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ショートショート「鳥の巣」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。
今回の3ワード:パソコン,スーツ,鳥


​『鳥の巣』

時刻は深夜の1時。小さな一人部屋は薄暗くパソコンの眩しいブルーライトがひたすらデータをカチカチと打ち込む私をぼんやりと闇に浮かび上がらせている。

「110001001011101110100100110011101100101010110101」

なんだかよく分からない数字を無心に打ち続ける。しかし1つもミスは許されない。そんなことがあれば不具合が起こるのだ。集中力とスピードを要するこの仕事は明け方まで続いた。

途中仮眠を取り、ようやく打ち込み終えたのは朝の6時。外では鳥が鳴いて街もすっかり朝の装いである。

そしたら今度は出社しなければならない。基本は在宅だか月一で決まった日に直接顔を合わすのが会社のルールだ。久しぶりにクローゼットからスーツを取り出すと大変なことに気がついた。スーツの肩にべっとりとカラスの糞が付いてるではないか。思い出した、先月のことだ。家を出るやいなやカラスに糞を落とされて仕方なく別の背広を着ていったんだ。うっかり忘れていた…。
久しぶりに会うからいいモノを着たかったのだが、仕方がない今回も別のを着ていこう。

少し時間が早いが待っていても暇なのでもう行くことにしよう。準備を整えた私はそ~っと外を確かめながらドアを開けた。
「また糞にやられたら馬鹿馬鹿しいからな」
すると足元で何やらバサバサと羽音が聞こえる。視線を上から足元へやるとなんとカラスが地面で騒がしく羽根をばたつかせているのだ。あたりには黒い羽が散らばっている。一体全体どうしたというのだ。
私はすかさずカラスを掴まえて腹を開いて中にあるスイッチを切った、緑に光るランプがゆっくりと消えて、今度は赤のランプが点滅する、これでスリープモードだ。透明の蓋を開けて中に埋め込まれた銀色のチップを取り出してデータを読み込んだ。サンプルコードと見比べてみる。
「あ、ここだ。やっぱり、プログラムの数字にミスがあるな」

今から半世紀ほど前、鳥に有害なウイルスが広まってありとあらゆる鳥が全滅してしまった。人間は鳥が恋しくなって遂に最近こういう人工鳥を作り始めて、カラスやスズメやハトはかなりの数が導入されている。

直した鳥を外へ放つと、東の山の方へ元気よく翼をそれらしく羽ばたかせ飛び去って行った。改めて実物をしっかりと見ると本当にその造形の素晴らしさに感心した。

さてと、まだ時間は大丈夫だな。さぁ靴を履いてドアを開けて会社へ向かおう…とその時、スーツの肩にびちゃと鳥の糞が落ちてきたのだ。
「おい、またかよ!こんなプログラム必要あるのか?一体誰が打ち込んでいやがるんだ。クソ!」


3ワードで作るショートショート






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