見出し画像

ショートショート「ロボロマンス」

「大人になったら絶対に結婚しよう。この手を見て、私のことを絶対に忘れないで。」


 2535年10月。そう言って僕の大好きな幼馴染みは引っ越ししていった。僕らは最後に手のパーツを交換した。大人は愛している人と、愛情を示す証拠に自分の一部であるパーツを交換し合うのだ。以前それを映画で見た僕らはそれに憧れていて、真似をした。


 どんなときも僕は幼馴染みを手を見るたびに思い出した。中学や高校で素敵な女性にたくさん出会ってきたが、この手を見るたびになんとなく引っ掛かり、幼馴染み以外に好きな人ができることは無かった。もちろんすでに手が女性になっている僕にアタックしてくる女性もまたいなかった。めちゃくちゃモテる僕の友人は浮気をするときは目立ちにくいパーツにするのがいいと教えてくれた。なるほど、よく皆抜け穴を考えるもんだ。


 そして色恋とは無縁のまま、僕は大学生になった。僕は学びたい学問の都合で地元を離れ、他県の大学に進学した。そしたらこれは運命と言って良いだろう、幼馴染みと再会した。どうやら約束を覚えているらしく、ずっと僕のことを想っていてくれたらしい。ぼくらはもう一度手を交換し、恋人の関係になった。戻ってきた手は丁寧にメンテナンスがされていたし、なんとなく女の子の香りがする。自分の手じゃ無いみたいだ。なんともむず痒い。


 ぼくらはその後何年かして結婚した。他の人のように目に見える愛の形はないけれど、戻ってきたパーツを通して僕らの心は確かに繋がっている。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?