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イベントレポート「グッドネイバーズトーク」 ゲスト:日置雅子さん(インド家庭料理「南豆亭」店主)

はじめに

南伊豆には、いろんな人がいる。

「10人10色」という言葉があるけれど、
ここで暮らす人たちは、
なんだか「1人10色」(いろんな色の掛け合わせで生きている)、な気がします。

「(一周回って)あの人は・・・一体何をしている人だろう?!」

「グッドネイバーズトーク」は、南伊豆のご近所(ネイバー)さんをお招きし、
そのかたの活動や人となりを伺っていくトークイベントです。

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2024年3月21日に開催した第二回のゲストは「日置雅子さん」!

古民家を改装した店内で、野菜とスパイスをたっぷり使ったインドカレーを味わえる南豆亭 を運営。
平日はデイケアセンターなどで働きつつ、週末の金・土・日曜日は滋味深いカレーを提供しています。

南豆亭の外観。すごい写真!

雅子さんが南伊豆でお店を開くまでの経緯や、
これから挑戦したいこと、好きな本などを伺いました。

聞き手は、南伊豆町・下賀茂でゲストハウス「ローカル×ローカル」を運営しつつ、
漫画家・イラストレーターとしても活動する伊集院一徹さんです。

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「チャレンジ」の言葉に惹かれて南伊豆へ

 実は神奈川県川崎市に自宅があり、2024年現在も南伊豆町の「長期移住体験」という制度を使って二拠点生活を送る雅子さんとご家族。移住先を決めるまで、岩手県の雫石や栃木県の那須などさまざまな地域を巡っていたなか、短期移住体験をした南伊豆町で商工会が運営していた「チャレンジショップ」が目に留まります。

雅子さん:
「南伊豆に来たのはコロナ前の2019年ごろ。『シニアに優しいまち』を打ち出しているところを中心に見ていて、その流れで南伊豆に来たんですけど。もうそんなの関係なく、ぐさっと来たのが、チャレンジショップ。チャレンジっていう言葉にもうグサッと来て、ずっとチャレンジしたくなっちゃって、それで来ちゃいました(笑)

「チャレンジショップは、飲食店は光熱費込みで2万円、他の業種は1万円で、1ヶ月まるっと貸してくれる空き店舗(※2021年時点)。こんなのあるんだと思って。旦那さんは全くそういうのに関心がなかったので、お友達と来たんです。でも帰ってからも気になっちゃって気になっちゃって。で、その年の年末年始に、家族にチャレンジショップのことは言わないで、すっごい良かったから、温泉入りに行こうって言って(笑)

「地元の人はジビエなんか食べないよ」

 南伊豆に来た雅子さんは、まずはチャレンジショップに先駆けて、下賀茂熱帯植物園(以下:植物園)を借りてカレーの試食会を行います。そこで地域のかたにアドバイスをいただきながら、試行錯誤を重ねて、地域の声と作りたいカレーのすり合わせをしていきました。

雅子さん:
「イノシシのお肉を近所の方にいただいたので、それでカレーを作って、こういうのをやりたいんだって言ったら、 『僕たちはこれ食べるけど、地元の人はジビエなんか食べないからやめた方がいい』『捕まえて解体してるところとかを見てたり、農作物やられたりして、みんなイノシシとか鹿にいい印象を持ってないから、やめた方がいいよ』って言われて」

「じゃあここの土地の野菜で、地産地消の新鮮な野菜を使ったカレーを売りにしたらどうでしょうって言ったら、『それもダメだね、野菜はもうみんな自分で作って、いっぱい持て余してるから、野菜なんかお金払って食べないよ』って。で、なんかすごい自信がなくなってしまって、もう1回試食会やるから、もう1回人集めてくださいって言って、結局計4回やったんですね

チャレンジショップでの実践、そして現在のお店へ

 植物園で4回の試食会を終えた後、チャレンジショップでの営業を開始します。それまで飲食営業の経験は全くなかったという雅子さん。チャレンジショップでの営業には、知り合った地域のかたがたのご協力があったそうです。

雅子さん:
「この看板、いまも使ってるんですけど、これを作ってくださったお二人は2回目、3回目の試食会に来てくださって。チャレンジショップをやるっていうのが決まったら、じゃあ看板を作ろうって言ってくれて、出来上がったら、こんな素晴らしいのができて」

