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ショートショート・おはなし

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ショートショート・短編・小説等まとめです。
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#短編小説

『タワーマンション 2029』 ショートショート

ここは2029年の東京。町は10年前と比べても、さほど変化はない。近未来的なバイオと融合した建物とか曲線で描かれる銀色の車や無駄のないスリムなファッションとか透明な道路とか…そんなものは無い。いつの時代もそうだ、未来というものは劇的ではなく少しずつ変わっていく…いわばエッシャーの絵みたいな静かなるメタモルフォーゼをしていくのだ。だから変化に気付きにくい、それは何事においてもそう、もしそれが悪い方向へと静かに転げ落ちていても。そこには一人一人の暮らしがあるだけだ。 ここの駅前

『家族オークション』 ショートショート

大きなホールにはよく肥えた豚のような成金どもが集まってきていて、品定めのために狭い椅子にぎゅうぎゅうに腰掛けている。どいつもこいつも金持ちだが品がない。それもそうだ、ここは最低の場所だ。街の娘を攫ってはここで人身売買が行われる。 ステージにはすでに眩いスポットライトが照らされていて、会場の奴らは良い商品が出てくるのを今か今かと待ち構えている。 俺だってこんなところ来たくない。ここに来てる奴ら全員ぶっ飛ばしたいぐらいだ。でも来るしかなかった。それに、今ここにあるスーツケースには

『かわいい戦争』 (328)ショートショート

いつからだろうか、空に戦闘機が飛んでいってもそれが当たり前になった。どうせまた通り過ぎるだけ、ここらへんは標的じゃない。隣の港町がまた狙われてるんだよ。 怖いなぁと心の何処かで感じてるつもりだけど、あくびする日常もちゃんといつもそばにある。 また戦闘機が一機向こうの空へ通り過ぎてった。今日は雲が厚くて見えないわ。透明な戦闘機が音だけならして見えないままの破壊力がそこに確かにある…はず。 「おーい」 友達の声だ。いつもと同じ。 「おー元気?」 「もちろん元気!」 「アハッ、な

『女子高生は先生を許さない 』 ショートショート

ここはとある女子高等学校。 2年D組の教室は薄暗い廊下の一番奥の端っこに位置する。この教室での出来事である。 このクラスの担任の男、中島はメガネをかけた温厚そうないかにも普通の先生だ。身長も普通、体重も普通、顔も普通、駅に20人はいそうな顔である。愛想が特段良いわけでも無いが滅多に怒らないので評判も普通、生徒との仲の良さも並である。 朝礼の時間だ。いつもなら中島が出席確認をして終わりだが今日は少し違った。 「みんな、今週はスマホ禁止週間だ!」 「えー!」と一同、驚きの声

『一人で死ねよ』 ショートショート

ここは小学校3年4組の教室、5時間目の今日の最後の授業は『道徳』だ。もうすでにチャイムが鳴って生徒30人は全員が席について、机の上には国が指定した教科書が置かれている。少し遅れてガラガラとドアを開けて入ってきたのはこのクラスの担任の先生 町田京子先生だ。先生は美人で爽やかで、子どもたちから人気の先生だった。 先生「はい、それでは授業を始めます。早速皆さんまず教科書のちょうど真ん中あたりのページを開いてからそのまま上の部分を両手で持ちましょう」 子どもたちは訳が分からないまま

『ウルトラ告知』 ショートショート

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:ウルトラマン,女,スズメ 幹也は彼女の由美を行きつけの居酒屋に呼び出した。大切な話があったのだ。これは二人の未来のために絶対に話しておかなくてはならないことだった。 奥の席には先に幹也が座って由美を待っていた。こじんまりしたアットホームな店内はサラリーマンで賑わっている。由美は大切な話と聞いてドキドキしていたがまさかこんな場所で結婚の告白はないだろうと予想していた。だったら何なんだろう……。 由美「お

『呪いのnoteです』 ショートショート

▶ 男は「note」というアプリケーションを手に入れた。自分の文章を手軽にアップ出来るところが難しいことが苦手な男にはぴったりだった。 男がまだ中学生の頃の話だ。友達が一人もいなかった孤独な少年の趣味、それは小説を書くことだった。昼休みになると誰もいなくなった教室の隅で、カーテンの付いてない窓から射し込む強い日差しにもめげずいつでも一人で小説を書き続けていた。この時だけが少年にとって学校の中での唯一の幸せなひとときだった。女子が人の悪口を言ってる声も男子が校庭の影で誰か蹴

