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CATツール ~コンセプトと最大のメリット~


こんにちは、翻訳者・レビューアの小島です。


翻訳というと、原文ファイルに訳文を上書きしていく作業を想像なさる方もいらっしゃるかもしれませんが、弊社が主に扱うIT系をはじめ、産業翻訳ではCATツールを使用する案件が多いです。

ですが、このCATツールは一般の人にはやや理解しづらいもののようで、機械翻訳ツールと間違われることも多くあります。今回は、CATツールのイメージを掴んでいただくため、基本的なコンセプトとそのメリットに絞って、なるべくわかりやすく説明してみたいと思います。

はじめに:CATツールとは?


CATツールの「CAT」はComputer Assisted Translationコンピュータ支援翻訳)の略です。このことからもわかるとおり、CATツールとは、あくまで翻訳作業をサポートするコンピュータソフトであり、自動で訳文を生成してくれる機械翻訳ツールとは全く異なります。


CATツールには、Trados Studio、memoQ、Memsourceなど、さまざまな種類がありますが、基本的なコンセプトや機能はほぼ同じです。

CATツールの基本的なコンセプト


CATツールの最も核となる考え方は、「過去の訳文を再利用できるようにする」ことだと言えるでしょう。これを可能にするのが、翻訳メモリ(Translation Memory = TM)機能です。TMとは、過去に訳した文の原文・訳文ペアを保存するデータベースです。先に挙げた各種CATツールにも、この機能が備わっています。


CATツールを使って翻訳をすると、その原文・訳文ペアがデータとしてTMに登録され、蓄積されていきます。以降、同じまたは似た原文を訳す際に、TM内の過去の訳を再利用することができます。


非常に単純化した例で説明します。

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たとえば、過去に”This is a pen.”という文を「これはペンです。」と訳し、この原文・訳文ペアがTMに登録されました。今回新たに”This is a pencil.”という原文を訳すことになりました。すると、CATツールは、TM内の過去の翻訳データから類似の原文”This is a pen.”を探し出し、その訳文「これはペンです。」を候補として提供します。翻訳者はこの過去の訳文を利用し、原文が異なる部分の訳文を変えるだけで済みます(この場合、原文では”pen”と”pencil”が異なるので、訳文では「ペン」を「鉛筆」に変えるだけです)。


上図の例ほど短い文だとメリットを感じにくいかもしれませんが、実案件の文章では、この機能によって作業の効率とスピードが大幅に上がります。ソフトウェアマニュアルの翻訳が最たる例です。ソフトウェアがアップデートされるとマニュアルも改訂されますが、多くの場合、一から訳し直すのではなく、旧バージョンの訳文を手直しする方法をとります。一度CATツールでマニュアルを訳しておけば、改訂時には、TMから過去の訳を再利用しながら、新機能や機能変更があった部分だけを追加翻訳したり編集したりすれば対応できます。

また、大型の案件などでは、似たような原文が何度も出てくることがあります。その場合も、CATツールを使えば、翻訳済みの対訳をTMが都度提示してくれるため、翻訳者は前の訳を覚えておいたり、遡って確認したりする必要がなくなります。

TMマッチ率の考え方

TMに関連して、CATツールでもう1つ重要なのが、作業対象の原文がTM登録済みの原文とどの程度似ているか(TMマッチ率)を解析する機能です。一般的に、TM登録済みの原文と似ていれば似ているほど(TMマッチ率が高いほど)、再利用できる部分が多く、作業の手間が減ります。このことから、CATツールを使用する案件では、TMマッチ率に基づいて翻訳料金を割り引く仕組みが広く採用されています。たとえば、次のような考え方です。

TMマッチ率が低い文:
一から訳さなければならないため、通常単価の満額で支払う

TMマッチ率が高い文:
大部分を過去の訳から再利用できるため、通常単価に一定の割引率を適用する
(※TMマッチ率が高いほど、再利用できる部分が多く手間が減るため、割引率が高くなる)

TMマッチ率が100%の文:
たいていは過去の訳を見直したり、前後の文との整合性を確認するだけで済むため、通常単価に大幅な割引を適用する。もしくは、作業対象外とする。

実際の案件ではもう少し細かく分けて料金を設定しますが、TMマッチ率が高い文が多ければ、全体の翻訳料金が安くなることはご理解いただけるかと思います。つまり、CATツールは時間の節約だけでなく、コスト削減にも役立つのです。

CATツールのメリット

ここまでに説明したように、CATツールには、訳文の再利用による作業の効率化とコスト削減というメリットがあります。また、過去に使用された用語、表記(スタイル)、言い回しなどを自ずと踏襲することになるため、訳文の一貫性、ひいては品質が高まります。

CATツールには他にも、用語集参照機能、QA機能(Quality Assurance機能)など便利な機能がありますが、やはり発注側企業、翻訳者双方に最もメリットが大きいのは、「訳文を再利用できること」、つまりTM機能でしょう。これにより、CATツールの導入が広がってきたのだと思います。


CATツールについて、イメージが沸きましたでしょうか。


今回はメリットを主に説明しましたが、実はデメリットもあります。
そのあたりも、今後ご紹介できればと思います。

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