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7月18日 メイドインアビス第1期シリーズを再び視聴する。探掘家たちはアビスの底でいかにして人間性を取り戻すのか?

 先日、体を壊して寝ていたのだけど、その間iPadで『メイドインアビス』第1期シリーズをずっと見ていた。ちょうど第2期が始まるタイミングだったので、復習にはちょうどいい機会になった。
 改めて見返してみると「ここ、こうだったけ?」「ああ、そうだったそうだった」と忘れていることも結構あったし、第1期と劇場版の結末を知った上で改めて見ると、新たな発見もある。そういう一つ一つを見付けるたびに、見返して良かったなぁ……という気になる。見ていたその時は体調不良でグッタリしていたのだけど。

 というわけで今回のテーマは、「アビスの底でいかにして人間性を喪わずにいられるのか」……というお話。

 『メイドインアビス』の世界、すなわち「アビス」は度しがたい世界だ。この中では、脆弱な人類は生存が困難である以前に、精神が真っ当ではいられなくなる。地形があまりにも複雑すぎるし、そこで生息する生き物たちはやたらと殺意が高い。そのうえに、理不尽に襲いかかってくる「上昇負荷」という呪い。

 いったい何が楽しくて、こんな奇怪で理不尽な場所に潜りたがるのか……。お宝があるからアビスに興味を持つ人々もいるのだけど、明らかにそんな興味を超えて、アビスの底を目指そうとする“頭のおかしい連中”もいる。
 ええ、はっきり言いますが、アビスの底を目指すやつなんてみんな頭のおかしい連中だ。お宝目当てだったら、アビスの浅いところをうろうろしていればいい。実際、「白笛」と呼ばれる人たちはみんな頭がおかしい。倫理観のネジがブチ切れたような人たちばかりだ。
 主人公リコは、何を間違ったかアビスの底に強い好奇心を抱き、探検を始めてしまう。だがそこは、問答無用に身体を破壊し、精神を摩耗させていく世界。SAN値が常に危機一髪。そんな世界に置いて、いかにしてまともな人間であり続けるのか……。これがこの物語における、隠れたサブミッションである。

 ナナチはアビスというどうしようもない理不尽世界の中で、絶望しきっている。ナナチはミーティを“送り出した後”は自分もこの世を去るつもりでいた。ナナチにとってはミーティが最後の生きる望み。ナナチが真っ当な精神を維持できているのは、ミーティという支えがあるから。ナナチの望みは、そんな精神的な支えであるミーティを殺すこと……。自分の精神の支えを無事に殺してやりたい……ナナチはそう願っていた。
 レグの火葬砲に出会って、ようやくナナチはミーティを送り出す方法を見出す。

 そんなナナチがどうやって人間性を維持したのか……というと「食欲」

 ナナチはアビスの深層5層を拠点としていたが、真っ当な食など、ほとんど口にしていなかった。もとよりナナチは貧民街出身で「真っ当な食事」など口にした経験がなく、アビスに住み着くようになってからは食べることは最低限の栄養を得ること……というくらいにしか考えていなかった。「食べる」ことが「生きる活力」になる……という発想がなかった。
 そこでリコのうまい食事を口にして、一度に生きる活力を見出す。食べることでナナチは精神的な“復活”を果たす。

 レグも度しがたい状況に置かれて、精神的に摩耗していく。ではレグはどうやって人間性を取り戻したのか? レグの場合、「性欲」だ。リコの裸を見て、性欲という生きる活力を見出していく。

ズボンをささやかにモッコリさせている……。可愛い勃起だ。

 劇場版では、レグは大量の電力を浴びて人間性を喪失してしまうが、ここでもレグは「性欲」によって人間性を取り戻している。

 ただ心配なのは、これ以降のレグの性癖。これ以降、隙あらばナナチに触れてセクハラするようになってしまった。リコを抱いて高所からゆっくり下りる……ということはこの先もやっているのだけど、どうもさほど性的に来ていないようで……。すっかりケモノに反応するようになってしまった。レグ、大丈夫なのか……。

 リコも上昇負荷の呪いとタマウガチの毒を一度に喰らって昏睡状態に。その最中、人間性を喪いかけていた。そのリコはどうやって人間性を取り戻したのか。

 答えは「探究心」。「アビスの底を目指したい」という欲求。このどうにもならない欲求を持ち続けているから、この度しがたい世界にいながら人間性を喪わずにいる。むしろ「アビスの底」という、目標としている場所にいるからこそ、この探究心はビビッドに輝き、リコの精神を前進させている。

 ただ、リコについてちょっと引っ掛かりが一つあって……。

 この物語の世界観には「アビス信仰」と呼ばれるものがある。
「アビスで命を落としたら魂が星の底に還っていって、命を願った者のところへ形を変えて旅に出る」
 ……と語られている。

 この「アビス信仰」の話を改めて聞いて、気付いたのだが、そういえばリコは一度死んでいる。死産だった。死んだ子供を、とりあえず箱の中に入れたら、生き返った……という。
 件の箱はちょっと不思議な物質で、すでに死んで、腑分けされた肉片であっても、放り込むと魂を獲得して動き始めるという。
 最初はこの箱の不思議な性質で復活した……という話かと思っていたが……。でもアビス信仰の話を聞いた後にこのエピソードを振り返ってみると……リコの胎内にいるものって、本当にリコか?
 だって、アビスで死んだら魂がさらなる地底に下りていき、「命を願った者のところへ形を変えて」戻ってくるわけでしょ。リコに宿った魂は、本当にリコのものだったのか?
 復活した赤ちゃんのリコは、目覚めてすぐに這ってアビスの中心部を目指そうとしたという。現在も、リコは自分でも説明できない謎の欲求によって、アビスの底を目指している。ますますもって、リコに宿った魂が何者なのか……というところに引っ掛かってくる。

 でも逆に考えると、そういう魂が宿っているからこそ、リコは尽きない探究心でアビスの底を目指している。その過程で精神が崩壊することがない。……という解釈もできる。
 ただ、「アビス信仰」のお話は、13話だけのお話なのか、それともこのお話全体を貫く重要な設定なのか……。

 『メイドインアビス』をもう一度最初から見返して気付くのは、真っ当でいることが困難な世界観で、いかに人間性を保っていくのか……というテーマ。アビスという場所は文字通りの「地獄」。肉体も精神も蝕んでいく。リコやレグやナナチはそんな地獄で精神を摩耗させていく。精神崩壊一歩手前の状態で、いかに人間性を維持していくのか。その答えは、普遍的で率直な欲求だ。食欲だったり性欲だったり……そういったものが人間性を維持するために不可欠なのだ。文明社会では忌避的に見なされる“本能”だが、地獄の底ではそれこそが大切。そういった基本的なものに立ち戻っていくことに、人間性を取り戻していく力がある……と作品は語っているように思える。

 改めて『メイドインアビス』を振り返って、ようやく気付く作品の本当のテーマ。復習もバッチリなので、これから始まる第2期シリーズが楽しみだ。

つづき

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