漫画学とドラマ理論第12回
第12回「電子書店とネット書店が本当にやりたいこと」
① 「現状」
これはみんなわかっていると思う。明らかに漫画の出版をやりたがっている。露骨に漫画編集者募集をやっている会社もあります。ネットで電子だろうが紙だろうが売っていたら、漫画を自社製品で売りたくなるだろう。中には漫画家に漫画を描かせて著作権を買い取る業者まで現れた。漫画家はそれでいいの?と思っちゃう。買い取られたら、その後永遠にお金が入ってこない。日銭が欲しいのは理解できるが、本当にいいのとやはり思う。外国の出版社ならあり得るが、日本の出版社はまだ優しいから著作権を買い取るというのはまずない。
しかしおかしなことに、それら電子書店やネット書店からヒット作が生まれたというのはいまだ聞いたことがない。以前「バクマン」という漫画がジャンプで連載していたが驚いた。20世紀にああいう漫画を企画会議に出したら滅茶苦茶怒られただろう。「楽屋ネタなんぞ出すな!」とたぶん怒られたと思う。余談だが、私の上司は怒るだけじゃない。恐怖の「朝まで生説教」をやる。夜10時から朝の6時まで、ずーっと説教するのだ。怒られるより、このダラダラとずっと続く説教の方が苦しいのだ。眠たくても眠らせてくれない。きっとKGBの拷問はこんな感じだったろうと思う。
話を戻すと「バクマン」に出てくる編集者は別に特別なことはしていない。「フツウの編集者」だ。だから驚いた。それを描いてヒットするのか?それだったらやればよかったと思った編集者は結構いたと思う。ただし、あれ以上の編集者は描かない。もし描いたら「ノウハウ」そのものを描くことになるからだ。編集者のレベルで言うと「上の上」の漫画編集者を描いたら大変だ。私が担当者だったら「中の上」レベルまでしか描かせないと思う。
これら新規参入者の漫画作品すべてを見たわけじゃないが、「下手な鉄砲、数撃ちゃ当たる」方式のようだ。編集の匂いがしないのです。おそらく「面白いか、つまらないか」しか言わないのだろう。面白ければ載せるということだと思う。もしかしたら、それさえ言わないで無条件に載せているかもしれない。それでアクセス数が多ければ、1巻として電子書籍や単行本にしているのかもしれない。編集者の仕事は製版所にデータを送り、サイトにアップロードすることだと思っているのだろう。それだったら高校生でもできる。というか今の高校生のほうが、ITリテラシーがあるから得意だ。私が言う「漫画編集者」がいないのだ。
20世紀、なんでジャンプやマガジンが大部数になったか研究していない。もちろんこれら新規参入者が、気が付いたら既存の出版三社は真っ青になるだろう。「つくれる漫画編集者」の存在に気が付いたら当然そういう人を引っ張ってくる。それが「ジャンプ」「マガジン」の最大のノウハウだからだ。今のところITリテラシーの優位性で押し切れると思っているように見える。そのうち自力ですべてできる漫画家さんが、彼らのサイトやアプリに登場する可能性もある。それならそれで満足するだろう。時間はかかるが。
漫画家を育てるより「つくれる漫画編集者」を育てるほうが数段大変だ。これがわからないと時間はさらにかかるだろう。この事を別の新規参入者も理解していないようだ。文春や新潮社などだ。天才的な漫画家を待っていると思う。そんな漫画家は10年に1人か2人だ。それをわかっていないと思う。マガジンの新人賞の最高位は「特賞」だ。「特賞」というのは即連載レベルの作品のことを言う。10年に1人か2人しか出ない。
② 「ノウハウは誰も言わない」
今のところ20世紀の漫画に何があったのか具体的に言う人はいない。またそれを問う新規参入者もいない。そうそう簡単にノウハウは言わないだろう。
私がヒット作を2,3本作ったあたりで、 私の上司が昔「ノウハウは他人に教えるな」と言った。何だかせこい感じがしたので「なんですか?」と訊いたら、「日本人は眼に見えないものに感謝しねえんだよ」と言った。どうもこれは真理のようだ。ノウハウが一番大事だが、日本人はそれが大事だとは思っていないのかもしれない。
「ノウハウ」というのは聞けば「なあんだ。そんなことか」と思うものだ。しかしその「ノウハウ」を編み出すのに何年もかかる。聞くときはたった1分だ。そんなものだ。しかし知識として聞くのと、それを実行できるかどうかはまた別物だ。私も後輩に教えたが、できる人間とできない人間がいた。そういうものなのだろう。もし「ノウハウ」を身に着けた漫画編集者が、今まで上げた新規参入者の組織に4,5人出てきたらこれは恐ろしいことになる。
もっとも日本人だから目に見えないものを評価しないので、気が付かない可能性もある。
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