレ「100分de名著」、本が好きな方なら大抵ご存知ではないかな、と思います。
この本は伊集院光さんが、特に心に刺さった本を厳選して、それについて対談したものをまとめたものです。

面白いですよね、伊集院光さんって。博識で、人を惹きつける話し方に説得力。知識があるから成り立つことだし、名著にまつわるあれこれを専門家から聞いて共感し、自らの引き出しをあちこち開けながら話せる技術が本当にすごい。ずっとお話を聞いて(読んで)いたくなります。
その知識量と共感力、溢れるエピソードの面白さや抽象的なお話の分かりやすさまで再確認するだけではなく、深い思考に入る一冊でした。

「名著の話」ではカフカの「変身」、柳田國男「遠野物語」、神谷美恵子「生きがいについて」(各敬称略)の3冊について語られています。

カフカの「変身」、私は高校生の時に学校に指定されて読んだと思います。私にはかわいそうなお話としてしか残っておらず、グレゴールの家族のことなど殆ど記憶にありませんでした。なんということでしょう。今読んだら全く感想が違うと思います。
カフカは読む時期を選ぶ作家なのだろうと思います。

伊集院さんと話す川島先生が、

人間関係に安住できる人間とそうではない人間がいて、カフカは明らかに後者でしょう。メンタリティ的に、この世の中にハッピーを見つけられないというか。

「名著の話」伊集院光より

とおっしゃっていて唸りました。そういった視点を持ち合わせていなかった高校生の私には残念ながらカフカは時期尚早だったのだろうと思います。
今読めば、そしてもっと先の未来に読めば、またきっと違う共感を得て震えているかもしれません。近い将来再びカフカに会いに行こうと思います。

それから「遠野物語」。一気に惹きつけられました。とてもとても読みたい…!でもわりと現代から年をあけた物語なので文体は難しく、読むのに時間がかかりそうです。
水木しげるさんの「遠野物語」を読もうかな、と思います。目に見えない世界が大好きです。確かにあっただろうし、今もあるかもしれない、きっとあると思える民族的な世界。河童や座敷童子や、その土地に住む妖怪。ぞわぞわ〜、っとします。
読みたい本があるということがこの上なくしあわせです。

伝承ってそういうものだと思うんです。本当か嘘かという価値観では捉えられないようなかたちで、曽祖母が現れたことを見事に描いていますよね。

「名著の話」伊集院光より

現実と非現実、嘘と本当、世の中はその二つではないのだと思います。善と悪が入れ替わり立ち替わりしたり、モノの見方を少し遠ざけたり角度を変えれば、いくらでも事実は入れ替わります。
そう思えば思うほど、遠野への憧れが増して来て、民族学にも興味が出てきます。
大津波に襲われた福二さんのお話も、私自身少しでも心を添わせることができるなら、と思うところがありました。

最後に神谷美恵子さんの「生きがいについて」。
深く考えさせられました。人生の後半について。10歳でも「みんなと同じ問題を考えていればいい」という人生の前半から、「自分固有の問題を生きざるを得なくなる」人生の後半に入るということがある、ということ…。

その人の中にある本当のことは、他者が簡単に理解したと思ってはならない。人生の本当のことは、言葉にすると矛盾しているように感じられる。でも、だからこそ本当なのであって、逆の言い方をすれば、理が通っているということは、どこかに嘘が潜んでいる。

「名著の話」伊集院光より

言葉は全てを表すことができなくて、更にそれを理解したと思うことの傲慢さについて考えました。小説と、経験に基づいた神谷さんの血の滲むような文章が同じということは決してないのかもしれませんが、先に読んだ「クスノキの番人」でも、クスノキが伝えることも言葉ではなく、「念」そのものだったことを思い出しました。
神谷さんはハンセン病の患者さんに寄り添い、その淵にいる方々の何をどう見ていたのか、と思いを馳せ、胸が詰まります。


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