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長江下り-重慶から-

遠い夏
「三国志の時代(とき)を訪ねて」
重慶から
クルーズ船で長江を下った

乗船までの半日を
孫文・蒋介石・毛沢東が
日中戦争時には日本軍が
それぞれが、一時期政府(本部)を置いた地を訪れた

拷問の為の洞窟の奥には
刺(とげ)に覆われた椅子と鎖と・・
湿った岩が光っていて

収監の為の牢獄は
板壁だけの六畳ほどの空間に
人が
立って入いることが可能な限り詰め込まれ
立位が互いを支え合うまま
恐怖も苦痛も生理現象と倶に垂れ流し
声も意識も命も失い
広大な荒れ地で
番犬の餌になったという

牢獄の向かいの壁には
赤のペンキで
希望しかない現在と
希望が叶った未来が記されていて
その文字は
大学の構内の片隅の
「糾弾」の字体に似ていた

午後も暮れ
欧米仕様のクルーズ船で夕食を取り
それから
デッキで一日を思った

長江は
陽が落ちれば
両岸の山々が月明かりに浮かび
陽が昇れば
小さな白波がふわりと浮かび
船の轍となって
間もなく融ける

人はどこにでも住んでいて
長江は
白波の轍をくり返し
続いて

赤壁と
重慶の遺構と
止まぬ戦(いくさ)と
船が描く轍を眺めて

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