『同じような男』 ショートショート

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:財布,ガム,本 『同じような男』 男は家についてから図書館で借りた本を開いた、すると驚いた。最も重要なページにガムが付いているのである。ずっと読みたかった本なのにそれにガムが付いていて読めないなんてあまりにも酷すぎる運命だと男は一人嘆いた。 どうにか剥がしてやろうと手を伸ばすが気持ちが悪くて触れたもんじゃない。薄ピンク色のべったりと貼り付いたガム、ほのかに香るイチゴの香りがますます男の気分を悪くさせた。

ショートショート「焼け」

『焼け』 父と息子。二人は丘の上にある小さな公園から景色を見ている。 「ねぇお父さん、向こうの山の方を見てよ、夕焼けがすごい綺麗だね」  「ああそうだな、とても綺麗な朝焼けだ」 「夕焼けでしょ?」 「いや、あれは朝焼けだ」 「そんなの嘘だよ、僕は騙されない」 「騙すも何もそう決まったんだ」 「誰が決めたの?」 「国の絶対最高機関だよ、テレビのニュース見てないのか?」 「何それ、どういうこと?」 「さぁ詳しくはよく分からん、でも俺たちは何も考える必要はない

ショートショート「夜と男」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:美人,山間,電灯  『夜と男』 コンクリートで舗装された山間の車道。深い森に囲まれた曲がりくねったその道は日中であればサイクリングをする奴らで賑わう。でも夜になれば、人の姿は無くなって辺りは一切の闇が包みこむ。 夜、俺はあてもなくこの山間の道を1人歩いていた。手に持った懐中電灯、豆電球の灯は淡く俺の足元をオレンジ色に照らしてその行く先をぼんやりと小さく浮かび上がらせる。試しに遠くを照らしてみてもその微

ショートショート「コメディアンK」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:良い子,悪い子,普通の子 『コメディアンK』 今は21××年、コメディアンKはその昔ゴールデンタイムのTVショーで名を馳せ、数々の名番組を生み出してきたという…。しかしそれも過去のこと。現在では彼は子どもたちを苦しめた悪名高きコメディアンとして知られている。彼の出ている作品は現在どれも闇でしか購入できない国の文科省が定めた禁止映像作品に指定されている。 Kの一番の悪事は子供への単純化したレッテル張りで

ショートショート「人影の町」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:タクシー,うちわ,スマホ 『人影の町』​ 8月の中旬、連日この町は地獄のように熱くクーラーのついた車内を出ればモワッとした空気が包み込む、日差しは皮膚を焼くほどに強く熱い。 自動販売機でスポーツドリンク買って、私はすぐに車内へと駆け込んだ。 「あぁ暑い暑い、ちょっと出ただけでもうこの汗だ。クーラーが無きゃ死んじまうな。」 そんなことを言ってると車道の向こう側を近くの中学校の野球部が掛け声をかけながらジ

ショートショート「鳥の巣」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:パソコン,スーツ,鳥 ​『鳥の巣』 時刻は深夜の1時。小さな一人部屋は薄暗くパソコンの眩しいブルーライトがひたすらデータをカチカチと打ち込む私をぼんやりと闇に浮かび上がらせている。 「110001001011101110100100110011101100101010110101」 なんだかよく分からない数字を無心に打ち続ける。しかし1つもミスは許されない。そんなことがあれば不具合が起こるのだ。集中

ショートショート『夢』

ルール:思いついた3ワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:仕事,遅刻,猫 「夢」 朝、目が覚めると自分は生まれながらの奴隷であるという気がした。 朝になると飯を食べなくてはならない。食パンを袋から出しトースターに入れて焼く、なんて単純で苦痛な作業なんだ。 飯を食ったら奴隷として仕事に行かなくてはならない、高速で動く四角い箱のような乗り物で他の奴隷と移動し何時間も何時間も労働する。そうすると報酬が貰える、そしてその報酬を使って食料品で働く奴隷から飯を買うのだ。