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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」

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1945年から今日まで、10人の「在日朝鮮人作家」の作品と人生、その歴史背景を、文芸評論家の林浩治さんにミニ評伝で紹介していただきます。 (本文の著作権は、著者にあります。ブログ…
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2022年7月の記事一覧

林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その1)

林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その1)

金石範――「虚無と革命」の文学を生きる
(その1)                             林 浩治

 前回の金泰生に続き、韓国済州島出身の作家金石範を紹介したい。金泰生は5歳のときに来日したが、金石範は懐妊した母親が来阪して生まれた。
 金泰生がナイーブで繊細なリアリズム日本語文体で、庶民の姿を描いたのに比して、金石範は日本語で書きながら朝鮮の民俗を大胆に取り入れた硬質な文体で

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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その2)

林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その2)

(その1)のつづき→

金石範――「虚無と革命」の文学を生きる
(その2)                             林 浩治
ヘッダー画・野村寿孝

2)祖国朝鮮解放の闇

 『1945夏』(筑摩書房 1974年)は、青年期の作家の体験を追っている。そこには祖国の独立と革命を求めながら、後に作家となり虚無と対峙しなければならなくなる若き日の心象風景が映し出された。

 徴兵検査を受

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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その3)

林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その3)

金石範──「虚無と革命」の文学を生きる
(その3)林浩治

→(その2)からつづく

4)戦後日本の闇を生きる

 金石範が解放前後ソウルで親交を結んだ同志張龍錫(チャン・ヨンソック)から受け取った手紙は、1949年5月5日付けが最後だ。
 張龍錫は手紙を書いたあと同志たちとともに一掃された。金石範がソウルに残っていたなら命はなかっただろう。反民特委が襲撃されたのが同年6月だ。
 同じ6月、李承晩

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林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その4)

林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03   金石範(キム・ソクポム)(その4)

金石範──「虚無と革命」の文学を生きる
(その4)林浩治

→(その3)からつづく

5)日本語で書いて生きる── “はらわたのない人間”

 金石範は日本語で生きていく決意とも言えぬところに追い込まれていった。後には在日朝鮮人の組織である朝鮮総連とも対立して、いよいよ日本語で書くという在日朝鮮人作家として自律していく。
 金石範は短篇「鴉の死」(『文藝首都』1957年12月号)や「看守朴書房」(

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注) 林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03  金石範

注) 林浩治「在日朝鮮人作家列伝」03  金石範

林浩治

*注1)大韓民国臨時政府

 1919年4月、朝鮮人独立運動家たちが上海で組織した亡命政府。当初李承晩を首班としたが、25年には李承晩が免職されて以降は金九を国務総理とした。40年には重慶に移動し光復軍を設立した。41年には対日宣戦を布告し朝鮮帰還を目指したが日本の敗戦には間に合わなかった。南朝鮮に進駐した米軍が臨時政府を認めなかったため解体した。

*注2)南朝鮮単独選挙反対闘争

 

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