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3月31日 アニメこぼれ話 『響けユーフォニアム~誓いのフィナーレ』

 ニコニコ動画のプレミアム会員特典でようやくこの作品を見ることができた。視聴期限はいつまでかわからないが、とりあえず2回視聴。
 ……いつかブルーレイ買うぞ、というつもりが「無料開放」されるその時まで視聴できないとは……。

 感想は……なんとなく「惜しいなぁ」という印象の作品。
 というのも、映像が「作業が大変にならないように」スタッフに配慮された構図がよく使われているんだ。サンライズフェスティバルのシーンだけど、やたら俯瞰からシーンばかりが描かれている。これは周囲の風景をあまり描かなくていいようにするためだ。
 テレビシリーズでなら、「まあ仕方ないよね」……となるけど、劇場であの構図はさすがに……。ああいう場面こそ、周囲の風景を入れ込んで、情報量の高さも表現してほしいところなのだが。
 映像そのものも、あまり空間に奥行きが感じられないのも残念。どのシーンも「テレビアニメの色彩」からそれ以上のものに発展していない。

 どうしてこんな作りになっているか、というと作品が半年から1年ほどの間に作らなくてはならないから。ジブリとかだったら映画の制作に3年とか4年とか掛けられるから、もっと攻めた構図でシーンを描いたりするのだけど、『響けユーフォニアム』の場合、1年前後で描ききらなくてはならない。するとその範囲で制作が完了するように構図を練らなくてはならない。
(どんな映画も「予算」と「期間」はきっちり守らなくてはならない。これを守れない監督は干される。一流監督はみんな「予算」と「期間」を守って映画を作っている。『響けユーフォニアム』劇場版も予算と期間をきっちり守れるよう計算して作られている)
 そもそも『響けユーフォニアム』は制作するのがやたらと大変な作品。登場人物数が尋常ではないくらい多く、しかも「楽器」という作画が困難なものを全てのキャラクターが持っている。そういう制作の難しさを込みで構図を作っていかなくてはならなくなる。するとどうしてもスタッフに対して配慮したような構図が多くなっていく。

 とはいっても、テレビシリーズでやらなかったことに挑戦している作品で、群衆シーンでもCGは極力使わず表現している。可能な限り手書きで描き起こしているし、止め絵ではなくちゃんと動いている。演奏シーンでは鎧塚みぞれと傘木希美の周囲を回り込む、という高難易度作画が描かれる。ちゃんと劇場ならではの見せ場はある。そこは素晴らしい。

 お話も「劇場オリジナル作品」であるのに、どこか「総集編」という印象になってしまっているのも惜しい。一つ一つのエピソードが10分から15分くらいのスピードで展開していって、余韻がない。深まらない。「展開が早い」という見方もできるが、どんどん展開し、どんどんキャラクターたちが捨てられていく。
 前半に登場していた鈴木美玲と鈴木さつきはサンライズフェスティバルのシーン以降、ほぼ背景キャラクター。月永求は実は重要なキーキャラであるのに関わらず、ほとんど内面が掘り下げられることはなかった。メインキャラクターであるはずの加藤葉月や川島サフィアのドラマもほとんどなかった。中川夏紀と吉川優子もほとんど絡むことはなかった。高坂麗奈は今回のお話の中では、黄前久美子と塚本秀一の関係を認めていくような行動を取っていくが、その内面が掘り下げられていない。
 登場人物数が多く、エピソード数が多く、この中で物語を組み立てようとすると、どうしても切り捨てられていくキャラクター達がいる。

 クライマックスの演奏シーンはどこか場が暖まらないまま、「生煮え」状態で突入していく。おそらくはもう一本の映画『リズと青い鳥』に絡んでくるんじゃないかと思われるが、それを知らない状態で見ると、さほど感動しない。
 テレビシリーズの時は、一つ一つのテーマをじっくり掘り下げていき、一つ一つのクライマックスがきっちり描かれてきたから演奏シーンが素晴らしい感動を生み出していたが、劇場版はどうしても助走が足りていない。

 やっぱりこれは……テレビシリーズで見たかった。もっと一つ一つのエピソードを掘り下げてほしかった。川島サファイアと月永求の関係はもっといろいろあったんじゃないか。中川夏紀と吉川優子の関係が近付いていく過程も見たかった。1年生組の絡みが劇場ではほとんど描かれなかったが、ここも描く余地があったのではないか……。
 劇場版は「ストーリーがダメ」というわけでは決してない。もともと『響けユーフォニアム』が持っているポテンシャルは相変わらず感じられる。楽しい作品だし、キャラクター達への愛情を感じる。だからそれゆえに、劇場ではなく、テレビシリーズでじっくり描いてほしかった。
 もともとキャラクター数が多いうえに、エピソード数も多い作品だから、2時間尺に収めようとするとどうしても「総集編」状態になってしまう。そもそも「テレビ向け」の作品なんだ。劇場版で制作されたシーンをそのまま使って、その前後を補完する形でテレビシリーズ……というのはあり得ないだろうか。いい作品だからこそ、もっと長い時間このキャラクター達と付き合いたいんだ。

 次なる完結編、黄前久美子3年生編も劇場作品になる予定だが、私はやっぱりテレビシリーズで見たい。時間をかけてキャラクター達を掘り下げてほしい。それも叶わない願いだけども……。


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