怪盗グルーのミニオン危機一発a0189ba

9月映画感想 怪盗グルーのミニオン危機一発

 一日の作業を終えて、ふと時間に空きができた。もうずいぶん前にテレビ録画したもので、ばっちりCMカットしてから視聴。テレビ放送していたのは……Wikipediaを見ると2017年7月22日だ。ずいぶん長いこと録画しっぱなしで放置していたんだな……。

 第1作目を見ていないから、経緯がよくわからない。えっと……元悪党だったグルーがどういうわけか3人の娘を持ったパパになっている。前作でなんかあったんだろうね。この辺りのエピソードは知らないから、とりあえず3人の娘を持っているシングルファザーのお話と思って見ることにしよう。

 映像の作りはぱっと見の感じは絵巻物っぽい感じ。あまりカメラワークにこだわる感じではなく、舞台劇のように人物を横から撮る場面が多い。ちょっとコメディドラマみたいだ。あまり奥行きを表現する感じではない……というか可能な限り奥行き感を排除しているように感じられる。
 その一方で、人物の動きがやたらとわちゃわちゃとしている。1秒でもじっとしていない。放送事故を恐れているのか、というくらい次から次へと何かしらのアクション、ネタが突っ込まれていく。
 始めは映像が単調かな、と感じられたが、こんなふうに次々とアクションがねじ込まれる作品だと、カメラワークにこだわりすぎるとむしろ伝わりづらくなる。なるほど、キャラクターの動きをわかりやすく見せるために、あえての構図なのかと納得。キャラクターを立たせるためのスッキリ感を目指すために、奥行き感が排除されているのだろう。

 グルーが住んでいる町並みがほとんどコピペ。これもあえてなのだろう。コピペの家が並んでいる光景を見せて、平和な感じを作っているのだろう。“そういう表現です”と割り切ることで、省エネにもなっている。
 住宅街をすっと抜けると、海岸沿いの街が見えてくるのだが、街の端っこが見えてしまっている。桟橋の1つ向こう側は家が途切れているのだが、見えちゃっている場面がある。これはさすがにうーんとなる。(通りの長さも10メートルほどしかないみたいだしね)
 後で海岸の街はデートのシーンで使い回される。
 中盤、大きな舞台としてモールが出てくるのだが、どことなく雰囲気が『マリオオデッセィ』みたい。意外なくらい舞台が狭い(街の周囲が空しか描かれていない)。狭いが、その代わりに道を歩いているキャラクター達が1人1人練られている。手を抜く場所と、凝縮する場所が見極められている。「どこを中心に見せるか」がちゃんとわかっている画だ。

 この作品は、常に慌ただしく、何かしらのアクションやネタが放り込まれている。ものすごい勢いでショートコントを繰り出しているような感じがある。
 前半、グルーが拉致されてとある組織から協力を要請されるわけだが、この説明シーンがだいたい5分。長くなりがちな解説を5分でまとめられている。鮮やか!

 グルーは要請を断る。「冒険の召命」を断る。これは物語の定石で、ここで主人公はなぜ冒険に出るのか、動機付けを行う。
 ……のだが、グルーはネファリオ博士のなんでもない打ち明け話を聞いて、冒険を決意する。うーん、動機としてはちと弱い。グルーは3人の娘を持っているのだから、現在の立場だと「かつてのロマンを取り戻す」はあまり強力な動機になり得ないんじゃないか。むしろ「娘の養育費が……」みたいな現実的な動機付けのほうが良かったような気がする。

 ようやく物語が動き始めるのだが、作品の特質なのだが、ちょっと枝葉に寄りすぎなところがある。「そのエピソード必要かな?」と感じられる場面がちらほらと。中心に軸を置いて、あえてあっちこっちいって賑やかさを演出しているのはわかるが、騒々しというか……。賑やかさはあるのだが、見ていると少し疲れる。デートシーンとか、必要だったのかな……?
 オーストラリア行きだったルーシーは短い葛藤を乗り越えて途中下車するのだが……。こっちも動機付けが弱く感じる。こちらも物語の定石なのだが、特にエピソードがなく、かってに自己解決してしまった、という感じ。グルーの幻覚を見るって、かなり精神的に危ない人のように思えるが……。

 あまりにあっちこっち行き過ぎて、よくわからなくなる場面もちょっとあって。
 ネファリオ博士は怪物化したミニオンたちに「家族には手出しさせん」なんていうが、いや、やったの自分じゃないか……。
 怪物化したミニオンたちの習性もちょっとわかりづらい。凶暴化するが、きちんと社会性はあるようだ。見境なく仲間同士で殴り合う……という感じじゃないのか……。命令に従うあたり、冒頭のビデオで見せたような「無差別に攻撃する狂人」という感じじゃないのに少し違和感がある。
 ミニオンたちを回復させる薬は、冒頭に作っていたジャムをちょっとした加工すると特効薬になる。それはさすがにご都合主義。ジャムの原料、一応、果物のはずでしょ?
 ラスト際に入り、ラスボスが例の薬で凶暴になるが、その力を発揮することなくあっけなく倒されてしまう。おそらくはあえて緊張感が長引きすぎる描写を避けたのだろう。なにしろここまで一つ一つのシーンをショートショートで描いてきたのだから、ここで長く描いてしまうとバランスが悪くなる。凶暴すぎるラスボスはこの作品には間違いなく合わない。しかし、あっけなく倒されてしまうラスボスに拍子抜け感がある。バランスを見ると正しい描き方だが、もうちょっとしつこく暴れてほしかった。

 結局はグルーの社会性の回復・社会性の獲得が最終目標になっている。ミッションを達成し、理想の伴侶を手に入れて、未完全だった家族が完全な形になるお話だ。
 お話としては綺麗にまとまったが、グルーがアウトローとしての生活・立場を捨てて、「平凡な男」「平凡な大人」になっていく物語に寂しさのようなものを感じてしまう。
 日本では『ルパン3世』というアウトローとして生き続ける運命を自ら選んだ男の物語がある。アウトローであり続けるから、ルパンの物語には着地点がなく、延々物語が作り続けられている。ついつい、ルパンとグルーを比較して見てしまう。ああ、グルーはただのおっちゃんになってしまったんだな……って。作品の着地点としては、綺麗にまとまったけれども、寂しさが少し感じてしまった。

9月6日

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