サンタクロース~11.暖かいクリスマス
11 暖かいクリスマス
クリスマスがやってきました。トトは朝から落ち着きません、そわそわと何度も時計を見て立ったり座ったりの繰り返しです。
やっと約束の時間が来ると、部屋を出てドキドキしながらアンの家のベルを押しました。
「いらっしゃい、トト!」
すぐに、アンがグレーのドレスを着てトトを出迎えてくれました。
「……とても、綺麗だよ。アン」
トトは二人にプレゼントを用意してきました。アンにはドレスに合わせたグレーの帽子、彼女の母親には、とても暖かそうなコートを。
今回のプレゼントもトトは悩みましたが、それでも『きっと、あの二人はどんな物を渡しても喜んでくれる』と分かっていたから、最初のドレスの時ほど悩むことはありませんでした。
「ありがとう、でもこの前、ドレスを貰ったばかりなのに、いいのかしら……」
アンがめずらしく、しんみょうな顔でママを見て恥ずかしそうに言いました。ママはアンに笑顔を見せると、トトに丁寧に感謝の言葉を伝えました。
「いいんだよ。アン」
トトが笑顔を見せます。
「ありがとう。トトおじさん!」
アンと母親は何度もトトにお礼を言いました。
「トトおじさん、部屋に食事の用意が出来ているのよ。私とママが一緒に作ったの。ママの料理はとても美味しいんだから!」
アンが部屋へとトトを誘いました。トトは食べ物を持ってこなかった事を後悔しました。でも部屋に入ってテーブルを見た瞬間、その思いは吹き飛んでしまいました。
「これは、すごい」
母親は貧しいけれど立派な食事を用意してくれていたのです。部屋の壁にも、アンが一生懸命に作ったクリスマスの飾りでいっぱいです。前にアンが話してくれた通り、クリスマスのイルミネーションはそれだけで特別な気持ちになっていきます。
「……とても、素晴らしいクリスマスだよ」
感情表現が苦手なトトでしたが、思わず、そう言っていました。
アンは食事の間中ずっと喋りっぱなしです。アンの母親は、それを見ながら優しく笑ったり頷いたりしています。トトは手料理をゆっくりと味わいながら、二人の話に耳を傾けています。
「とても美味しい……」
「そう言って頂けると、うれしいですわ」
母親が笑顔を見せます。
「いや、本当です。本心から、そう思います」
心のこもった手料理です。そして何よりもアンの明るい話し声、それを包む母親の優しさ。ここにある全てのものが食事を美味しくしていたのです。
「これがクリスマスか……」
トトの心の中が満たされていきました。でも、時間はとても早く流れていきます。もうパーティーは終わりの時間です。
「本当に、有難うございました」
トトは母親に深く頭を下げました。
「いえ、こちらこそ。プレゼントまで下さって」
母親があらためてお礼を言います。母親の横では、アンがめずらしく照れくさそうな顔で、もじもじとしています。トトはアンに声をかけました。
「それじゃあ、アン。今日は招待してくれてありがとう。とても幸せな気持ちになれたよ」
それを聞いて、アンが一歩前に出ました。
「あの、……はい、これ。ママと私で作ったのよ」
そう言うと、アンはプレゼントをトトに差し出しました。
「あ、ありがとう」
予想外のプレゼントを貰って、トトは驚きと嬉しさで泣きそうになってしまいました。そして、ゆっくりとしゃがんでプレゼントをアンの小さな手から大事そうにそれを受け取ったのです。
「メリークリスマス!」
その時、アンがトトの頬にキスをしてくれました。
「ありがとう……」
トトは深く頭を下げると、そのまま二人の顔を見ないで別れを告げ、家へと帰りました。トトの目からは自然と涙がこぼれていました。
自分の家へ帰ると、冷たく静まり返った部屋の明かりを点けました。
「あぁ、とても楽しかった。あんなに楽しかったのは、久しぶりだ……」
すぐに、トトはアンから貰ったプレゼントを開けてみました。
「これは……」
二人からのプレゼントは毛糸で作った赤い帽子でした。さっそく頭に被ってみます。
「これは、なんと暖かい帽子なんだろう」
トトは帽子を被ったまま目を閉じて、まだ自分が幼かった頃、家族そろって迎えた最後のクリスマスを思い出していました。
つづく ~ 12.古びた箱の使い道
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