「(チャレンジショップでの写真に写る)こちらのNさんは、試食会で知り合って、同時期くらいに移住した人で、こちらのMさんは地元の方です。お2人のおかげでとても楽しく順調に営業できました。」

 チャレンジショップでの営業を経て得られた知見やアドバイスをもとに、いよいよ現在の下小野の住所で、2022年4月に南豆亭をオープンします

雅子さん:
「地元の人はなかなかいらっしゃらないだろうなと思ってたんですけど、Mさんも宣伝してくださったり、班の皆さんも応援してくださって、本当にカレー食べたいですか?っていうような感じのおじさんとかも来てくれて(笑)」

南豆亭のカレー。写真は「ちょこっと三種盛り(インド米)」。

「本当はインド米でやろうと思ってたんです。けど、地元の人はインド米を食べないかもしれないと思って、日本米とインド米を選べますっていうスタイルにしてみた。そしたら地元の人は日本米、移住の人はみんなインド米。 ずっとそんな感じでやってたら、常連のHさんに、半々ってどうって言われ、 なるほどねと思って。やってみたら、お試しで半々で頼んだ人が、次はインド米を食べる。始めた頃はもう圧倒的に日本米だったんですけど、今は 7割はインド米ですね」

なぜインド料理店を?

 南伊豆に来る前は、もともと東京の会計事務所で事務の仕事をしていた雅子さん。職場の近くで趣味で通い始めたのは、インドではなくタイ料理の教室でした。しかし、どんどん料理のレベルが上がり、珍しい地方のタイ料理にまで広がり始めると、「スパイスがめちゃくちゃ強くなって、発酵系のものとか、すごくマニアックになっちゃって、そうなると主人が食べれなくなっちゃった」そうです。
 「それならカレーを勉強したら?」とご家族の言葉もあり、通い出したのが料理研究家の香取薫先生の教える「インド料理教室 ペイズリー」。そこからインド料理の世界が広がっていきました。

大学院での研究から考えた、これから必要な「場所」

 会計事務所に勤めていた時、仕事関係の資格を取るために大学院に通い始めた雅子さんですが、入学して一年ほど経ったころ、病気のため一年半休学し、元の職場も契約終了となります。
 そのまま大学院を辞める選択肢もありましたが、同じ学部で高齢者福祉の研究をしている別のゼミに惹かれ、粘り強く交渉した結果、転ゼミを果たします(伺っている限り、かなり特例)。日本とドイツの介護保険の比較研究から、「地域の助け合い」というテーマを掘り下げはじめます。

大学院のみなさんとの青春すぎる写真を見せていただきました

雅子さん:
 「日本もドイツも高齢者がすごく増えちゃって、介護の担い手がいないっていう共通の問題を抱えていて。ドイツの介護保険は現金給付で、給付された要介護者の人が家族に現金を払うので、家族がお金をもらえる。でもそうすると結局、家族介護に進んじゃうんじゃないかなと思って。日本はそれを地域包括ケアっていうのでやっていて、なんとか地域の助け合いで、と。それはどうなんだろうと思いつつ、まだそっちの方が可能性があるのかなって思って、地域の助け合いってどういうことなのかなって色々調べて」

「高齢者が元気なうちに移住をして、新しいコミュニティを作って、生涯活躍して過ごすっていう政策を、一時期政府が打ち出してたことがあって、そういうシニアの人を受け入れして、その政策に沿ったことをやろうとしてる自治体を回ってみたんですね。それが雫石だったり那須だったりだったんですけど。南伊豆も、サービス付き高齢者住宅を建てるという計画や、杉並区と一緒に特養を建てたりとか、面白いことをやってるなと思って見学に来て。で、役場の担当の人にもお話聞かせてくださいって言ったんですけど、その計画は頓挫しちゃいましたって。特養は見学させてもらったんですけど、そんなことより何よりも、チャレンジショップがもう気になっちゃって(笑)」

 「だから、元々のきっかけはそういう大学院にいたことだったんですね。ただ、高齢者の人がコミュニティをつくるには、その地域の人だけだとなかなか気が合う人ばっかりじゃない。たまたまそこに住んでるだけだから。趣味が共通とか、出身が同じとか、何か同じテーマがある人たちで集まれるようなものがあるといいと、色々読んでて言ってる方がいて。そういうものを作っていくにはやっぱり場所が必要なんじゃないかと」

