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11月1日 なぜアニメはブラックになるのか? それは儲からないから

 アニメの労働環境に関する興味深い記事が出てきたの紹介。

 10月28日の講演だから、このブログ記事が載る頃にはまるまる1ヶ月が過ぎていることになる。
 詳しい内容は、リンク元を読んでいただくとして……。

 徳島県で開催されている大規模アニメイベント・マチ★アソビのなかで開催された舛本和也さんの講演会リポート。TRIGGERの現取締役の桝本和也の著書は、以前私のブログでも紹介した。こちらではアニメーション制作のなかの「制作進行」について解説されている。興味のある方はぜひ著書を買って読んでいただきたい。この本が書かれた当時は確か「プロデューサー」だったと記憶しているが……。

 アニメーションを取り囲む現状は日々刻々と変化している。私も遠い昔、アニメの業界いた身として、なかなか隔絶の感がある。
 舛本さんの講演会にもあるように、ここ10年ほどでアニメの世界戦略は着実に進行した。というのも世界的なストリーミング配信のプラットフォームができて、そこでの視聴が定着したことによって、今まで視聴されてなかった地域でもアニメが視聴されるようになった。
 例えばその一つがNetflix。こちらで配信されている『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の字幕・吹き替えを見てみればわかるが、それこそ「世界中のありとあらゆる言語」に対応されているくらいに用意されている。なぜあれくらいに用意されているのかというと、それくらい視聴されているからだ。
 私は個人的にFacebookを通じて海外の人とぽつぽつと交流しているが、「え? こんな国でも?」というくらいにアニメは視聴されている。そしてたいていの国の人に『ジョジョの奇妙な冒険』の話題を振ったら乗ってくれる。日本国内にいると実感ないかも知れないが、「『ジョジョ』は世界共通語」といえるくらいに世界規模で視聴されている。

 しかしアニメ会社の財政はいつも火の車だ。昔からよく言われている話に「制作委員会が中抜きしているからだ」というが、これは違う。
 この話は前もしたと思うが、そもそもアニメの制作に予算を出しているのは制作委員会。アニメ会社は予算を受け取っているだけ……という関係。ゲーム業界でいうところの「パブリッシャー」と「デペロッパー」の関係に近い。パブリッシャーとは企画を立てて予算を出し、宣伝、販売を行う。で、ゲームの中身を制作するのがデペロッパー。制作委員会とアニメ制作会社の関係性はだいたいこれ。制作のための予算はこの中できっちり支払われている。
 アニメでいくら儲かるのか……という見立てはきちんとあって、その想定に見合った制作費が出ている。要するに、そもそも「儲からないから」が主因にある。儲かる見込みもないのに、それ以上に予算が一杯出るか……というとそんなわけはない。そんなことをやると、いくら制作委員会といえど、バタバタ倒れていくことになる。
 でもどれがヒットするかもわからない。例えば10年前の大ヒットアニメ『魔法少女まどか☆マギカ』はあそこまで大ヒットするとは予想されておらず、アニメが放送されていた当時はグッズ類などほとんど用意していなかったというくらいだ。(最近はもともと原作がヒットしているものに、大きな予算をかけて……というパターンになりつつある。『鬼滅の刃』『葬送のフリーレン』など)
 もちろん、アニメ会社もそういう「下請け体質」からの脱却を図るために、自ら企画を立てて、予算を出す……ということをやるようになっている。最近の例でいうとMAPPAが制作費全額出資して制作した『チェンソーマン』(売れなかったみたいだね)。
 こうしたモノ作りの世界で権利を主張したければ、自分からお金を払うのが筋。なぜなら予算を出してリスクを背負っているから。お金を出さず権利だけを主張するのは違う。
 大人ならそういうのわかっているから、ある程度資本があり、内部に強力なアニメーター陣を抱えるアニメ会社は、自分から企画を立てて予算を出して作品を作っている。ジブリ、ProductionIG、東映、京都アニメ。こういうところは自分で予算を出して、収益をきちんと自分のところに入れている。制作委員会に対しいつまでも愚痴ってないで、動けるところはとっくに自分で動いている。

