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10月映画感想 ジュピター

 物語は主人公の両親の馴れ初めから始まる。道端で望遠鏡を見ている男に、通りすがった女が声を掛けるのだが……なにか妙に視野が狭いというか、画角が狭いというか。空間の広がりを感じない。作りものめいた感じがする。
 それからいろいろあって主人公ジュピター誕生。ジュピターはシカゴで清掃員として働いていた。ここも妙に「作り物です」という感じのわざとらしさがあって……。なんでこんなに空間の広がりを感じさせない絵になっているのだろう。
 そんな主人公の日常はさておきとして、宇宙では何かしら怪しい動きがあるのだが……展開がいろいろ唐突すぎ。最初は理解するのが大変だし、主人公の日常から離れた世界観のお話が次々と出てくるので、主人公の日常世界が余計物語から遠ざかってしまう。

 間もなく物語の使者が現れ、ジュピターは異世界である宇宙へ、宇宙の戦いへと巻き込まれていく。貧しい清掃員のジュピターは、実は宇宙を統べる王であった……という事実が明らかになる。要するに「SFシンデレラ」だ。
 地球人類は異星人達の「作付け」によって誕生した種であり、その目的は宇宙人達の若さを保つための飼料。地球人が地球での生活ができないくらい繁殖した今が、まさに「収穫」の時だった。
 おお、これはなかなか面白い設定だ。しかしどこかで聞いたような……あっ! 『マトリックス』だ。かつて機械が人類を飼料としていたあの設定を、様々な異星人キャラクターに置き換えたわけだ。
 『マトリックス』を『スターウォーズ』や『スタートレックス』の世界観に近付けて描き直した作品……ともいえなくもない。

 ただ……映画を追っていくとどうにも展開に唐突な感じがする。
 主人公ジュピターは卵子の提供で病院へ行くのだが……名前を呼ばれて立ち上がった次のカットで、もう異星人に襲われている。そこに至るまでのいろいろがないまま、いきなり襲われているシーンに飛ぶので、「あれ? 寝ちゃったか?」という気分になる。
 それにシーンの掘り下げ方。この映画、冒頭から妙に作り物っぽいというか、書き割りっぽい空間の描き方をしている。映像が作り物っぽいし、余白や余韻もなしにいきなり決定的なシーンに突入してしまっているので、その世界観に気持ちを委ねることができない。観る側が異世界に入り込むための導線を作っていない。気持ちが入らないまま、「実は主人公が地球を統べる王であった……と言われましても」……となってしまう。

 ジュピターを演じるミラ・クニス。宇宙スケールのシンデレラが展開しているのだけど……この人がお姫様です……と言われてもなんかピンと来ない。そこまでの存在感があるような気がしない。

 とりあえずなんやかんやあって舞台は宇宙へ。現在の宇宙の統治者である3兄弟に会う展開が始まるのだが、その光景がなんとも『スターウォーズ』亜種。『ジュピター』という映画ならではのイメージがない。どのシーン、どのデザインを見ても「別の映画で見たな……」という感じになる。
 そのイメージの貼り合わせ方にも違和感があって。地球のシーン、現代の風景にサイバーパンク風の青髪の女の子が出てくるのだがあまりにも風景と合ってないので居心地の悪さを感じる。描かれているイメージにしても「いかにもなサイバーパンク風」で個性がない(青髪の女の子、妙に目立つのに最初の40分以後出てこなくなる)。
 王族の住み処だが、建築や住居にそこまでの品の良さ、居心地の良さを感じない。居心地の良さ、はあえて削ったのかも知れないけど。「生活の場」としての空間や、生々しさがまったくない(こういうのは『スターウォーズ』でもあまり重視されない部分だけど)。
 で、その王宮に潜入するケインだが……上半身裸! 潜入の手法があまりにも雑なんで、普段こういう場面をゲームで経験しているほうとしては、「もうちょっと慎重に! 物陰から体を出すな! 音を立てるな!」とか色々言いたくなる。あと服着ろ!

 その後、ジュピターはアブラサクス兄弟がいる別の惑星へと順番に巡り、それぞれの場所でのクエストをこなしていく。世界観の描き方は、最初はまだ自然の豊かさがあったが、次第次第に寒々とした工業化した世界観へと移り変わっていく。背景でそれぞれが持っている温度感がわかる仕組みになっている。生活感覚はどんどん後退していって、最後の惑星は「こんな場所で生活なんてできるのか?」と疑問に感じる。あと、それぞれの惑星のイメージを、最初の方にすでに出してしまっているので、映像が出てきた瞬間の驚きがない。
 アクションシーン自体はなかなか盛り上がっていくのだけども、展開が予定調和的で……。そろそろ落ち着いてきたから、主人公が誘拐されるかなー……と思ったら予想通り誘拐される。で、対話シーンが少しあって、アクションシークエンスへという展開。「次」のシーンへの進み方がシームレスではない。ツイストとして誰かしらの「裏切り」がセットで描かれるのだけど、これもやっぱり予定調和的。
 時々、主人公とケインのロマンスが挟まれるが、「これからロマンスやりまーす」的な空気を作りすぎるので、シーンが浮いてしまっている。しかも別の場所で、似たような展開を繰り返す。

 うーん、あの『マトリックス』を作り上げた個性豊かな創造性はどこへいったのだろう。何もかもが「別の映画で見た」イメージばかり。
(ただ、地球の偵察隊としてやってくるリトル・グレイちゃんはかわいい。「キャトルミューティレーションが実は……」という話になっていて面白い)
 どっかで見たな……というのはさておくとして、肝心のお話さえ面白ければいいのだけど、そこが面白くない。いや、大きなプロット自体は悪くないのだけど、観る側をきちんと導こうという配慮がない。地球人が実は飼料だった……という展開もただの「情報」だけだったし……同じ設定といえなくもない『マトリックス』は今まさに直面している危機だったからその切実さを感じたけれども、『ジュピター』ははるか遠い宇宙の話……そこで交わされている事態の重さがどうにも掴みづらい。見ていて「人類どうなるんだ?」みたいなハラハラ感がまったくない。ほとんどの情報が「言葉」だけのものになっているし、それも入り組んでいて、最初は「え? どういうことだ?」と把握しづらい。わからなくなって何度か映像を戻したもの。
 面白いところはたくさんあったはずなのに、面白くなっていない。ただ2時間かけて「大きな設定」を聞かされただけになってしまっている。その設定にしてもインパクトに欠ける。そもそも『スターウォーズ』亜種だし。うすらぼんやりなイメージしか残らないSF映画だった……。

10月25日

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