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四国のひとに聞いてみる! Vol.11〈忠の仁 氏〉 -芸術に今、これから出来ること-

忠の仁(ただのじん)氏(演出家/作詞家)
桐朋学園大学短期大学部演劇専攻科卒業。早稲田小劇場に入団し、2年間を過ごした後、ミュージカル劇団いずみたくフォーリーズに入団。その後独立し、1991年オフィスJINを設立。舞台芸術学院ミュージカル科本科の担任を経て、東温市地域おこし協力隊に就任。
現在は東温市アートヴィレッジセンターにて、とうおん舞台芸術アカデミーのアカデミー長を務める。

四国のひとに聞いてみる!第11弾目にはいりました。いつもご覧いただいている皆様ありがとうございます。
今回の11弾目を一区切りに週刊連載を終了させていただくことになりました。
連載は一区切りですが、今後もインタビューなどを発信していく予定をしていますのでその際はご覧いただけますと幸いです。

記事の最後にこれまでのインタビューを通して、インタビュアーの田中からの文章も掲載しております。よろしければご覧下さい。


第11弾目は東温アートヴィレッジセンターにて「とうおん舞台芸術アカデミー」のアカデミー長を務める忠の仁さんにお聞きしました!

-仁さんのこれまでと現在の活動、四国での活動についてお聞かせください-

1975年に鈴木忠志さんが率いてた早稲田小劇場に入って、富山の利賀村に本拠地を移すまでの激動の二年間を過ごしました。その後、何故かミュージカルの世界に心惹かれ、いずみたく氏の下で研鑽を重ね、1991年にフォーリーズを退団しました。

そのあとは独立をして、東京にある舞台芸術学院っていう学校のミュージカル本科の担任を務めながら沢山のミュージカルの舞台で脚本や演出に携わって、海外の作品の訳詞も多く手掛けました。ざっと1000曲以上かなと。

そんな中、砥部町の町民ミュージカルの演出に呼ばれまして、そこで愛媛の素晴らしさにやられちゃって2017年の春に愛媛県東温市に移住して地域おこし協力隊の一員に加わることになりました。

今年の3月には、協力隊としての任期が終わって、今は坊っちゃん劇場の契約スタッフとして、昨年生まれた「とうおん舞台芸術アカデミー」のアカデミー長として活動しています。


-昨今のコロナウィルスによる影響をどう捉えられていますか?-


東京にいるミュージカル仲間と話していると、その深刻さが如実に伝わる。向こうに用事があって、行こうかと思っていたら、「仁さん、絶対に来ちゃダメ。来たら死ぬよ」と脅されたくらい。
まあ、志村けんさんと同年代の私の身を案じての発言だったとは思うんだけど・・・
今は、非常事態宣言は解除されて、終息に向かっているかのようにも感じられるけど、このコロナ禍は予測不可能ですよね。いつまたパンデミックを引き起こさないとも限らない。しばらくはアフターコロナという言葉が流行ったけど、この疫病、完全に消滅されることはないんだろう。

だからアフターコロナという言い方より、誰かが言っていたウィズコロナという方が適しているかもしれない。この歳になると、一つや二つ体に病気を持つのは当然で、それとどう仲良く付き合っていくかが問題になるんだよね。

コロナもしかり。今までのような生活に戻れることはまずないと思ってます。生き方を変えなければいけない。ただ経済的に追い詰められていたとしても、安易に金儲けに走らずに、自分の置かれている立場と人生の目標・意義を考えるきっかけにするべき時だと思う。


―ご自身の活動で実際に影響を受けていることはありますか?-

東京と大阪で2005年に訳詞で参加した『Boy From OZ』というミュージカルの再々々演の舞台が今年上演予定だったんですが流れてしまい・・・でも、僕以上に制作サイドが痛手だと思います。

それから「とうおん舞台芸術アカデミー」も3月頭を最後に7月まで約4か月休講になりました。継続的なレッスンの必要性が求められる取り組みだけに、このブランクは大きいんですが、取り戻すことに功を焦らずアカデミーの存在理由を問い正したいなと思っています。

