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1月6日 宇宙のことはよくわからない。

 Netflixで『ブラックホール 知識の境界線に挑む』というドキュメンタリーを見た。
 2019年に撮影されたブラックホール画像。あの1枚を撮影するために、どんな物語があったのか……を描いた1時間半ほどのドキュメンタリーだ。

 この写真のブラックホールがある場所はM87星雲(ウルトラマンがやって来たのはM78星雲。似ているけど違う)。地球から5500万光年の彼方にある。本来、そんな遠い場所の画像を撮影するためには、地球と同サイズの巨大レンズが必要になるが、それは現実的に無理。それで、地球上の様々な箇所に天文台を設置し、そこでそれぞれで撮影し、最終的に画像を合成する……という手法を採られた。
 その撮影された天文台はいずれも滅茶苦茶に標高の高い山の上。周囲に街のないところだから、夜になると満天の星が輝く。そういう条件のいい場所に巨大建築を建てて、撮影に臨んだ。
 そうはいっても、5500万光年の画像……。ということは写真の画像は5500万年前の画像ということで、写真に撮られたブラックホールは現在その位置に無いということになる。5500万年前といえば、地球では恐竜が絶滅し、我々の御先祖となるお猿がようやく地上に現れた頃だ。そんな時代の画像を、私たちは見ていることになる。なんだか途方もないものを見てしまっているんだなぁ……。
 素朴な疑問として、そんな遠い天体を撮影するのに、間に遮蔽物は入らなかったのだろうか? そもそもなんでその場所にあるとわかった? わからないところだらけだ。

 ブラックホール写真が画期的である理由は、ブラックホールがずっと「理論上」の存在であって、本当にあるかどうかはよくわからなかった。ほとんどUMAのようなものだった。そうはいっても、ブラックホールの存在を否定する科学者は、いなかったと思うけど。

 今回の撮影でブラックホールなるものが確実に存在することは確認できたけれども、しかしそれがどういったものかはいまだによくわかっていない。
 ドキュメンタリーにはホーキング博士が登場する。ドキュメンタリー制作中にこの世を去ったので、生前最後の動画ということになる。
 ホーキング博士はおよそ40年前に「情報パラドックス」という論文を書いたが……まぁ私にゃ内容はさっぱりわからない。というか、「情報パラドックス」なんて理解できる人、地球上に何パーセントいるんだろう?
 「情報」というのは常に一定量存在するものであって、それが減ったり増えたりすることはない。例えば水は、熱すると蒸発し、冷やせば凍る。状態は変わるけれども、地球上の水の総量は変化しない。
 同じように宇宙にある物質も変化はするけれど増えたり減ったりはしない。
 ではブラックホールの中に入るとどうなるのか? 物質はどういう状態になるのか? これがわからない。
 科学者たちは、ブラックホール周辺の、ビロビロとなっているところ……“柔らかい髪”と呼んでいるところに情報が温存されているのではないか……と推測するが、実際はどうなるかわからない。

 それを考え出すために、ホーキング博士が中心となって方程式を作成するのだが、その方程式が1050項からなるトンデモ式。私には暗号にしか見えなかった。あまりにも複雑な方程式なのでコンピューターに読み込ませても解いてくれず、しかたなく手計算で解いていくのだけど、解いている最中に方程式が不完全であることに気付き、項を足したり減らしたり……。数ヶ月掛けても解けない方程式になってしまっている。
 「情報パラドックス」が提唱されたのは40年前。その理論の証明のため、あるいはさらに深めていくために、科学者がいかに苦労しているかが描かれていく。
 それにしても世界の構造そのものを計算式という形で再現できる……という考え方が凄い。数学ってそういうものだったのか……。
 実際、そういう数学的な推定を積み重ねていくことによって、ブラックホールが確認される前からその存在を推測で導き出していた。科学者は実証を積み上げて理論や推論でまだ見ぬ世界の構造を解き明かそうとする。「世界の構造を解き明かす」という課題は哲学の仕事で、その仕事が科学者たちに引き渡れていた。いつかその推論をひたすら積み上げて、「神」の存在も突き当てたりするのだろうか……。
 小説家はそういうものを空想で考えて作り出す。科学者が推論で「まだ見ぬ世界」を構築する。この2つの試みがどこかで合流しそうな気配がある。

 結局のところ、ブラックホールの話は私には何もわからなかった。きっとわかる人が見たら、めちゃくちゃに面白いドキュメンタリーではないかと思うけど……。私には向いてなかった。


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