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ショートショート・おはなし

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ショートショート・短編・小説等まとめです。
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記事一覧

『404』 超ショートショート

『タワーマンション 2029』 ショートショート

ここは2029年の東京。町は10年前と比べても、さほど変化はない。近未来的なバイオと融合した建物とか曲線で描かれる銀色の車や無駄のないスリムなファッションとか透明な道路とか…そんなものは無い。いつの時代もそうだ、未来というものは劇的ではなく少しずつ変わっていく…いわばエッシャーの絵みたいな静かなるメタモルフォーゼをしていくのだ。だから変化に気付きにくい、それは何事においてもそう、もしそれが悪い方向へと静かに転げ落ちていても。そこには一人一人の暮らしがあるだけだ。 ここの駅前

『家族オークション』 ショートショート

大きなホールにはよく肥えた豚のような成金どもが集まってきていて、品定めのために狭い椅子にぎゅうぎゅうに腰掛けている。どいつもこいつも金持ちだが品がない。それもそうだ、ここは最低の場所だ。街の娘を攫ってはここで人身売買が行われる。 ステージにはすでに眩いスポットライトが照らされていて、会場の奴らは良い商品が出てくるのを今か今かと待ち構えている。 俺だってこんなところ来たくない。ここに来てる奴ら全員ぶっ飛ばしたいぐらいだ。でも来るしかなかった。それに、今ここにあるスーツケースには

『かわいい戦争』 (328)ショートショート

いつからだろうか、空に戦闘機が飛んでいってもそれが当たり前になった。どうせまた通り過ぎるだけ、ここらへんは標的じゃない。隣の港町がまた狙われてるんだよ。 怖いなぁと心の何処かで感じてるつもりだけど、あくびする日常もちゃんといつもそばにある。 また戦闘機が一機向こうの空へ通り過ぎてった。今日は雲が厚くて見えないわ。透明な戦闘機が音だけならして見えないままの破壊力がそこに確かにある…はず。 「おーい」 友達の声だ。いつもと同じ。 「おー元気?」 「もちろん元気!」 「アハッ、な

『女子高生は先生を許さない 』 ショートショート

ここはとある女子高等学校。 2年D組の教室は薄暗い廊下の一番奥の端っこに位置する。この教室での出来事である。 このクラスの担任の男、中島はメガネをかけた温厚そうないかにも普通の先生だ。身長も普通、体重も普通、顔も普通、駅に20人はいそうな顔である。愛想が特段良いわけでも無いが滅多に怒らないので評判も普通、生徒との仲の良さも並である。 朝礼の時間だ。いつもなら中島が出席確認をして終わりだが今日は少し違った。 「みんな、今週はスマホ禁止週間だ!」 「えー!」と一同、驚きの声

『東京オリンピック大失敗』 超ショートショート

開会式が始まるその日、各局では朝から中継が始まりその瞬間を今か今かと待ち構えている。 スタジオでは芸能人らがヘラヘラと開会式がどんな催しなるか予想したり、金メダル期待の選手を何時間もかけて特集したりしている。そしてついに開会式がいよいよ始まる10分程前という時間になり…スタジオのアナウンサーが一旦スタジオの盛り上がりを抑えて、仕切りなおし、静かに話し始める。 「さぁ時刻は回りまして…はい…いよいよ始まります…東京夏季オリンピック。東京は国立競技場、もうすぐ始まる開会式ですが

『学生』 超ショートショート

Aの部屋にて A「もうダメだ、大学ではいつも一人、就活もなかなかうまくいかない。自分の将来も考えるだけで吐き気がするよ、はぁ」 テレビつけると夏休み明けの憂鬱の特集を、やっている。 テレビ「学校へは行かなくても良いんです。君の居場所はたくさんあるんだから。嫌だったら無理に行かなくていいんだよ。それでも全然生きていけるし君はまだ若いんだから大丈夫よ、大丈夫」 おばさんコメンテーターの優しい言葉にAは涙ぐんだ。 A「そうか…行かなくてもいいよね。もう単位なんてどうでもい

annda- (未完)

annda- 漆黒が広がる宇宙、あたりにはありったけの小さな星々が散りばめられていて白い光を放っては消えそうに瞬いている、遥か遠くの方では太陽がごうごうと静かに炎を揺らし燃えている。そんな厳かな太陽の周りを惑星群は規律を守るようにいつも同じルートを通って回っていた、優等生の太陽惑星諸君…しかしその中で規律を守りつつもなんだかにぎやかな青い色の星が一つプカプカと浮いている、まるで隠れ非行少年。その表面から頻繁にロケットやら衛星やらを可愛らしくぴょこぴょことあたりに打ち上げてい

