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ゼルダ無双 ハイラル散歩1 ハイラル城下町

 この記事のみで使われる特殊な用語の解説。

ブレスオブザワイルド時代…『ゼルダ無双』の時代から100年後の時代を指す。『ブレスオブザワイルド』の舞台となった時代。
ゼルダ無双時代…『ブレスオブザワイルド』から100年前の時代を指す。『ゼルダ無双』の舞台となった時代。
正史…『ゼルダ無双』のゲーム中に描かれなかった、本来あるべき世界線。四英傑が死亡し、リンクが倒れる世界線のことを指す。

 『ゼルダ無双』と接して何よりも興味深いのが、100年前のハイラル地方の風景。基本的には『ブレスオブザワイルド』と同じ地形データを使いながら、その100年前の風景をシミュレーションされて作られている。
 『ブレスオブザワイルド』時代は何かも破壊され尽くされ、森に変わっていたところもあったが、実は『ゼルダ無双』時代では繁栄した街が築かれていた。『ブレスオブザワイルド』にどっぷりはまりこんだ私からすると、これは歴史の時代を遡り、目撃するような体験だった。敵を一通り一掃してからの『ゼルダ無双』のフィールドを歩き巡るのが、何よりの楽しみだった。
 あちこち歩き回り、キャプションして回ること4500枚。その一部をここに紹介しようと思う。

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 冒頭の場面。ハイラル王が王国の騎士達を集め、アジテーションをやっている。リンクはその中に混じる、一兵卒に過ぎなかった。
 映像を見ていると気付くが、リンクは他の兵士達と較べて背が低いし、体が細い。ゼルダ姫と並んで立つと、視線が真っ直ぐに合うくらいだ。……あれくらい背が低くて細かったから当たり前のように女装ができたわけだけど……。兵士達と並んでいる姿を見ると、決して強そうには見えない。でもリンクはすでに救世主としての特別な力を持っていた。

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 スタート地点は『ブレスオブザワイルド』でも見覚えがある。リンクは後にこの場所でゼルダ姫から正式な騎士としての叙任式を受けることになる。

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 ハイラル城周辺は少し変わった形をしていて、堅牢な城門向こう側に住宅地が置かれ、さらに大きな門を置いて城、という構成になっている。
 城門の手前側に広い平原が置かれて、さらにその周辺に城門が作られ、住宅地が広がっている。
 平原には祭壇が置かれ、そこで叙任式などの重要な式典が行われている。こういう構造になっているのは、庶民も時には式典に参加しやすくするためかと思われるが、もしかすると「平原」そのものがハイラル文化にとって重要な意味があるのかも知れない。何かしらの宗教的な意味があるから、わざと広い平原を、しかも草をきちんと刈らずに伸ばしたままの状態で保存されていたのかも知れない。

 さて、順路なので、北西のエリアから順番に見ていくとしよう。

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 北西のエリアは石切場となっている。足場がいくつも作られていたから、こういった事態に陥る直前まで、あの辺りで作業をしていたのだろう。
 ハイラル地方は山がちな地域で、しかも山脈の多くは頑丈な石でできあがっているので、石の建材は豊富に得られるようだ。作業場が城から非常に近いところにあるが、これはハイラル地方の可住面積が狭いため、建材も農場も近いところに作らねばならないという事情がある。繁栄した都市ではあるが、暮らしはコンパクトにまとまっているのがわかる。

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 平原から西のエリアで、問題のシーカータワーがにょきにょきと生えてきた地点にやってくる。  この辺りも『ブレスオブザワイルド』では印象的な地域で、ほとんど基礎しか残っていない廃墟にガーディアンの残骸が複数残っており、昇ろうとするとあちこちからレーザー光線を撃ち込まれた思い出がある。
 そんな場所も、100年前の時代ではずいぶん栄えていたんだな……ということがわかる。

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 そこから南へ進むと、石造りのきちんと整えられた建物のエリアにやってくる。王の旗がひらめき、高い塔が築かれている。道路もきちんと整えられ、樹木や花壇もきちんと整えられた場所に植えられている。噴水もある。城壁から建物へ直接行き来できる渡り廊下も多数作られている。

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 明らかに高級な作りの建物が並ぶ地域だが、ここは……なんだろう? ブレスオブザワイルド時代の地図を見ると、「ハイラル軍駐屯地跡」とある。確かに大砲がいくつも並び物々しい様子だ。この辺りでは一番リッチな造りで、ハイラルが軍隊を大切にしていたことがよくわかる。いずれやってくるガノンの脅威があったからこそ、ここまでしっかりした駐屯地を作っていたのだろう。
 ハイラルが有事に陥った際、ここからハイラル城を守りに行ったり、また城下町を守りに行くこともできる。そうした地勢的なものを考慮してここに駐屯地が置かれたのだろう。

