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ショートショート「あの夏に乾杯」

『あの夏に乾杯』


「あの夏に乾杯!」
学生時代の思い出話で盛り上がった私達はそう言って、家のテラスでビールを一気に飲み干した。

「ぷはぁ、男二人で飲む酒も悪くないなぁ。」と言って相棒の顔を見ると、なぜだか彼は青ざめていた。

「どうしたんだ?」

すると彼は私の目を見てはっきりとこういった「俺に与えられた任務を思い出した……」
そして彼は何かに操られるかのように部屋に戻りクローゼットの壁をハンマーで壊し始めた。

「おいおい、何やってるんだ。やっと手に入れたマイホームだろ?」

「思い出した、思い出したぞ!」そう言って、彼が奥からズルズルと重たそうに取り出したのはヒーロースーツのようなものだった。そのスーツには「KIRIN Beverage」の文字が背中や腕、脚、ヘルメットにまで印字されている。

「おい!何なんだそれは!」

「"あの夏に乾杯!"それこそが私に大切な任務を思い出させる、合い言葉だったのだよ!世界の平和を守るこれが私の任務なのだ!」

私は必死で彼を止めようとした。「違う!お前は利用されてるんだ!それは広告だ。お前は世界の平和を救うのが任務だと奴らに騙されていて、本当はお前を広告塔にするつもりだ!絶対にそうだ!」
しかし、彼は私の制止を振り切って、そのスーツを着て、遥か彼方まで続く夏の澄み切った青空へとあっという間に飛び去って行ってしまった。

夏の日差しに「KIRIN」のロゴは眩しく輝いていた。

「あれが、大企業か…」

ショートショート


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