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映画感想 ペンギンハイウェイ

 今月はまだまだ忙しいので、簡単感想文です。他の映画感想文もみんな簡単感想文です。長いやつは書けません。あしからず。
 1月5日視聴!

 冒頭の場面。
「僕は大変頭が良く、しかも努力を怠らず、勉強するのである。だから将来はきっと偉い人間になるのだろう」
 という少年のモノローグとともに、少年が研究課題にしているノートが登場するのだが、その内容がお姉さんのオッパイについて。
 いいぞ~少年!

 そして研究対象にしているのが、近所に住んでいる美人のお姉さん。
 いいぞ~いいぞ~少年!
 なんて将来有望な少年なんだ! 大物になりそうな片鱗が、冒頭の十数秒から読み取れてしまう。

 大変良いおねショタ映画です。おねショタ大好き一族としてはこれは見なくてはならない映画だった。
 しかもテーマにしているのが少年の「性の目覚め」。でもこの作品の大変いいところとして、直接的な描写がぜんぜんない。
 例えばジュゼッペ・トルナトーレ監督の『マレーナ』が同じテーマを扱っているけれど、こちらは大変直接的。美人の未亡人が歩いている姿を見て、主人公の少年は初めての勃起を経験する。以来、未亡人への性的な憧れでモヤモヤする日々を過ごす……という青春ドラマだった。
(『春のめざめ』という作品もありますね。同じテーマを取り扱った作品はわりとあるのかも)
 同じテーマを扱っている『ペンギン・ハイウェイ』だが、あえて直接的なものを逸らして描いてくれている。

 主人公の少年アオヤマ君は大変頭が良いのだが、どうして自分がオッパイに憧れているのか、自分でも理解していない。漠然とした性への憧れを抱いているけれど、まだ精通すらしていない少年は、どうして自分がオッパイが気になるのかわからない。まだその年齢感の話だ。
 一つの象徴として、乳歯の生え替わりが描かれている。乳歯の生え替わりは子供時代の象徴だし、それが大人になろうとしている端境を示している。
 夢判断を見てみると、歯が抜けることは「大きな変化や環境の変化、あるいは別れを示している可能性がある」と出ている。
 その歯を、お姉さんに抜いてもらう。フランスでは「一本抜く」といえばオナニーのことだけど……。まあそれはいいとして、お姉さんに歯を抜いてもらって、だらーと血を垂らす。どういう暗喩が込められているかは、すぐにわかる。そういうシチュエーションを作るために、お姉さんを歯科医にさせるとか、なかなかうまく設定を作り込んでいる。
 でもそういう性の目覚めにまつわる話を、違うものに置き換えて、それとは感じさせない作りになっている。少数派だとは思うが、見ていて「性の目覚め」の話だと気付かず、単に少年の成長と冒険ものだと思って見る人もいるかも知れない。そういう作りになっているところが、大変上品に感じさせる。

 『マレーナ』もほぼ似たようなプロット構造を持った作品だけど、あちらは最終的に未亡人と××××しちゃうもの。見ていてちょっと恥ずかしくなっちゃう。一方の『ペンギン・ハイウェイ』は違うものとして描かれているから、上品に感じられる。そこが大変いいところだ。
 もう一つ、子供と大人の移り変わりとして使われているのが、コーヒー。私もまったく同じ手を『鑑定士ツグミ』という作品で採用したから、ちょっと「お!」となってしまった。

 少年がお姉さんの謎を解き明かす……ということがメインテーマに掲げられている作品だが、これは要するに性の憧れ、自分が目指している大人のイメージを自分の体内に取り込んでいく……という過程の物語。お話の流れはやはり『マレーナ』と同じ。お姉さんは旗印であると同時に、シンボルでしかない。少年にとって、お姉さんはちょっとイマジナリー側の人間ってこと。
 でも『ペンギン・ハイウェイ』でも面白いのは、ここにペンギンと、ペンギンを生成できるお姉さんという題材が代入されている。このおかげで作品が大変奇想天外なジュブナイルものとして接することができる。テーマや構造を見ると、少年の性の目覚めという端境期を描いた作品……なのだけど、そこに「ペンギン」が代入されているから、全く別物の、既視感を感じないお話になっている。

