心の浄化週間〜DAY5-②〜
山手イタリア山庭園の2つの洋館を堪能したあと、港の見える丘公園めざして歩きだした。
太陽の攻撃が容赦なく降りそそぐなか、日傘とハンディファンで対抗するが全然勝てる気がしない。
ペットボトルのお茶をごくりごくりと飲み干しながら、丘の上の山手本通りをゆっくり進んでいく。
このあたりはフェリスや横浜雙葉などのお嬢様学校が多く、街なみも洗練されていてとても素敵だ。あと30年もすればネオ・洋館になりそうな建物がいっぱいある。鑑賞しながら歩くと、だいぶ気分があがってきた。
ベーリックホール・エリスマン邸・山手234番館など、順調に洋館達を制覇していく。
最早、暑さとの闘いの様相を呈してきた。
イギリス館についた。
中に入ると、美しいピアノの音色が聞こえてきた。
「1階ホール 練習貸し出し中」との立て看板があった。大きな窓のある階段を上って2階にあがり、外からも印象的な丸窓のあるサンルームに入った。生け花やテーブルセットがとてもセンス良く配置してある。
生きている、活かされている洋館がとても羨ましく思えてきた。
今日の主目的である、県立神奈川近代文学館に着いた。
嫌な予感がする。人の気配がない。
通りがかった警備員さんに声をかけ尋ねると、案の定今日は休館日とのことだった。
とぼとぼと歩いていると、ざわざわざわっと、水の流れる音が聞こえてきた。音のする方に進んでいくと丘の傾斜を利用した洋風の小川とイングリッシュガーデンが現れた。山手111番館につながる裏庭だった。気分をなおし、最後の洋館へ向かった。
山手111番館にはレストランが入っていた。汗だくの私は、砂漠にオアシスとばかりに飛び込んだ。
涼しい店内からはイングリッシュガーデンが臨めるが、客は私1人のようである。
お好きな席へどうぞ。というので、庭がよく見える窓際の席へ腰かけた。
メニューをみたらハンバーグなどもあったが、昼食は中華街の中華粥を食べると決めていたので、グッと我慢して、のどの渇きを癒すことにした。
「イエロー」というソーダを頼んだ。ソーダにパインやイチゴ・マンゴーなどのフローズンフルーツが入っていて、とても冷たくて美味しかった。
冷たい飲み物でだいぶ体が冷えたが、ちょうど12時を過ぎたところなので、有頂点の太陽の勢いに負けないように外にでる準備を整えた。
自宅からもってきた凍らせたネッククーラーを首に巻き付け、扉を押して外にでると、熱気がむんっと体にまとわりついた。負けじと中華街に向け坂を下っていった。
このあたりにおかゆやさんがあったはず、とやっとみつけた記憶の場所の店は「定休日」となっていた。またか!今日はついてないなぁ。と思いながらも中華粥の口になっていたので、なんとしても中華粥が食べたくなった。
横道のほうが安い店が多いので、横道にそれて進んでいくと、なんとおかゆやさんの二号店を偶然みつけることができた。私の執念勝ちである。
お粥ランチを頼んだ。野菜粥・エビチリ・チャーシューまん・ザーサイがついて1500円。大満足である。
お腹がいっぱいになったので、店をでて中華街を駅までぶらぶら歩いていると、「手相占い500円」という看板があちこちにあるのが目に入った。
なんとなく気になって覗くと、女性3人組の真前にすわっている占い師のおばさんと目があった。ちょっと占ってもらおうかなと思い、店の奥の丸椅子に座って待っていた。
店の奥から「チョットマッテテ、スグオワリマスヨ。」と中国人のお兄さんがでてきたので、中国人のお店だったのか、とちょっと後悔した。
10分ほど待つと、呼ばれたので占い師のおばさんの前に座った。
「暑いなかお待たせしちゃってすいませんでしたね。手相の他に、私はタロットが専門なんです。
よかったらタロットと手相の両方で2000円ですが、いかがですか。」と言われた。日本人だった。
人懐っこい笑みに温かみを感じて、金額は別にいいやと思い、「はい。よろしくお願いします。」と言った。
私の手をとりおばさんが、あなたはとても賢く強運の持ち主ですね。ほらこの線に現れています。あと、長生きするととてもいいことがあります。私と同じこの線が太いでしょ。これはね、晩年大きな幸運が訪れるのよ。わたし80歳なんだけど数年前とてもいいことがあったの。あなたも同じよ。。。
手相は、当たり障りのないような、いいことだけ拾って言ったような感じだった。
次にタロットに移った。年季の入っているタロットカードを箱から取り出し、なにを占ってほしいですか?と聞かれたので、「仕事の人間関係について」といったら、人間関係は占いではでないのよ。まず仕事の現状を見るわね。といって、カードを額にあて念をおくりシャッフルした。
10枚ほど机に並べて真ん中のクロスしたカードから順番に開けていく。
タロットカードの絵についてすこし知識があるので、「吊るされた男」とか「剣」とか「死神」とかあんまりよさそうなカードが出ていないのがわかった。
仕事はいま良くないわね。あなたはその仕事を好きで、金運もよい。ただし考え方を変えた方がよい、とでている。と言った。
これからどうしたらよいのかちょっと見るわね。と言ってまたカードに念を送りシャッフルした。
またもやあまりいいカードではなさそうだが、「皇帝」「運命の輪」など少し良さそうなカードもあった。
いまの仕事というか会社はあなたに成功と金運をもたらすので、やめてはいけないけど、考え方を変えていらないものを捨てるなど、方向性をチェンジすれば、最終的にいい方向にすすみそうよ。と言った。
なかなかに的を射ていて、駅へ向かう道すがらおばさんの言葉を脳内で逡巡させていた。
夕方、病院にむかった。
診察室で、医師に「最近の具合はどうですか?」と言われたので、上司と面談したこと、1週間休暇をとることになったこと、部署異動になるかも知れない事を伝えた。
医師はカルテにサラッと書き込むと、「薬1週間分だします。お薬2錠に増えます。また来週来てください。」と言った。
「お薬増えるんですか?増やしたくないです。気分もだいぶ上がってきています。」と私。
「それは会社休んでるからでしょう。お薬量は治療に必要な量です。この薬はいつでもやめられるものなので心配しなくて大丈夫です。」と医師。
流れ作業的に処方箋を出す作業をしているだけのように思えた。
支払いを終え、薬をもらい帰宅の途についた。
薬を飲んでから陰鬱な気分が消えたのは確かだが、副作用が怖い。
私は医師の言葉に従わず、量は増やさずに8日分を16日分として飲むことに決めた。そこで薬がなくなったらもう飲まない。もし具合が悪くなったら、他の病院にかかろう。
占いのおばさんのほうが、よほど有益なアドバイスをくれたじゃないの。
もうあの病院、あの医師にかかるのはやめることを心に決めた。
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