『一人で死ねよ』 ショートショート

ここは小学校3年4組の教室、5時間目の今日の最後の授業は『道徳』だ。もうすでにチャイムが鳴って生徒30人は全員が席について、机の上には国が指定した教科書が置かれている。少し遅れてガラガラとドアを開けて入ってきたのはこのクラスの担任の先生 町田京子先生だ。先生は美人で爽やかで、子どもたちから人気の先生だった。 先生「はい、それでは授業を始めます。早速皆さんまず教科書のちょうど真ん中あたりのページを開いてからそのまま上の部分を両手で持ちましょう」 子どもたちは訳が分からないまま

『ウルトラ告知』 ショートショート

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:ウルトラマン,女,スズメ 幹也は彼女の由美を行きつけの居酒屋に呼び出した。大切な話があったのだ。これは二人の未来のために絶対に話しておかなくてはならないことだった。 奥の席には先に幹也が座って由美を待っていた。こじんまりしたアットホームな店内はサラリーマンで賑わっている。由美は大切な話と聞いてドキドキしていたがまさかこんな場所で結婚の告白はないだろうと予想していた。だったら何なんだろう……。 由美「お

『呪いのnoteです』 ショートショート

▶ 男は「note」というアプリケーションを手に入れた。自分の文章を手軽にアップ出来るところが難しいことが苦手な男にはぴったりだった。 男がまだ中学生の頃の話だ。友達が一人もいなかった孤独な少年の趣味、それは小説を書くことだった。昼休みになると誰もいなくなった教室の隅で、カーテンの付いてない窓から射し込む強い日差しにもめげずいつでも一人で小説を書き続けていた。この時だけが少年にとって学校の中での唯一の幸せなひとときだった。女子が人の悪口を言ってる声も男子が校庭の影で誰か蹴

『同じような男』 ショートショート

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:財布,ガム,本 『同じような男』 男は家についてから図書館で借りた本を開いた、すると驚いた。最も重要なページにガムが付いているのである。ずっと読みたかった本なのにそれにガムが付いていて読めないなんてあまりにも酷すぎる運命だと男は一人嘆いた。 どうにか剥がしてやろうと手を伸ばすが気持ちが悪くて触れたもんじゃない。薄ピンク色のべったりと貼り付いたガム、ほのかに香るイチゴの香りがますます男の気分を悪くさせた。

ショートショート「焼け」

『焼け』 父と息子。二人は丘の上にある小さな公園から景色を見ている。 「ねぇお父さん、向こうの山の方を見てよ、夕焼けがすごい綺麗だね」  「ああそうだな、とても綺麗な朝焼けだ」 「夕焼けでしょ?」 「いや、あれは朝焼けだ」 「そんなの嘘だよ、僕は騙されない」 「騙すも何もそう決まったんだ」 「誰が決めたの?」 「国の絶対最高機関だよ、テレビのニュース見てないのか?」 「何それ、どういうこと?」 「さぁ詳しくはよく分からん、でも俺たちは何も考える必要はない

ショートショート「夜と男」

ルール:思いついた3つのワードで短編小説を作ります。 今回の3ワード:美人,山間,電灯  『夜と男』 コンクリートで舗装された山間の車道。深い森に囲まれた曲がりくねったその道は日中であればサイクリングをする奴らで賑わう。でも夜になれば、人の姿は無くなって辺りは一切の闇が包みこむ。 夜、俺はあてもなくこの山間の道を1人歩いていた。手に持った懐中電灯、豆電球の灯は淡く俺の足元をオレンジ色に照らしてその行く先をぼんやりと小さく浮かび上がらせる。試しに遠くを照らしてみてもその微