地域住民の方々の憩いの場であり、感性を磨き喜びを見出す場であるならば、直接体を動かし、見て歌って触ってというミュージカルは最適なものだと思っていますが、お互い距離を保ち、マスク越しでのレッスンに新たな価値を見出すことが重要になって来るんじゃないでしょうか。


―この状況に置かれた芸術がなせることは何だと思いますか?—

時代と共に芸術のあり方は変化するし、YouTubeがテレビにとって代わる時代。SNSが幅を利かせ、新しい表現方法が求められていることは確かだよね。

だからコロナの災禍の下で生き延びる術としてのオンライン配信という非常手段も分からなくもないんだけど、それより、時代の要請する芸術の新たな萌芽として捉えた方がいいと思ってる。

ただ、僕個人としては舞台の単なる映像化には賛成しかねるなと思う部分もあるんだよね。ミュージカルの何が素晴しいかと言えば、それは生の音楽で生の役者たちが汗と匂いをまき散らしながら、観る者を巻き込んでいく、迫力ある生の舞台だと。

そう、演劇は見る者と演じる者とのぶつかり合いによって成立するものであって、そこにこそミュージカルの感動が生まれるはずだと思っています。

ウィズコロナという考えの中で、でも、絶対に忘れてはならないものがあるとしたら、それは人間同士の心と心、肌と肌の触れ合いであるべき。
そんなことは分かってると言われるでしょうがね。

ただ、老い先短い人間の戯言と考えずに聞いて欲しいんです。この非常時に舞台を続けられなくなり別の道を歩む演劇人もいるでしょう。でも、本物の感動を味わうことも出来ずに客席から去っていく観客もいるのではないか、そう思うんです。

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*子どもたちにお芝居の面白さを伝える忠の仁さん

-愛媛、四国での今後の活動についてお聞かせください-

東温市発のミュージカルを! と思って、ガラコンサートを始めたんだけど、もっと東温市の魅力を伝えられないものかと思って、まず一番に考えたのが自然と密着した生活の素晴らしさでした。それをどう発信すべきか考えて、東温市の自然の素晴らしさを謳った歌を作ったらどうか。美しい自然なら全国色々な所にある。だからここだけのアピールとしての歌を作ろうと思い立ちました。

第一歩として、東温市が力を注いでいる花「さくらひめ」に注目しました。デルフィニュームの品種改良として生まれたこの花をモチーフに曲を作って、写真と共にSNSで拡散しようと考えてます。人々の口の端にのり、全国に拡散することを夢見て。


忠の仁さんありがとうございました!

インタビュアー:田中直樹(東温市地域おこし協力隊)


-これまでのインタビューを振り返って-〈田中直樹〉

これまで11名の方々にご協力いただき、インタビューを掲載してきました。
コロナ禍を通じ、苦境に立たされている方もいれば、そうでない方もいらっしゃいました。
別々の状況下に置かれている人たちが、同じ立場になって考えることは、なかなか難しいものであると感じると共に、「その状況を共有することに価値がある」のだとインタビューを継続していく中で強く、そして確かなものへと私の中で変化していきました。

インタビューの中で、多くの方が「今は蓄える時期」という言葉を残されました。
公演やライブ、人前での表現活動が困難となった状況下で、自身の活動、作品を顧み、さらなる向上や確信を持つ時間にあてる。これはインタビューにお答えいただいた方々以外にも、芸術活動に携わっていない方でもその時間をこのコロナ禍に過ごされたのではないかと思っています。

オンライン配信をはじめとして、世の中が急速に変化した時期であり、現在もそれはまさに進行中です。
新しいものが生まれ、その過程で残るものと失われるものもあります。
多様なモノが行き交い、はみ出し、混在し、その渦中に新しい芽生えがある。

それこそが、芸術の根幹であると思うとともに、それを受容できる社会を継続的に支えていく必要が、今を生きている私たちの役割であり、求められていることではないでしょうか。

多種多様な人生を積まれた方々の口から紡ぎ出された様々な言葉。その言葉が飛び交ったこのインタビュー企画も、コロナ禍の中で生まれた1つの表現活動と感じていただけましたら幸いです。
最後まで読んでいただき誠にありがとうございます。

今後ともどうぞよろしくお願い致します。


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