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翻訳業界特有の用語たち

こんにちは。プロジェクトマネージャーの小沢です。

以前、翻訳業界特有の略語について記事を書きましたが、今回は略語ではなく、他業界から入ってきた私にとって、当初なじみにくかった用語をいくつか取り上げてみたいと思います。将来、産業翻訳者やレビューア、プロジェクトマネージャーになることを目指している方々の参考になれば幸いです。

どの業界でもはじめは知らない専門用語に戸惑うものですが、特に翻訳の世界では英語そのままの表現をカタカナ語や英語表記で使うことが多く、慣れないうちはスムーズに頭に入ってきません。私自身、入社してからの経験を思い返すと、「日本語で言えば○○」という対訳で覚えれば済む用語もありましたが、それだけでは理解できない用語もありました。今回取り上げるのは、私がPMの実務を重ねて初めて理解できるようになったものたちです。

Translation Memory、Term Base、Glossary

会社に入社した当初からそれぞれ耳にし、目にしました。でも、なんだかぱっと見、意味が似ているので違いがわからず理解に苦しみました。

Translation Memory(翻訳メモリ、通称 TM)はnoteでも何度か出てきていますが、もう一度復習です。TMとは、過去に訳した文の原文・訳文ペアを保存するデータベースのことです。翻訳支援ツール(CATツール)には、翻訳作業をしながら 原文・訳文ペアを登録し、蓄積していく機能が備わっており、そのおかげで翻訳の効率を上げられる、と言われています。CATツールについてはこちらの記事を参考になさってください。

いっぽうでTerm BaseGlossaryはどちらも「用語集」を表しています。固有名詞や専門用語の対訳が入っているデータベースです。こちらもCATツールにセットすることが可能で、翻訳効率を上げるための鍵のひとつです。

※ただ厄介なことに、翻訳対象のファイルやTMのことを Term BaseやGlossaryと呼ぶCATツールも一部に存在するため、基本的な意味は上記のとおりと理解したうえで、その認識が合っているかを確認する必要があります。

Source(ソース)

こちらは他の業界(IT業界は除く)ではあまり見聞きすることがない用語ではないでしょうか。少なくとも以前私がいた半導体業界、海運業界などでは出会うことはありませんでした。この言葉の解釈は、人によって異なることがあり、ときどきこちらが意図していることが伝わらないケースも発生します。

3つの解釈があるのですが、まず1つ目は、最も基本的かつ広い意味で、「翻訳すべき原文」のことです。「This is a pen.」という英文を訳すなら、この「This is a pen.」という文がソースで、ソース言語は英語ということになります。一方で、翻訳後の訳文「これはペンです。」はターゲットと表現されます(ターゲット言語は日本語)。

2つ目は、「翻訳対象の原文ファイル」です。テキストだけの場合もあれば、PDFや、PowerPointファイル、Webページの場合もあります。トップスタジオでは通常、初めて受けるプロジェクトなどでは、原文の内容が弊社のリソースで対応可能かどうかを確認するために、クライアントにソースの提供をお願いしています。Webページ翻訳の場合は、当該ページのURLだけが示されることもあります。また、原文PDFの生成元となった文書ファイル(Word文書やInDesignファイルなど)を「ソース」と呼ぶこともあります。

最後は、「実際に訳文を入力していく翻訳作業用ファイル」です。これは多くの場合、 Tradosなどの作業画面でよく見る、1ファイル内に原文と訳文が左右 (CATツールによっては上下)に並ぶ形式のファイル(バイリンガルファイル)です。ファイルとして提供され、ローカルで作業することもあれば、作業スペースへのアクセス権が提供され、オンライン上で作業することもあります。2つ目との違いは、原文の内容を見るだけでなく、実際に訳文を入力していく環境であることです。

2つ目と3つ目は細かい違いのようですが、この解釈の食い違いでミスコミュニケーションが起きる場合があります。実際、こちらが原文の内容を見たいという意味で「Sourceファイルを送ってください」とクライアントに依頼をしたところ「(翻訳用の)パッケージは納期が合意に至ってから送ります」と返事が来て、会話がかみ合わないことがありました。Sourceというシンプルな言葉ひとつをとっても、意思疎通の難しさを感じる出来事でした。

Reference(レファレンス)

普通、Referenceといえば「参考資料」ですが、これもプロジェクトや担当者によって意味する範囲が違うことがあります。表記ルール、用語集、内容理解の助けになる補足資料などは、いわゆる「参考資料」としてイメージしやすいものですが、ときには、先の「Source」で挙げた2つ目の解釈に該当する原文ファイルがReferenceとして提供されることがあります。おそらく、 Source =翻訳作業用ファイルという認識であるため、原文ファイルのことを Referenceと表現しているのでしょうが、こんなところにも言葉の使い方の違いがあるのかと思ったことがあります。

経験と調査と想像力

今回はとくに、業界の基本的な言葉でありながら、違いが分かりにくかったり、人によって認識が違ったりする用語を取り上げてみました。業界に不慣れだと、こういった言葉の意味がわからなかったり、解釈の違いに気づかなかったりして混乱しがちです。

何か勘違いがあるかもしれない、と思ったときはまずは取引先に確認をしてみましょう。知らない土地で道に迷ったときと同じで、間違ったまま進むよりもわかっていたほうが確実ですし、だいたいみなさん教えてくれます。ただし、もちろん自分で調べたり、想像力を働かせたりする努力も忘れないでください。

今後も翻訳業界特有の用語へのアンテナを張り、「これは!」というものがあったらnoteに書いてみたいと思います。

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