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呼ばれたので出かけた。夜になお目を忍ぶ金木犀が、なお香る。 徒歩七八分いった先を曲が…
即、肌、ではなくどうか薄絹を一枚、へだててくださいと、願いは聞かれず通じずに、私は息を…
今日あいつに似たやつを見かけた。 あっちもおれに興味があったみたいだ。 そう、男が女に話…
真珠 山田詠美がファッション誌で「いい女」を指南する書き物をしていた頃、私は怠惰な大…
さて文教のうんぬんなる看板が立つこのあたり、旧帝大の国立大学とその附属小中幼稚園をはじ…
この世が塵の濃淡でできているのなら、塵を知ればこの世を知る。 なんて、マジで思うだけでは…
盆過ぎの、渡る夜風に笹の匂い、綿あめの匂い、綿あめの、は潰れた銀杏の実の匂い、腐臭は甘い、からみ、つく。 ――月なんか無くなったって、あなたは、この地上でいのちがありそうだ。 愛の告白と分かったので、つい照れる。 ――太陽じゃなくて? ――それはさすがにあなたも死ぬよ。人間だもの。 もっともだ。 変に誠実に理屈っぽいのは、子どもの頃からの私であったはずなのに、彼といる私は女になる。 ――信じないと思うけど。胸をつららが貫いてるみたいで。冷たいんだ、俺は……
右に銀杏、左に桜並木の小道に入ると、ほどなくして水路に沿う遊歩道に出る。水が水に落ちる…
恋に落ちてはいそいそと、本を求めた。その人を好きなのか本を読みたいのか分からなかった、…
欧羅巴の物語に見られる意地悪な継母は、実は実母だったという物語は、私には真実【ほんとう…
石田吉蔵になるのも悪くないと海を隔てた恋人から言葉が届いた。日の当たるところは渡れず、…
そこに梅が咲くとは覚えていたが、元旦からだったか。さだかでないが、今年はそうだった。 …
湯島が学問の聖地であると知ったのはずっと後のこと。 ある年の師走深夜に手を引かれ、湯…
お付き合いを始めて三週間でプロポーズされ、その場ではい、と答えたものの、二年を過ぎても曖昧にその後をかわし続けた。業を煮やした男二人は協力をした。婚約者は、不動産業を営む父に実家近くにある物件の仲介を依頼した。ファミリータイプの新築マンションについて契約が結ばれた。父は仲介手数料を取らなかった。ありがたいよと言われたが。知らんぷりを決めこむわけにもいかず、嫁いだ。娘から妻になった。 幼いころより馴れ親しんだ場所から新居まで、車で十五分ほどしか離れていない。私は車の運転を