「で、今度はそういう場所を作った人のところを色々回ってみたりしたんです。そうすると、誰でも使えるコミュニティスペースみたいなところって、誰も来ないんですよね。やっぱり目的がないと人って集まりにくいんだなっていう。それで(お店を)作ったわけじゃないんですけど、そうやって学んできたことは、少し役立っているんじゃないかなとは思って」

 大学院の時のご縁から、当時のゼミの教授が毎年南伊豆に学生を連れて合宿をしに訪れるなど、今もコミュニティ活動を考え続け、実践にうつし続けている雅子さん。最近では、営業時間前に南豆亭の一部屋を貸出し、「メイクアップ講座」や「お灸講座」などを開催しています。

雅子さん:
「そうやって皆さんに助けてもらって、お店も人が出入りできるようになって。皆さんにもそういう場があって、広告もできるっていう、そういう繋がりをこれからもつくっていきたいなと

 お店について、「カレー方面の話としては、最初に戻っちゃうんですけど、伊豆の食材を使った、南豆亭らしいカレーを作って、せっかくキッチンカーも買ったので、色んなかたに食べてもらえたらいいな」と、チャレンジがとどまるところを知らない雅子さんでした。

おすすめの本紹介

 イベントの最後に、雅子さんにおすすめの本をご紹介いただきました。

 一冊目は、『JK、インドで常識ぶっ壊される』(河出書房新、2021年)。

TORCHオンラインショップでもご購入いただけます。ご購入はこちら

雅子さん:
「これはHさんに教えてもらって、すごくよかったので。中学3年生の女の子が、女子高校生になる直前に、お父さんがインドに転勤になってしまうという。高校生のすごいみずみずしい感性で、インドを見て色々な体験をして。インドの中で、貧富の差なんかもあるわけですね。ストリートチルドレンも目の当たりにするわけで、そういうことを見て、彼女が思ったことを書いてるんですけれど、この本の売り上げの一部が、そのストリートチルドレンに回るという。ちょうど私、11月に初めてインドに行ってきて、すごく同じような驚きを体験してきて、あるある、わかる、みたいなね。インド人が時間を守らないとか(笑)」

二冊目は、『アーユルヴェーダ食事法理論とレシピ— 食事で変わる心と体』(径書房、2021年)。

(※絶版本のため、雅子さんの蔵書をお持ちいただきました。出版社URL:http://site.komichi.co.jp/books/2012/08/25/340/

雅子さん:
 「 私の師匠の香取薫先生と、佐藤真紀子さんっていう、アーユルヴェーダ界隈ではかなりの重鎮の方が2人で作った本なんですけれど。前半はアーユルヴェーダとはどういうものなのかということが、すごくわかりやすく書いてある。後半にはレシピが載っていて、すごく実用的な本なので、おすすめです」

 「アーユルヴェーダって何?という方もいると思うんです。日本ではオイルを額に垂らすような、美容で有名なんですけど、実はインドでは医学として認められている分野で。特にこの本は、人によって体質、年齢、環境も違うので、自分が今どういう状況なのかを見極めるにはどうしたらいいか、みたいなことが書いてあります。たとえば、その人の消化力に見合ったものを正しく食べれば、しっかりと消化されて、代謝されて、心身ともに健康になる。食べすぎてしまったりすると悪いものとして残ってしまう、みたいな。 そういうスピリチュアルな部分もちょっとあるんですけれど、新興宗教的なものではないし、民間療法とはちょっと一線を画すものなんですね。古代伝承医学、伝統医学って言われる分野です」

イベントを終えて

 こちらのレポートは全体の抜粋ですが、終始笑いが沸き起こり、雅子さんの温かさとパッションを堪能した一時間でした。また、この日は雅子さんが新作の「魯肉ビリヤニ」を作ってきてくださり、全員で試食をいただき舌鼓をうつ場面もありました。
 改めて、今回ファシリテーターを務めてくださった伊集院さん、イベントを一緒に盛り上げてくださった参加者のみなさま、そしてゲストとして登壇いただいた雅子さん、本当にありがとうございました!

雅子さんからのお知らせです!

 2024年6月2日(日)に、雅子さんの先生をお招きして、アーユルヴェーダ入門講座を南豆亭で開催予定です。この機会を逃すと入門講座はしばらくおやすみになるそう。ご興味のあるかたは南豆亭までお問合せください!

インド家庭料理「南豆亭」
Instagram:https://www.instagram.com/nanzutei/
公式HP:https://41p57.hp.peraichi.com/

※本レポートに掲載している写真の一部は雅子さんよりご提供いただきました


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