 しかしそれでもアニメは儲からない。なぜならそもそもアニメは制作にバカみたいにお金がかかり、なのにあまり稼げないものだからだ。
 DVDやBlu-rayが出たとき、関係者が歓喜したのは「これで作品で稼げるぞ!」と思ったから。でも実はDVDってあんまり売れなかった。アニメマニアでもあんまりDVDは買わない。
 ゲームだったらパッケージを買わないと、遊ぶことはできない。大作ゲームなら世界で数百万本も売れる。アニメはまずテレビやネットで無料で見られてしまう。そこで満足しちゃう人が圧倒的に多い。作品のファンになっても、少額のグッズしか買わない人も多い。かといって最初から「DVDでしか見られない」というふうにすると、あまり買ってもらえない……というのがジレンマ。ゲームと同じようにパッケージを買ってもらえる……というわけにはいかない。そういう習慣が世界的にもなかなか根付かないのだ。
 時代はDVDの時代からストリーミングに変わっていき、いよいよ円盤は売れなくなってしまった。そこでNetflixみたいなところが「テレビアニメの予算を2~3倍出すから、うちで作らない?」なんて誘いかけてくる(中国のbiribiriもやっている)。
 テレビアニメの予算2倍! 給料2倍! しかも作品が世界中で見られる!
 魅力的なお誘いではあるのだけど、一方で悪魔の囁きでもある。なぜなら世界的にメガヒットを飛ばしても、作り手にロイヤリティが入ってくるわけではないから。作品の権利はあくまでもNetflixのほうにある。
 これがNetflixやAmazon Prime Videoなんかで起きているジレンマ。Netflixは大きな予算を示してチャンスをくれるけど、大ヒットしてもロイヤリティを払ってくれない。作り手は最初は「自分の作品が世界的に大ヒットした!」と大喜びだけど、次第にそれで自分のところに1円も入ってこないことに気付いて「あれ? なんかおかしいぞ」となる。韓国の大ヒットドラマ『イカゲーム』の制作者も、「大ヒットしてもNetflixは1円も払ってくれない」と愚痴ってたね(「円」とは言ってなかったけど。ここは「ウォン」だね)。
 おまけに作品の権利も制作者から剥ぎ取られる仕組みだから、いま『イカゲーム』のスピンオフ的な番組がNetflixで制作されているが、やっぱり元の制作者には1円も入っていない。
 権利は最初からNetflixが持っているから、その権利をどう扱うかはNetflixの自由。続編を作るとしても、別に元の制作者にオファーが行くわけでもない。これが「アメリカ的なやりかた」がもたらすジレンマ。

 話は繰り返すけど、アニメはなかなか儲からない。制作にお金がかかり、なのにあまり稼げない。世界中で視聴されるようになった……というのは事実だけど、しかしほとんどの人はストリーミングなんかで無料で見ている。NetflixやAmazon Prime Videoの預かりになったら、たぶん「使用料」は出るんだと思うんだけど、もしも作品が世界的に大ヒット、となっても追加でロイヤリティが出るわけではない。
 やっぱり直接収益に結びつくのはグッズ販売や円盤……ということだけど、こちらもそうそう簡単に売れるものではない。「アニメファンならいくらでも金出すだろ」……とか言われそうだけど、実体はそうではない。一部の作品にはやたらとお金を出すけど、それ以外はそうでもない……という話だ。
 アニメファンにもいろんな人種がいて、好きな作品ならあらゆるグッズや、関係ないけど似たものまで買ってしまう「信者タイプ」もいれば、私みたいにアニメはそこそこ見ていてこういうブログで論評も書くけど、グッズ類は一切買わない……というタイプもいる。世間的には「アニメファンと言えばみんな信者タイプ」……と思われがちだけど、実際にはアニメファン全体でも数パーセントってところだ。
 「コアなアニメファンはそれほど人数は多くない」「アニメファンは思ったほど金は出さない」――これは頭に入れておこう。

 そういう話で言うと、ディズニーは昔からうまくやっている。作品の制作は最初から「世界で展開する」という前提で、外国で公開された時に文化的な側面で引っ掛かりそうな要素はあらかじめ排除しておく。そのうえで、まず劇場でかける。その観客動員数できっちり収益を出し、その後に円盤やグッズ展開に、とどめのアミューズメント展開(ディズニーランド!)。収益を出すためのモデルがきっちり作られている。
 じゃあ日本も同じようにやれば……とか思われそうだけど、まずディズニーみたいに世界展開をやるだけの予算は出せない。それに、日本のアニメは「ガラパコスだから良い!」という側面がある。もしもディズニーのように、あらかじめ炎上しそうな要素を切り取って作る……というふうになったら、アニメが持っている独特な個性はなくなってしまう。どうあがいても、日本のアニメはディズニーと同じ座席には座れないのだ。

 日本のアニメは世界中で視聴されるようになった……というのは事実だけど、それで収益を出せる……というところまではなかなか進まない。みんなアニメを無料で見ている。
 最初の方に私はFacebookを通じて海外の友人と交流を持っている……という話をしたが、その友人達の不満が、「自分たちの国に“公式に”アニメのグッズやコンテンツが来てくれない」ということ。例えば翻訳された「原作漫画」。こういうのも来ない。それで結局どうなるかというと、海賊版が広まるということになる。
 アニメの作り手なら、当然、そういう現状になっているくらい理解している。ではすぐにそれぞれの国に翻訳ないしローカライズされたコンテンツを出せるか……というとそういうわけにはいかない。ローカライズには予算がかかるし、回収の見込みがあるかどうかわからないのに出す……というわけにはいかない。
 アニメは確かに世界中で視聴されているが、世界中のぽつぽつとした集合体を集めれば総数がものすごい数になっている……というだけであって、「それぞれの国で」、という条件を絞り込んでみると実はそこまでではない。

