ジョジョの奇妙な冒険_黄金の風_mv_sp

2018年秋アニメ感想 ジョジョの奇妙な冒険 5 黄金の風

 『ジョジョの奇妙な冒険』シリーズ第5弾。制作スタッフはいくつかの入れ替えはあるものの、監督、脚本、音響といった顔ぶれはこれまで通り。ジョジョを愛し、ジョジョを知り抜いている、チーム『ジョジョ』と呼ぶべき人達が制作にあたっている。安定のクオリティで安心して見られる。ナレーションも第1部から参加の大川透だが……以前のような力強さはなく、だいぶトーンは低め。まだ調子が悪いのだろうか……。

 『ジョジョ』の第5部、ジャンプ連載時にもちろん読んでいたのだが、不思議なくらい記憶にない。第4部までも記憶は鮮明だが、第5部から急に曖昧(部分的に第6部とごっちゃになっているところもある)。第5部について、大雑把なストーリーと設定以外、何も憶えていない。
 それで、記憶を掘り起こすために単行本を読んだり……ということをやっていない。なぜなら、まっさらな状態でジョジョアニメを見られるからだ。記憶がないおかげで、新鮮な気持ちでジョジョを楽しむことができる。記憶がなくなっていた、私としてはむしろラッキーだ。そして第5部ジョジョはものすごく面白い!

 第5部ジョジョの画作りは第3部に戻ったように感じられる。第4部の黄色の空に、整理された線で縁取られた背景。第4部は杜王町という閉じた空間だったから、あの完成度。あの第4部と比較するのはちょっとおかしいが、第5部に接した最初は少し違和感があった。その違和感も、2話、3話と進んで行く過程で気にならなくなったが。
 第4部は杜王町という閉じた世界観の中で、日常のちょっと不思議をジョジョ的に、不思議の現象にスタンドを当てはめてみる……というやり方だったが、第5部はマフィア映画の世界にスタンドを当てはめた内容になっている。
 第4部は不思議な世界……じゃんけん少年や、背中を見られたら死ぬや……そういうオカルトや都市伝説に出てくるかも知れないようなものをスタンドに当てはめる、という内容だったからどちらかといえばおだやかな展開。あのなかで吉良吉影が突き抜けて戦闘に特化していたスタンドだった。が、第5部はマフィアの抗争が中心なので、全員がバトル特化のスタンド。最初からバトルが激しい。命の取り合い、殺し合いが中心になっている。非常に由緒正しい少年漫画的なストーリーが楽しめる。
 マフィアの物語……言ってしまえば犯罪者たちが主人公なのだが、そこに描かれているのは昔ながらの義理人情。悪い奴だが、善人には手を出さない。道を踏み間違えそうなやつがいたら叱って殴って日常に戻させる。昔のヤクザものに描かれたかも知れない義理人情が描かれる。
 対する敵は、ストレートな“悪”。これでもかというくらい、見た目も中身もブレない悪い奴。その悪い奴と正義のマフィアが戦う。痛快な勧善懲悪。昔ながらのお手本のような娯楽活劇になっている。
 それで、やっぱりジョジョ的なバトル展開。敵がどんなスタンド使いか。性質を予想し、なにが弱点なのか……。時に一方的に責められピンチに陥りつつも考えに考え、最終的に一発逆転。勝利を確信したときの、あのケレン味たっぷりに決まった絵。あの瞬間のたまらない快楽がほしくて、私はジョジョを追いかけ続けるのだ。戦うべき、倒すべき“悪”が明確だからこそ、そして全員がバトル特化のスタンド同士だからこその、最後にやってくる快感が大きい。
(第5部の記憶を失っている状態で見ると、新しいスタンドと接した時「なんだこれは?」と登場人物と同じ気持ちになれることに気付いた。簡単にはわからない。一癖も二癖もあるスタンド。一瞬でやられてしまうかもしれない緊張感。それを乗り越える、毎回クライマックスで見せる斜め上の逆転劇。ミステリとバトルのほどよい両立感。いや、もう楽しくってしょーがない)

 前にも書いたと思うが(自分のブログを確認せず)、漫画には2種類のタイプがある。1コマに割り当てられた時間が一定の漫画と、1コマに当てられた時間が長くなったり短くなったりする漫画だ。『ジョジョ』は後者にあたる。『ジョジョ』はこれが極端で、1コマの持ち時間が一瞬であっても、大きなコマで長台詞が入ってたりする。
 漫画はどちらのタイプであっても、物語が進む速度が読者に委ねられているから、コマとコマの間にあるものが認識されず、コマに割り当てられた長さが違っていても平等に読むことができる。
 これがアニメという“時間に支配されたメディア”に翻訳されるときに不都合が現れる。「1コマに割り当てられた時間が一定の漫画」は、漫画のコマをそのまま絵コンテにして映像にしても何も問題なく成立する。しかし『ジョジョ』は成立しない。あの漫画をそのまま映像にすると、あまりにも奇妙で、見るに堪えないものができてしまう。特に『ジョジョ』の場合は起きている現象がことごとくトリッキーだから、映像にしたときの違和感が大きい。
 それで引っ掛かったのは、ジョルノによるポルポ暗殺シーン。拳銃をバナナに変えて、刑務所の中に設置する。ポルポはそれに気付かず、バナナと思って拳銃を口にくわえて……という場面だが。漫画は漫画の魔力があるからこそ成立する現象だが、アニメで見ると「うーん、無理があるなぁ」と。ベッドに化けていたポルポが現れるシーンも、「うーん」となったところだが。漫画をアニメに翻訳するさいの難しさが現れる場面だ。
 大抵のシーンについては、さすがチームジョジョ、うまく描いているなぁと思うが。時々翻訳が充分ではなく、不自然さが現れる。

 あとはやっぱりファッションかな。第5部は尖ってるな……。もともと荒木先生は奇抜なファッションを描く作家だが、第4部は杜王町という閉じた世界観だったが、舞台は日本。対して第5部はイタリア。イタリアというか、思い切って異世界と捉えたんじゃないかと思う。日本を舞台にしていたら絶対にあり得ないようなキャラクターに、ファッション。ライトノベルファンタジーでも、あんな格好をしたキャラクターはまず出てこない。それくらい独創的。独創的でかっこよくて、少しセクシーで。荒木センスが全体に大爆発している。
(ゆえに、少しリアル寄りに描かれたイタリアの風景とちょっと違和感が出ているのだが……それも2話、3話と進むあたりで違和感もなくなるが)
 毎回毎回がファッションショーのようで、見た目にも楽しい。ただ、あんな奇抜なファッションが日常に混じっていたら「あの人、すごい格好だからスタンド使いかもよ」とバレてしまいそうだが(スタンド使いがみんな奇妙な格好をしているわけではない)。
 相変わらず思うが、荒木先生はオンリーワンの代名詞みたいな存在だな……。そんな荒木先生のジョジョを、毎週見られるのが嬉しくって仕方ない。

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