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ゲーム感想 トーエム

 今回紹介するのはスウェーデン生まれの小さなゲーム。
 『トーエム』。スウェーデンのインディーズゲームスタジオ・Something We Madeが制作した作品だ。Steamに初登場したのが2021年9月17日。発表されてからは圧倒的高評価。現在確認すると3299件のレビューがあるが、この評価は揺るぎない。
 いくつかアワードを獲得しており、BAFTA GAMES WINNERではDEBUT GAME受賞、IGF FINALISTではEXCELLENNCE IN AUDIO受賞、EUROGAMERではESSENTIAL受賞。世界で合計6つのアワードを獲得している。
 今回、私が遊んだのはNintendo Switch版。おそらくはSteamや他のゲームハードと出ているバージョンと同じ内容のはずだ。

 ではゲーム内容を見てみよう。
 ある朝、「今日は冒険に行こう」と張り切ってリュックを背負う主人公に、お婆ちゃんがカメラをプレゼントしてくれる。冒険の最終目標は、キイルバーク山岳地帯で見ることができるという「トーエム」という現象。それを写真に収めることだった……。

 導入部はこんな感じ。すでにお察しのように、このゲームには荒っぽい展開が一切ない。バトルなし。激しい運動を要求するようなシチュエーションもない。そのかわり、ひたすらに「おつかい」ゲームだ。

 ゲームの展開をざっくり説明すると、道行く人に「お前、カメラ持ってるの? じゃああれ撮ってきてくれよ」とお願いされる。該当写真を撮影して見せると、何かしらのご褒美をもらえ、その先に進める……。だいたいこういう構造になっている。
 最初の方はおつかいの内容も簡単で、すぐに終わるものばかりだけど、次第に“とんち”を効かせないといけなくなってくる。

 例えばある場面では、「音楽のインスピレーションが欲しいなぁ……」と呟いている人がいる。この人に「音楽」を持って行くにはどうすればいいのか? プレイヤーが持ち運びできるのは「写真」だけだが……。
 これはなかなか難しい場面だが、あるところへ行くと、口笛を吹いているおじさんがいて、その口元から「音符」が漏れている。その音符、なんと写真に写すことができる!
 これに気付いた時「ああ、なるほど!」となった。このゲームでは漫画的表現も写真に写すことができるわけだ。
 こんなふうにだんだん“とんち”を効かせた謎解きが出てくるので、これを解いていく楽しみがある。

 ゲームのビジュアルは見てわかるように見下ろし型の視点。描かれているのは移動可能なエリア内のみとなっている。
 しかしカメラのファインダーを通して見ると……通常画面では描かれていない奥行きが見えてくる……という構成になっている。通常画面では見えてないけれど、カメラのファインダーを通すと意外なものが見えてきて……という謎解きもある。
 通常の見た目の世界と、カメラのファンターを通した見た世界が違う……。単純なようで、「カメラを覗く」という気分をうまく表現している。

 さらにビジュアル面について詳しく掘り下げていこう。

 木のオブジェクトはこんなふうに作ってある。平面の木のオブジェクトを2枚重ねて作られている。まるで「立体絵本」をそのままゲーム画面にしたような作りだ。
 キャラクターオブジェクトは基本的にメインカメラに対し正面を向く……という設定で作られている。つまり「横側面」「背面」が作られていない。
 画面のカラーは見ての通りグレースケール。

 つまり、作る方も「労力削減」で割り切って作っている。自分たちではそこまでなんでもかんでも作り込めないから、「この部分だけ」作る……と。でもこの作品の場合、これが「素朴さ」の表現となっていて、実にいい味わいとなっている。豪華なビジュアルで表現されるより、むしろこういう風合いであってほしい……とさえ思える。

 次にキャラクターを見ていきたいが……まず主人公からしてこれだ。いったい何者なのだろうか? 人間……には見えない。なんだかわからないけど……とにかく可愛い。

 この作品に登場するキャラクターはみんなこんな感じ。わかりやすく人間らしいキャラクターもいるけど、それはごく少数。動物キャラクターもいるし、なんの生き物なのかよくわからないキャラクターたちもいる。
 街の喫茶店のようなところに入ると、店番しているのはこんなキャラクター。最初に見た時、ロボットかなにかと……。でもよくよく見ると人間? よーく見ても、結局なんだかわからない。でも可愛いからまあいいや……という感じになる。
 こんなふうに訳のわからないキャラクターだらけ。でもこういう素朴な風景の中にいると、そこに違和感を感じない。むしろそういう不思議な生き物や奇妙な生き物がいるのが当たり前、そしてそういうキャラクター達が平和的に共存している……という世界観になんともいえない温もりを感じる。

 それでゲーム的な厚みは……というと、だいたい4~5時間くらいで全要素をコンプリートできてしまうのかな? それくらいさらっと遊んで終われる。
 それで内容が薄くて物足りない……という感じもない。「ああ、楽しかったね」で終われる。「傑作」とか「名作」とかそういう作品ではない。ささやかで、そっとそこにいる……という感じの1本。ゆったりとした徒歩で、いい風景を眺めて帰ってきた……という心地になれる作品だ。

 ゲーム的なツッコミというか、引っ掛かりを一つ挙げると、写真を撮るとき、画面の「左側」の操作系が「Rボタン」「Rスティック」で操作する……というふうになっている。これ、最初引っ掛かるんだ。画面の左手にある操作系は、「Lボタン」「Lスティック」だと思ってしまう。これはレイアウトを左右逆に作った方がいいよ。
 まあ操作に引っ掛かりがあった……というのはここだけなんだが。

 ゲーム終了後の隠しメッセージや隠しビジュアルといったものを少し探してみたけれども……。そこでちょっと「おや?」というものが出てくる。作り手のものすごく個人的な画像やメッセージが出てきてしまう。あんな画像が出てくると、世界観が破綻するじゃないか……という気がするが、しかしこの作品は、誰かのものすごい作家性が反映された世界観……というものではなく、作り手にとって「自分たちの記念碑」となる作品。このゲーム自体が「家族写真」のようなものなのだろう。
 むしろああいった隠しビジュアルが許されてしまう……というところにこの物語世界観の「懐の深さ」を感じ入ってしまう。

 ものすごい名作というわけでもなければ、ものすごくアクティブになれる作品……というわけではない。休日をゆったりしたい気持ちになりたい時に選ぶ1本としては最適な作品。疲れている時に、この不思議なキャラクター達とともに旅をしてみてはいかがだろうか。


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