 将来的に、AIでお手軽にそれぞれの国に翻訳できる……というふうになったら、また話は違ってくるかも知れないんだけど。

 それぞれの国にはそれぞれの国特有の文化観というものがあるんだ。例えば、よく言われる話に「アメリカの本屋には日本のように漫画は置いてない! 日本はおかしい!」……って話が時々出てくる。内情がどうなっているかというと、そもそもアメリカは「取次」が一杯ある。「アメコミ専用の取次」というものもある。本屋は開業するときに、どの取次と契約を持つかで自分の店のカラーを決める……ということになる。ビジネス書を一杯置きたいのか、哲学書を一杯置きたいのか……。そんなわけでアメコミを取り扱いたいなら、最初からアメコミ専用の取次と契約を持ってお店を作る。
 一方、日本では書店の取次というのは2社くらいしかなく、ここであらゆる本を取り扱っている。日本の本屋にはビジネス書からゴシップ誌から児童向け絵本、漫画まで揃っているのが当たり前……というのはこういう背景がある。
 要するに、国によって本の取り扱い、DVDの取り扱いが違う、という話。「アニメDVDを売りたい!」という話をしても、その国にDVDを取り扱っている店が少なく、しかも「日本のアニメ」という外国のDVDを扱ってくれるか……というとなかなかそういうわけにはいかない。
 DVD専門店があるとしたら、まず自国のDVDを一番目立つところに置くでしょ、普通。外国もののDVDは奥の小さいコーナーになる。どこの国でも日本と同じように日本のDVDを置いてくれる……そんなわけないでしょ。アニメのDVD棚を作るとしたら、まずディズニーのほうが先に来るでしょ。あちらのほうが世界的に知名度があるわけだし。

 と、まあこんな感じに、「できるアニメ会社」は自社出資でオリジナル作品が作れる。自前で作品の企画を立て、DVDを出し、収益を出せる。できないところは相変わらず制作委員会で……ということになるけど、残念な話、制作委員会が予算を出して作った作品って日本でも世界でもさほど売れていない。世界中のアニメファンは、みんな「クオリティの高い作品」が見たいのであって、それを見分けるくらいの能力は持っている。その辺の掃いて捨てるような「萌アニメ」が見たいわけじゃない。すると世界的に人気の高い作品は「強力なアニメーターを抱えるアニメ会社の作品」ということになっていく。こういう「世界でも稼げるアニメ会社」が今後より強くなっていく。この格差は次第に大きくなっていく。
 桝本和也さんも話しているし、別の人も提唱していたのだけど、やがて日本のアニメ会社はディズニーのように統合されていくんじゃないか……。自然淘汰と買収によって、やがて一つの巨大アニメ会社ができて、そういうアニメ会社が世界で戦っていく。
 そこで毎クール、アホみたいに一杯アニメが放送されているけれど、やがて刈り込まれていくことになる。「ちゃんと世界で売れる作品を作ろう」ということになると、今までのように「とりあえず企画出しました」的な作品も次第に淘汰されていく。
 しかしそれは諸刃の剣ともなる。というのも、アニメは色んな人が滅茶苦茶に作っているからこそ、「意外なヒット作」が生まれたりする(『魔法少女まどか☆マギカ』の例のように)。いまアニメの界隈で大ヒットしている作品で、続編が繰り返し作られている作品は、そうなる……と予言できた人は誰もいない。「ちゃんと世界で売れる作品を」とか言い始めると、安パイな作品ばかりになっていく。最近の大手ゲーム会社が作るようなやつ……になっていく。予算規模が大きくなればなるほど、安パイな作品、つまり似たような作品ばかりが作られるようになっていく。

 話はちょっと逸れるけど、世界でのアニメ事情も変わってきている。10年前くらいは日本みたいにアニメを山ほど作っている国は世界中どこ探してもない……私も昔、「声優という職業が独立して存在しているのは日本とアメリカだけ」みたいな話をしたと思うけど、これも今は現状違うんじゃないかな。
 というのも、色んな国でアニメが作られるようになった。みんな日本のアニメの影響だ。世界中でクリエイター気質の人を目覚めさせたし、日本みたいなスタイルでもビジネスできる……ということが証明された。
 というわけで、今わりといろんな国で手書きのセルルックアニメが作られるようになってきた。ライバルが世界規模でぽつぽつと増えてきて、アニメが「日本だけの専売特許」でもなくなってきた。
 そうすると、海外のDVDショップで売られるのはまず自国のアニメDVD。ますます日本のアニメDVDは奥のコーナーに引っ込むことになる。

 ますます日本のアニメは世界で稼げる機会を喪っていくことになる……。
 途中に書いたけれども、アニメ会社の経営がいつも火の車なのは、そもそも儲からないから。なぜ儲からないかというと、稼ぐ方法がなかなか見つからないから。「稼ぐ」ということは、作品を作ることよりも難しいんだ。良い作品を作れば売れる……というわけではない。「どうやったらアニメで稼げるのか」この回答が示せれば、話は簡単なんだけどね……。これが難しいから解けないジレンマを抱え続ける。


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