菜の花忌中華そば半ライスセット 春の昼中指の肉やわらかく 王将の天津飯や春来る 己が身を指で弾いてほうれん草 「ラブ、ラブ」と尻尾をさがす春休み ぬいぐるみの足の短く犀星忌 三月や読み差しのまま返す本 襟ぐりにレースあしらい春の服 毎日をひかるみどりの山葵漬 ラブちゃんがリードを引いて花の窓 春駒をえくぼの深い同級生 ライナスのくるぶし棕櫚の日曜日 聖週間踊るとまわるジャムの蓋 かのようにブラウスを白き日曜日 まばたきの音の聞こえる春の森 ひだま
本当は消えられないよla terre(地球)のなかで息を吸う息を吐く 永遠を永遠といくファミレスであなたが数えた年を眠る どうしてと私を咎む君とただ君と話をしたくて来たよ それぞれにそれぞれの生活のあり誰も気に留めないうつくしさ 弛緩したソフトクリーム弛緩したエビアレルギー ムーンパレス 大丈夫ってそのひとは自分自身の目を見て言うからみなひとりの街 思い出はゆるしてくれる最初には置かれていない向かいのグラス
プールの青はああああああ嘘の青ひかるならあつい痛いくるぶし 目をつむればきみもきみじゃなくなっていく全身で愛させてください ガムがすきにんじんはきらい濃淡がある冬の東口改札 寝坊してまだ淡いままの指先の撫でる半熟予定の卵 背骨のなかに流れるというその水を思う思った思い出している ふたの上温められていた雨を降らせてあげるからさ、見ていて
君のシャツを汚したジャムがひかってる 現実よりも美しい朝 悪い癖悪いなぁって許さなくてもホットケーキの膨らむ午後だ バッグインバッグみたいな構造です精神のそと容器のある 思うに地球滅亡後も止まらない迷惑メールの海、海、海 詩人は誰とも心中できない 600円のポテチキバスケット 結露する窓辺 伸びない前髪 犬を撫でた手のまま眠りたい 「夜の花屋に行ってみたい」とひざを折る 叶えるつもりもないみたいに 「うちの風呂、水が水色に見えるんです」って、セックス中に言うこと
桃が2個どっちが上手く剥けるのか競ったりして夏感じてる いない部屋いない朝食注がれた牛乳光る君がいない朝 君は今日もまた出かけてこの町のベランダからは八百屋が見える 夜だからアンドーナツを作ろうよ このままどこかへ消えちゃおうよ I know that you are an angel.ここでいいのか飛んでいかなくて トマト・玉ねぎ・コーヒーフィルター・愛 君の街にも雨は降るのかい その背中が一億光年遠かった(電線の波打つ音)見てた ワンピースの裾ほつれるような
チユちゃんの家に行くと、必ずホットココアが出てくる。暑い日も寒い日も、必ず。チユちゃんは純ココア……と、彼女が呼んでいたので名前は知っているが、森永のココアパウダーとの違いをわたしは知らない……と砂糖を小鍋に入れ、混ぜながら火に掛けて牛乳をすこしだけ注ぐ。ココアがペースト状になるまで練り、つややかなペーストになったら牛乳を注ぐ。沸騰する直前で火から降ろし、バターをひと匙加える。チユちゃんのココア。 チユちゃんのココアは、わたしが幼少期に作っていたココアよりもコクが深い気が
炭酸の抜けたソーダ水って水なのかな。 明美がソファでうなだれながら小さな声でつぶやいた。 わたしに言っているのかひとりごとなのかは定かではないけれど、少なくとも話しかけるような口ぶりだったので、水なんじゃない? と返す。だって、炭酸の抜けたコーラは砂糖水だし、そう続ける。 「ソーダ水ってちょっとにがいじゃん」 「あ、わかる。ちょっとね、ちょっと」 「その苦さが残るんだとしたら水ではないよなあって」 ああ、とわたしまで気の抜けたような声を出し、口の中でソーダ水のあの独特
真実はしんじつ、と書いてマミと読む。真実はわたしが望めばいつだってやってきてくれる。すこし、めんどくさそうに。すこし、息を切らして。 眠れないから会いにきて。 わたしのそんなわがままを叶えるために、真実は今日もわたしのもとに訪れた。ミルクと蜂蜜を入れたカモミールティーを淹れる真実の背中を空中で蹴れば、その反動でソファに倒れこんでしまう。 「ねえ、真実」 「なあに」 「真実はどうしてわたしのわがままを聞いてくれるの」 わたしがよく言われる言葉。わがまま、自己中、自分勝手
