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漫画学とドラマ理論第5回

第5回「2007年、スマホの登場は実は編集の無能をカバーした」

① 「漫画雑誌が激減」

注:データはすべて「出版研究所」のものです。数字をグラフ化したものです。

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 素敵な減少関数ですねえ。ただ以前にも申し上げましたが、2006年まではどう考えてもマガジンもジャンプもつまらなくなっています。主観だと言えば主観です。後で説明しますが、必ずしも主観でないことがわかります。
 2007年にスマホショックが起きます。それまでは正直「頭が悪いのを編集長にするからだよ」と思っておりました。しかしこれには編集主導派の私も仕方がないと思いました。何しろいつでもスマホを携帯している。何となくいじっている内に30分や40分経ってします。例えばウィキペディアで何か調べていると、また何か疑問が出て調べます。あっという間に30分でしょう。
 この頃から電車の広告の価格が下落します。なぜならみんな上を見ないからです。新聞を読んでいる人も見かけなくなります。電車内でみんなスマホを見ている。皆さんも気が付いたと思いますが、電車の両サイドの広告スペースに空きが出てきたのもこの頃です。その広告も過払い金や予備校の宣伝あたりでしょう。資生堂のポスターなんか見たことがないでしょう。


② 「日本人はアメリカ人と違う事例」

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上の図は紙の単行本の売り上げ推移です。意外としぶとい。アメリカじゃ考えられないでしょうね。一つには漫画は何やかや言って芸術です。液晶画面ではなく紙で見たいのでしょう。
今一つは、紙の本を読むというのが文化として定着しているのでしょう。紙とインクの匂いをかぎながらページをめくるのがいいのだと思います。これにはヨーロッパでも同じです。意外とヨーロッパも紙の本の需要は落ちていません。
あとは漫画編集者としての私の意見ですが、漫画というのは「コマ割り」「コマの大小」などは映画的な手法をとっていますから、ある程度大きくないと効果がわからない。またページをめくることも計算してジャパニーズマンガは作っています。ページをめくる時間が、「間」になるのです。ページをめくったらビックリさせたりするわけです。この効果を楽しむのは紙の単行本のほうがいいに決まっています。

③ 「電子書籍は漫画部門にとって僥倖」

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上のグラフが漫画の電子書籍の売り上げ推移です。当初私は勘違いしていました。書店以外にネットという売り場ができたら、電子書籍も売れたと思ったのです。それをデジタル販売部門の現場の連中に言ったら、「そんなわけないでしょ。ほとんど20世紀の作品ですよ!」と言うのです。当たり前なのですが、2007年から売り出した電子書籍のほとんどは2006年までの作品です。結局売れているのは20世紀の全盛期の作品なのです。いったん絶版になったものも復活しています。そして売れたのです。
ビッグヒットした作品というのは、絶版にはなりにくいですが、だんだん重版がかからなくなります。しかし何年か一遍豪華版とか文庫版などを出すとまたドッと売れます。
例えば「北斗の拳」とか「スラムダンク」は何度か復刻版を全巻にわたって出しますが、信じられないほど売れます。それと同じ論理です。復刻版の代わりに電子書籍が売れたと考えていいでしょう。
 

 この電子書籍のおかげで編集長、部長、局長、さらにコミック担当重役はホッとしたはずです。しかしおかしいでしょう。これ、過去の遺産です。この時点で編集長やっていた人間の功績じゃない。これをほめる経営者がいたらアブノーマルでしょ。
 困ったことにこの電子書籍で一時的なカンフル剤的効果があったので、編集現場はそのままになってしまった。2006年まで「面白くない漫画」を作っていたことが隠れてしまった。

④ 「全部足した漫画市場」

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 2019年以降の「コロナ特需」は置いといて、意外と減少幅は少ない。上記のグラフには2007年から2013年の電子書籍の売り上げをカウントしていません。カウントすると余り減少しておりません。しかし忘れてはいけないのは、電子書籍の売り上げのうち20世紀の作品がいまだにたっぷり入っています。
① 、②、③のグラフに分解すると安寧した気分でいるのはおかしいと思います。
特におかしいのは電子書籍の内訳を何故かしない。20世紀と21世紀の作品別に分けられると困る人がいるとしか思えない。「お前、何もやってねえじゃねえか」と言われちゃいますからね。

⑤ 「この20年間漫画編集者を育ててこなかった」

これは私が言ったんじゃありません。某大手出版社の重役会で出た意見です。狂っているでしょう。これからは「ファンタジーだよね」とか「オタク漫画が最先端だよね」なんて言っていた連中がこんなものです。すべて言い訳だと言っているようなものでしょ。つまり普通の漫画がつくれない状態にしたのです。ノウハウも理論もクソもない。何もない。超高い宅急便みたいな編集者の出現です。もしくはパソコンでデータ送るという、高校生でもできる仕事が編集だと思ってしまう。
信じるかどうかはあなた次第。漫画家さんの方も読んでいると思います。信じられるのは自分だけと思って作るしかないでしょう。
昔、横山ノックという人が大阪知事になった時、大阪市民はビックリしました。どうも大阪人は優しい。当選するとは思わなかったから、可哀そうだから投票する人が多かったのです。そうしたら当選してしまった。テレビのインタヴューで「これからは私たち一人一人がしっかりしなくてはいけなんですね」と真剣な顔をして言っているのを観たことがあります。
 漫画業界も同じになった気がします。皆さん一人一人がしっかりしなくてはいけない時代が来たのかもしれません。

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