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ショートショート「人生はメリーゴーランド」

 友人と遊園地に行くときメリーゴーランドに絶対に乗ってしまう。子供っぽくて恥ずかしいのだが、正直にいうとメリーゴーランドが好きだ。私はジェットコースターがそんなに得意じゃないので、楽しんで乗れるアトラクションは限られる。そんな中ただぐるぐると回るだけの彼は、外で乗り番を待っている知らない人と笑顔で手を降りあいっこしたり、ゆっくりと上下する友人の間の抜けた映像を撮ってみたりとなんだか楽しい気分にさせてくれるのだ。夜に乗るときは柔らかいオレンジ色のライトで私を迎えてくれて、まるで実家に帰ったような安心感と温もりがある。なんとも言えない表情をしたお馬さんは、つるつるしすぎて乗り心地は正直にそんなに良くない。けれど、それも愛おしい。


 しかし、いつしか皆と距離を感じるようになってしまった。賢そうな人がよく使う、「視座の高さが違う」というやつだ。前みたいに同じツボで笑ったりすることも無くなったし、皆の喋っていることがなんだか難しくて大人っぽく感じるようになった。アトラクションが終わり皆はどこか別のところにい行ってしまったようだ。いや、私が馬から降りなかっただけなのかもしれない。彼が鳴らしているごきげんで、ちょっとだけ不安を煽るワルツはいつも唐突に止まり、虚しさが残る。


 理想の自分にもなれず、ましてや皆みたいに大人にもなれない私に嫌気がさす。メリーゴーランドがどこにも連れていってくれないのと同じように、私は同じところをぐるぐると回っている。そんな私を外から見守っている人たちはどう思っているのだろう。堂々巡りで浮き沈みする私を、哀れんでいたんだろうか。そんな考えにさせるメリーゴーランドが、ちょっと嫌いだ。ふと湧き出た濁った感情にあてられ、私は少しだけ泣いた。

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