春キャベツって、甘すぎてきらい。 ほのちゃんが言った。 わたし、甘い野菜ってきらいなんだよね。さつまいもとか、カボチャとかにんじんとか。ごはんに合わないもの。 そう、とわたしは返す。今日の夜ごはんは生姜焼きと茄子とズッキーニの焼き浸しと新玉ねぎのサラダとわかめスープ。ほのちゃんは生姜焼きの下に敷かれたキャベツのスライスを飲み込む。 でも、料理をしたのは彼女だし、嫌ならキャベツなんて省いたっていい。なのに、どうして。そう思ったが、言わなかった。 「ごめんね」 「なにが
午前九時。わたしたちの朝は遅い。なぜなら今日は大学が休校だから。朝起きて、ぼーっとして、食べるのないね、そうだね、なんて言い合って椎名とマックに来た。椎名がなにを頼むかうしろに並びながらぼんやりと見ていたら、「マックグリドルセットで、コーヒーで」と短く告げていた。わたしはプチパンケーキとヨーグルトを頼んで椎名の後に続く。 椎名は席を取っていてくれて、その席は窓際だった。窓の外には水色と紫色の紫陽花が半々くらいで咲いていた。ああ、もう梅雨か、と紫陽花を見ると思う。雨は降って
真実からひさしぶりに来た手紙の封筒を開けると、一枚のポストカードが入っていた。ポストカードには青い花瓶に白い花が挿さっている絵が描かれている。 ポストカードならそのまま出せばいいのに。 そう思って裏返すと、真実の字で、「ポストカードにして内容を見られると嫌だけど、このポストカードをどうしても春菜に送りたくて封筒に入れました」と書き出してあって、心の内でも読まれたような気持ちになる。葉書にはこう続きがあった。 ひさしぶり、元気してる? 住所変わってない?(変わっていたら
ねえ、あれ、なんていうんだっけ、馬がくるくる回るやつ。競馬? そんなんじゃないよ、遊園地にあるやつ。ああ、メリーゴーランドか。 「それ! メリーゴーランドだ」 急になに、茉麻うるさい。寧々が枕に耳を押し当てる。あたしも寧々もなにも着ていなくて、シーツが冷たかった。あたしたちはふたりで裸になってベッドで眠るけど、お互いの体に触れることはない。ただ単にうちに客用布団がなくて、ふたりとも寝るときは服を着ないタイプだからこうしている。それはとても自然なことなのに、あたしたち以外か
ベッドの上で寝転びながら、キッチンの方でやかんが沸く音を聞いていた。お湯を沸かすくらいであればキッチンから目を離しても構わないだろう。IHだし。ワンルームだし。キッチンにはベッドから五歩も歩けば辿り着く。 隣で眠る泰介はほとんど寝息を上げることなく、手を胸の上に置いて寝ているので……彼はいつもそうだった……、死んでいるんじゃないかしら、と思う。口元に手を当てると弱く息が当たって安心した。 コーヒーを淹れようと思ってお湯を沸かしたのだ。朝はコーヒーを飲まないと目が覚めない
二千ピースのジグソーパズルを買って、藤中はうちにやってきた。なに、それ。ジグソーパズル。短い会話を交わしたかと思うと、藤中は箱の中身を床にひっくり返して、パズルを始めようとする。 「え、うちでやるの」 「俺の部屋汚ねえもん」 いや、片付けろよ。 そう言い放てばよかったのだけれど、毛布に包まった体は暖かくて、すぐそこまで眠気が来ていた。俺は微睡に身を委ねながら、そっか、とだけ藤中の横顔に呟いた。 藤中はどうやら外枠を先に作るらしく……それがパズルの定石なのか、奴の思いつ
毎日、クマやうさぎの形に生地を型抜くのが僕の仕事だ。県内に十店舗店を構える製菓店唯一の工場勤務の僕は、焼き菓子の担当で、中でもクッキーの型抜き担当になることが多い。時々身長ほどもある三段重ねのオーブンで焼くこともあるけれど、あれは暑くて苦手だ。 クッキーの型抜きは、なるべく生地が傷まないようにオーブンからは離れたところで行われる。指先は常に冷えていて、それが心地いい。 「藤崎さん、次クマあがります」 「はい、すぐに」 同僚との会話もこの程度で、僕はこの職場をとても気に入
俺がまなみさん、と呼ぶと、みんな真実さんや愛美さんと変換して、彼女でもできたのかと言う。実際のまなみさんは真実の波と書いて真波さんだ。これは真波さんの自己紹介でもある。 真実の波は透明と書いて、真波透です。 これが真波さんのいつもの自己紹介。真波さんと僕は幼馴染だ。真波さんは昔からなにかと漢字を間違われたり、女子だと思われることが多かったから、こんなへんてこな自己紹介を発明した。真波さんは僕より五つ年上で、いま二十二歳。就活と卒論に追われる大学四年生だ。 「ちょっとコン