 音楽の世界で、「コードに著作権はないが、メロディに著作権はある」という言い方があるけれど、ペンギンがメロディに当たる部分。本質的には性をめぐるお話のはずなのだけど、ペンギンがそこに代入されているおかげで、今まで見たことのないストーリーラインに感じられるし、それを追いかけるお話があまりにも面白く、「どうなるんだろう?」「どういうことだろう?」と引っ張る力がずっととどまらず続いてくれる。このメロディ部分だけでもあまりも面白く、コードの部分を気にしなくても充分に楽しめてしまう。
 それにしても、なぜペンギンなのだろう? どうやったらあの着想に至ったのかを知りたい。

 で、ペンギンとともに、お姉さんは恐ろしいものも生み出してしまう。あれはおそらく将来への不安。大人になることの不安……という面を現しているんだろうと思う。性にこだわるなら、性の恐ろしげな面とか。
 成長は何もかもが明るい部分だけではなく、暗い側面も当然ある。

 テーマの中心にオッパイがあって、作中、様々なオッパイを思わせるモチーフが描かれるのだが、かといって、そこまでねちっこくもない。オッパイ描写は果てしなく、エロ漫画世界では多くの人が様々に追求している。オッパイマエストロとして知られるうるし原智志が描いたら、あんなふうにはならない。
 でも『ペンギン・ハイウェイ』を見ていて、ああこれなら大丈夫だ。安心して見られる、と感じられた。やたらとオッパイオッパイと連呼する作品だけど、それでも品良く描かれている。エロくすれば正解……というわけではない。そこが大変良いと感じられたところだ。
 オッパイのエロさを求める人からすれば、物足りないかも知れないけど。

 個々の描写もやはり良くて、ペンギンを巡る謎に引っ張り込んでくれる感じ。お話が進むごとに、平和な世界観に少しずつ不穏さが表れてくるのだが、それを画で見せていく過程が大変良い。
 描写で面白いのは、主人公達が住んでいるエリアからその向こうが、山が大きな壁のように立ち塞がって見えなくなっている。ちょっと『うる星やつら ビューティフルドリーマー』のような構造になっている。

 背景画はちょっと絵画っぽいラフな面を残しているが、それが大変いい感じの風合いを出している。キャラクターもきっちりとクリンナップされた線ではなく、ポツポツと途切れを出しているし、特に目の縁の線が、線と色とでミスマッチを出し、わざと浮いている感じにしている。でもそれが手触り感を残していて、この作品の場合かえって良い。
 大人達の描写も大変良い。こういった作品の場合、大人達はこれみよがしに間抜けに描かれるものだけど、大人達がちゃんと個々のアイデンティティを持って行動している感じを出してくれている。
 基本的には映画的な、フィックスのカットを積み重ねていく作品だけど、感情が動く場面では必ずカメラが動く。カメラが動く、というそれだけで見る側をドキドキとさせる効果を出している。
 クライマックスでは一気に躍動感ある映像を出してくる、あの憎さ! ちょっと石田裕泰監督の初期作品『フミコの告白』を彷彿とさせる大胆なカメラ移動。石田監督の一番の得意技であり、生理をクライマックスに持ってくる辺り、自分の資質を理解して、出すタイミングを心得ているな、という感覚がある。

 総合的に言って、『ペンギン・ハイウェイ』はただただ可愛い作品。ひたすらに、最後まで全部可愛い。可愛い映画を見たな~と気分良く終えられることができる。大変素晴らしい作品。私好みのおねショタ映画。おねショタ好き一族は絶対に見るべき作品。

 ただ、お姉さんの声が、どうにもイメージと違っていて……。独特なクセがあってそれは悪くないのだけど、イメージと違う……。
 声優は誰だろう? とエンドクレジットを見ると、蒼井優……。あーそういうことね。本職じゃなかったんだ。
 アニメ映画は主演クラスのキャスティングに、監督の権限はないからなぁ……(実写はもっとキャスティング権はなので、アニメはまだマシ)。仕方ないといえば仕方ないけれど、でもやっぱりちゃんとオーディションをやって、合う人を選べるようになってほしいものだ。


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