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寺田和代「本と歩く アラ還ヨーロッパひとり旅」 第1回 アイルランド篇 ――(9)

(8)ダブリンに歓迎された2つのささやかなできごと からのつづき

アイルランド篇――
(9)多様性尊重のハートにふれる

ダブリン初日のB&Bは住宅街にあるパブの3階。広さ6畳ほど。洗面所も冷蔵庫も椅子もないけど隅々まで清潔で暖かく、なにより窓からの景色――教会の尖塔が見え、街の日常が感じられる――がありがたい。
そして、この宿が気に入った理由がもうひとつ。オーナーのトムだ。

あらかじめ伝え、承諾されていた時間通りに到着し、さっそくトムの案内で部屋に続く階段を登りかけると、上から清掃係の女性が「まだ準備できていない」とおずおずと言う。
私の耳にもたどたどしい発音、移民と思われるアフリカ系の若い女性に、普通なら口調が厳しくなりそうな状況にもかかわらず、彼はあくまで穏やかな態度で話しかける。

20分でできます、と彼女の返事を聞くと、トムは私を振り返り、すみません、パブで何か飲みながらお待ちいただけませんか、と言う。
私は1階でカフェオレをごちそうになり、きっちり20分後、迎えにきたトムに案内され、掃除したての清潔な部屋で荷を解いた。

ダブリン一泊目のトムのB&B。狭いけど清潔で、往来に面した窓からの眺めが絵のよう

なんとなく幸せな気分だった。
アイルランドは全人口の約17%が移民、ついでに言えば2015年に国民投票で同性婚を法で定めた世界初の国。文字通り多様性を重視する国だ。雇用主トムの、若い移民女性に対する接し方からもそれが感じ取れ、トムへの信頼も一気に醸成された。正解だな、この宿を選んで。

トムの宿の朝食。目玉焼き、グリルしたトマトとマシュルーム、
豆のトマトシチューはアイリッシュブレックファーストの定番


(10)世界で最も美しいとされる本と図書館(上) へつづく(また来週!!)
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