 さらに南へ、門をくぐって行こう。

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 門を見ると、格子が上がったままだ。これは格子を下げる間もなく魔物達が攻めてきた……ということを意味しているのだろう。
 その門の下、20段ほどの階段を下りると、生活のグレードは一気に落ちる。

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 一般の住宅街に、広場に市場が築かれている。こうした立地になっているから、軍人達の食料調達もここからまかなっていたのだろう。こうしたところも、ハイラル城がコンパクトにまとまった国だったということの一つだ。
 市場の商品を見ると、どれも商品を入れたまま。商品を持ち帰る暇もなく、そこにいる人々も盗んでいる暇もなく、魔物が攻めてきて一斉に避難したのだということがわかる。

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 噴水広場。噴水やその周りの敷石はなかなか綺麗に作られているが、その周辺の作りは雑。とくに門は未完成に見えてしまう。
 これは一段落ちる住宅だから……と思っていたのだが、でも門をよく見ると左右対称に整えようとしている形跡もある。そもそもお城周辺に使われている建材と違い、さらに様式も違う。
 ということは、ひょっとすると年代が違うのかも知れない。ハイラル王朝がピークに達した頃とは違う時代の、遺産的な門かも知れない。

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 一般住宅地に入ると、木材で門が作られている。無骨に木を切って、曲げて、ロープで縛っている。それでもアーチの形に整えようとしている辺り、大工の意地が見えてくる。釘は使わなかったのだろうか?

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 東側へ行くと農場が見えてくる。畑や積みワラが置かれている。ブレスオブザワイルド時代の地図を見ると、メーベの町跡と書かれている。
 ハイラル王城の人口はかなり少ないと思われるが、それでもこの程度の農場で住人全ての胃袋を満たすことは無理なので、他にも農場があるのだろう……『ゼルダ無双』の中で農場を発見することはできなかったが。

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 立地から考えると、この農場は王家や貴族階級の人々に届けるぶんの食料が作られていたのではないだろうか。ヨーロッパのセレブ階級は市場に並んでいる食べ物を信用しておらず、お金を払って収穫をし、自分で収穫した分だけを食べる……という話を聞いたことがある。そういった感じに、自分たちの信用のおける農主をここにおき、自分たちが食べる分を作らせていたのではないか……というのが私の想像。
 でも、一般庶民向けの農場はきっとそう遠くない場所にあるんだと思う。その農場で作られたものが、そう遠くない市場に並び、庶民も貴族も同じ場所で買う。そういうコンパクトな王国なのだろう。

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 農場のすぐ側には、こんなグランドが作られている。サブミッションでここを部隊に訓練する場面があるから、兵隊の訓練場みたいな場所だと思っていたのだが……。ブレスオブザワイルド地図を見ると「平原の牧場跡」としっかり書かれていた。どうやらここはそういう施設らしい。
 外周の草削れているので、馬が走っていたんじゃないかと想像されるが……。

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 気になるのは奥に見える塔で……あれはなんのための塔だろう。ここが牧場だとすると食料保管庫のようなところだと思うが……よくわからなかった。

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 南側エリアと繋ぐ橋。この橋がなんなのかよくわからない。ボーネル橋と、奥に見えるのはアウール橋だろうか……しかし地図を見ても位置が一致しない。
 ゼルダ無双の地図をブレスオブザワイルドの地図を重ね合わせると、式典場、シーカータワー、駐屯地、牧場までは概ね一致するのだが、川と橋の位置だけが一致しない。
 これはどういうことだろう……。100年ほどの間に川が流れている位置が変わったのだろうか。この辺りの謎は解けなかったので、いったん保留とする。

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 さらに南へ進むと、ボコブリンの拠点となる櫓が現れる。『ブレスオブザワイルド』時代でもよく見られた形の櫓だ。
 住人達が大慌てで避難して、その近くにこういったものが作られた、ということは、これは簡単に作れるものなのだろう。おそらくは一日のうちに。
 害虫駆除のつもりでバクダンを投げて破壊してしまおう。

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 櫓のすぐ側には、ボコブリン達が食い散らかした跡が残されている。汚い。食い散らかしたものの厚みが薄く、しかも瓜系植物の赤い面がくっきり残っていることから、食事はごく最近。昨日とか、それとも今朝とか、それくらい最近のものだろう。
 見ていると瓜系の植物が中心で、少しサカナの骨が混じっているのが見える。おそらく側の農場を襲い、そこで得た物をたたき割ってむしゃむしゃと食べたのだろう。
 大きな器と、柄杓のようなものが一つ見られる。器の材質はよくわからない。自分たちで成形したのか、それとも木の実をくりぬいて作った物か……。柄杓のような物があるのはなぜだろう。ボコブリン達が獲物を取り分けたとは思えない。近くの農場から奪い、その時に柄杓も付いてきたのかも知れない。
 食べ物を綺麗に切り分けることもせず、スプーンといった道具も使っていない。こういう食い散らし方に、ボコブリン達の文明度を見て取ることができる。
 他のステージにも、こういう食い散らかしの跡は頻繁に見ることができる。これが、そこをボコブリン達が拠点にして、数日過ぎていることの証拠となる。

