見出し画像

7月18日 「国の借金」と社会派おじさん

 財務省が2020年3月に発表したことによると、「国の借金」は1114兆5400億円となり、これは国民一人当たり901万円借金しているということになる。

 …………。

 これを読んでいる大抵の人はもうわかっていると思うけど、これは財務省発のデマゴギーだ。

 「借金」というからには誰かからお金を借りていなければならないわけだが、そのお金を貸している人は誰なのか? もしも国外からお金を借りているのであれば、日本政府の債務はドルやユーロで示されているはず。ところが「ドルを返済しなければならない」という報道は聞いたことがない。借金をしているなら、その「貸主は誰なのか?」のミステリを解かねばならない。
 この答えもここで言うまでもなく、正解は「国民」。国民が銀行にお金を預け、銀行はそのお金を運用するために国債を買って貸し、日本政府が国債を発行して借りている。だから正しくは「国の借金」ではなく、「政府の借金」なのであって、国民は借金を背負っているところか「資産」を持っているといってもいい。

 しかし財務省はもう20年……いやもっとか? それくらい長期に「国の借金がいくらで、国民一人当たりの○○万円借金していることに……」という宣伝をし続けている。
 どうしてそんな宣伝をしているかというと、財務省は伝統的に緊縮を好み、増税を達成させると担当の官僚が省内で出世できるという不思議な慣例があるので、この宣伝をし続けている。この「伝統」というのが相当に年季が入っているらしく、それこそ戦時中とかそれくらいまで遡れるそうだ。緊縮し続ければ結果的に国民が貧しくなるのだが、財務省はそんなのはお構いなし。自身の出世ゲームに国民を平気で犠牲にし続けている。

 と、いう話もここでするまでもなく、こういう話をネットで読んでいる人の大抵はもう知っていることでしょう。財務省の「国民の借金」話は毎年数回出てくるが、そのたびにネットでは「またやってるのか」とあきれる声で満たされる。
 今の時代にこの「国の借金」話をまともに信じている人たち、というのは霞ヶ関で働いているおじさん達と、頭の悪いマスコミたちくらいなものでしょう……と大抵の人は思っていることでしょう。

 こんな話をどうしてしたかというと、私は工場に勤めてごく普通のおじさん達と一緒に働いているのだけど、そこで気付くのだが、おじさん達の多くがこの「国の借金話」を信じているからだ。

 例えば最近はなんとかウイルスの蔓延で特別予算が組まれ、その対策に充てられた。マスクの配布や国民1人当たり10万円の定額給付金。そのほか企業や失業者に向けられた保証等々。そんな話が出てくると、おじさん達は「また国の借金が増える! この国の将来はどうなるんだ!」という話をし始める。

 世の中にはそういう話を好んで話題にしたがるおじさん達、というのがいる。とりあえず「社会派おじさん」と呼ぶことにするが、このおじさん達は常に世の中の色んな問題について語り合っている。中国問題が、尖閣諸島が、北朝鮮が……まあそういう話はいいとして、日本政府が何かしらの行動を起こすとすぐに「国の借金がまた増える」という話題をし始める。
 すると周りにいるおじさん達も同調して「国の借金をどうするか」話を始める。不要な出費を削るべきだ。軍事はいま戦争も起きてないし起きそうにないから、こっちのほうからお金を持ってこよう……とだいたいこういう結論に至る。防衛費を削減して、国の借金に充てよう!
 なんだかどこぞの朝日新聞にコントロールされている感はあるのだが……。

 「社会派」とか言っても、おじさん達というのは情報源の多くはテレビと新聞。底辺工場で働いているようなおじさん達だから本なんて読まないし、考えられるものの限界はテレビと新聞が上限になるし、考える方向もテレビと新聞で語られている方向に流されやすい。だから私は常々「教養は必要だ」と語っている。「余計な知識がない方が自由な考え方ができる」というのは嘘、考える幅を増やすために教養が必要なんだって。知識がないと世の中に流れている通説やデマのほうに流されやすくなる。

 ネット世界では「国の借金の話なんて、今時誰が信じるんだ?」と疑問を呈する声が多いが、現実には世の大抵のおじさん達は信じている。自分が社会派だと思っているおじさんほど、これを深く信じている。今のバイト先に限定した話ではなく、私は色んな仕事を渡り歩いてきたが、「国の借金」話は多くの人に受け入れられている。霞ヶ関のおじさん達や多くのマスコミ、それから世の大抵のおじさん達は自分たちはみんな900万円からの借金をしていると信じている。だからみんな「増税やむなし」と反対しないし、増税を推進する政治家を支持する。ここに疑問を持たない。
 これだけ、増税すればするほど国民生活の消耗していく、その実例をいくつも身の回りで起きているはずなのに、その実際に見てきたものを無視して、テレビが発進する虚構、概念に過ぎないもののほうを現実よりも優先する。現実よりテレビで見たもののほうを認識の上位に持ってくる人というのは、たぶんまだ日本国内では多数派なのだと思う。
 あのおじさんたちは以前は「テレビゲームをしすぎると現実と非現実(バーチャル)の区別が付かなくなる」と言い続けているけど、実際には自分たちが「現実とテレビの区別」が付けられなくなっている。あの当時から、今も。
 世の中、そんなもんだ。そう考えて諦めるしかない。

 あと私の想像だが、財務省のおじさん達は増税すればするほど国民生活がへたれていくことに気付いているはずだ。だって最前線の舞台にいて気付いていなかったら、それこそ本当の○○じゃあないか。国民生活を犠牲にしてでも自分たちの出世ゲームを優先してしまう。そのために世間に嘘を流し続ける。このグロテスクな状況が我が国が抱えている状況の一つだ。

※ ○○……知能が劣り愚かなこと。また、その人や、そのさま。人をののしっていうときにも用いる。あほう。社会的な常識にひどく欠けていること。また、その人。

 時々、私のほうにも話題が向けられることがある。
「お前達もみんな一人当たり900万円の借金を背負ってるんだぞ」
 と。
 そんな時私は、
「いいえ? 私は借金なんかした覚えはありませんけど」
 と答える。
 おじさんたちは「こいつわかってないな」という顔をして呆れて、若者を対話の輪からは外す。
 あなただって、どこからも借金してないでしょうに……。

 喋る能力がまったくない私が、「国の借金」のカラクリをイチから語って全部教えることはできない。おじさん達がどこかで新聞やテレビではなく、それ以外の何かから情報と知識を得て、このあたりの真相に気付いてくれればいいのだけど。


とらつぐみのnoteはすべて無料で公開しています。 しかし活動を続けていくためには皆様の支援が必要です。どうか支援をお願いします。