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 地図を見ると、第1ステージのボコブリン達が南から来た……ということが推測できる。南方向からある日突然やってきて、襲撃が始まった。まさか王城のすぐ側に櫓が築かれ、それを数日放置していた……なんてことはあるまい。
 襲撃があって、大慌てで住人達の避難が始まり、門の格子を落とす暇もなければ市場の商品をまとめている暇もなかった。
 それでは住人達はどこへ逃げたのだろうか? おそらくは城門の内側。なにを根拠にしているかというと、ボコブリン達が南からやってきた。その南へ住人を逃がすわけにはいかないだろう。避難させるとしたら、頑丈な城門の内側が良い。

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 では物語後半。もう一度ハイラル王城周辺が舞台になるので、こちらのケースで見ていくとしよう。

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 シーカータワーが生えてきた位置の北側と南側。すでに破壊が始まって、最初のステージの頃と様子が大きく変わっている。

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 ハイラル平原北東、王城から見て東側に、巨大な建築物が見られる。造りも立派で様式も美しい。ハイラル王朝華やかりしころの建造物だ。橋なのだが、単に川を横断させるだけではなく、その向こうの丘を少し登ったところへ行けるように作られている。
 ……『ブレスオブザワイルド』時代にこの建築物残ってたかな……。覚えてない。地図を見ると「マズラ橋」と書かれている。この辺りはもう一度『ブレスオブザワイルド』で確認したほうが良いかも知れない。

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 王城内側に入ると、かなりきちんと整えられた住宅地が現れる。『ブレスオブザワイルド』時代ではこの辺りは徹底的に破壊され、魔物だらけの上にドロドロしたものだけらけで、通行も困難だった場所だ。
 建物の造りは立派で、2階建て3階建てと高く作られ、通りをブリッジしている場所も見られる。南の一般住宅地よりも明らかに階級は上の、贅沢な作り方をしている。

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 塔と噴水。公共施設が整えられている。
 塔は、こんな城門の内側で見張り塔というのは不自然な気がするので、何かしらのモニュメント的なもの、もしかすると宗教的な意味合いがあるのかも知れない。
 噴水は王家を示す彫像を頭に載せた、象徴的かつ様式的な美しい造形物だ。王国のシンボリックな噴水を街のど真ん中に置く辺り、この街が計画的な公共事業によって作られたことを示唆している。

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 ではこの城下町の人々はどこへ行ったのだろうか? 私はボコブリンの襲撃があった後、住人達は一旦この城下町へ避難したんだと推測した。
 では厄災ガノン復活後は? おそらくその時には残っていた人々の大部分は死んだと思われる。厄災ガノン復活の予言はすでに知れ渡っており、国は戒厳令体制、すでに疎開ははじまっていて、ハテノ村や、もしかしたらアッカレ砦に移った人々もいるだろう。でも残っていた人々はなすすべもなく死亡。ハイラル城陥落を見てゼルダ姫が愕然としたのは、そういう理由だと私は思っている。

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 ゼルダ姫が登場するシーン。うつむき、城の暗い影を背負っている。苦難の姫であり、人々からは特に信頼されることなく「無才の姫」と揶揄される……。
 おそらくは友人などもいない。宿命を背負った重圧と、理不尽な批判と、孤独。そうした中で、インパだけが友人のような付き合い方をしているのは、ゼルダ姫がそのように願ったからだろう。実際には家臣なのに「友達ごっこ」をしている感覚だと思う。インパは忠実なる下部だから、一生懸命友達ごっこに付き合っている。
 結局、ゼルダ姫は力を覚醒させることができず、我が城の陥落を目撃し、しかもそこにいた人々を見殺しにすることになった。ゼルダ姫が背負ったものがいかに大きかっただろうか……。

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 ところで、ゼルダ姫とリンクの出会いの場面。跳ね上げ橋の前だ。
 64版『時のオカリナ』の時も跳ね上げ橋の前だったことを思い出す。偶然なのか、そのように意図したのか……。

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 ハイラル城下町は『ブレスオブザワイルド』時代の頃では痕跡は残っていた物の徹底的に破壊されていて、そこにどんな建造物があったのか、想像は困難だった。『ゼルダ無双』時代でも辿り着いた時にはすでに破壊が始まっていたが、最盛期を想像させるには充分なくらい痕跡を残している。その風景を見ていると、「ああこんな風景だったのか」と静かに感動する。まさに歴史を追体験するような感覚で、その風景を見ることができた。そうした意味でも『ゼルダ無双』には特段の価値のある作品であった。

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