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よみあとんと(読書記録7)

こんにちは。とんとです。

今回の記事は、臨床心理士の痛快なフィールドワーク本の読み跡(よみあとんと)です。

よろしくお願いします。

 とりあげる本は、
東畑開人さんの『野の医者は笑う 心の治療とは何か?』(誠信書房 2015)です。

満面の笑みが描かれたステキな装画です!(新井隆広氏 画)


<短めな紹介文>

 怪しいものが根っからに大好きな臨床心理士の著者による、沖縄フィールドワークを追体験できるノンフィクション本で、沖縄の怪しい「野の医者」をインタビューしたり、セッションしたり、スクールに通ったりする様子を追体験できると同時に、「学問」とは何かということを気づかせてくれたり、「心の治療」とは何かを改めて見直すことができる内容となっている。そして著者の軽やかな文体と爆笑のユーモアを楽しめる本でもあります!

<読後の感想>

 ノンフィクション本ということで、体験記をリアルに肉づけした内容になっているのと、著者の東畑さんがそういう性分だからか、飄々と軽やかに様々なヒーラーの「治療」を受けていく様が、とても面白かったです。

 当時(2014頃)の東畑さんの仕事についての悩みや心情も吐き出していて、全身全霊でこの沖縄フィールドワークを楽しんでいるのが伝わってくる文章でした。

 「野の医者の治療」と「現代医学」を公平に見るという視点(医療人類学)にとても共感しました。なぜなら、その治療がクライエントにとって有効であれば、そんな区分はどうだっていい!と感じるからです。


 気づかされたこととしては、健康にもざっくりと2種類のタイプがあって、一つは「(気分を)落ち込めること」で、もう一つは「軽い躁状態」である、という<陰と陽>のような表現に出会い、下記のような気づきを得ました。

 それは、われわれはどちらかというと、陽気であることが健康であることと思っているけれど、意外にも「落ち込めること」で健康のバランスを取っているんだなということです。

 
 また本書の特徴は「笑い」の本質についての考察でもあり、人間の「笑い」のタイプについても言及されていて、例えば<楽しいから笑うのでなく、笑うから楽しいのだ>といったような逆説的な(マーフィー的な?)捉え方とは違う、「笑い」のタイプが提示されているのも重要なポイントだと思いました。

 自分の不幸な境遇を「浪人」として言語化したりして笑い飛ばしたり、就職活動で一喜一憂する場面もあったりして、素直な人なんだなあと感心したりもしました。

<振り返り>

 今回は以上です。

 振り返りとしては、心の病って技術の寄せ集めから始まるんだなあと改めて思いました。そこで重要なのは「信頼」だと本書でも書かれています。

 確かに治療には薬物療法がありますが、患者さん本人が治ろうとする意志もとても大切だと思います。

 自分の人生に責任を持つことや、自分を「信頼」することを、私は医療機関などの様々なプログラムを通して肌身に感じて学びました。

 そうした体験を持って本書を読むと、沖縄のヒーラーの方達はとても自分自身を「信頼」しているなと思いました。彼らは本当によく喋るし、よく笑います。

 他の視点としては、沖縄が経済的に苦しい中での仕事の掛け持ちをやっていかないと食べていけない人も多いということや、冷静にヒーラー治療をマーケティングしている方が最近は多いということ、時代とともに寄せ集めた技術の使い方も変遷していっているということ、などについても東畑さんは分析されていて、面白いなと思いました。

 私も自分自身と信頼関係を築いていけるように、これからも工夫していこうと思うようになりました。


 それでは、ご一読頂きありがとうございました!

とんと

<キーワード>

・ユタというゲリラ
・医療人類学
・「傷ついた治療者」
・心の治療はブリコラージュ
・アゲジャビヨ!とじぇじぇじぇ!
・ニートではなく「浪人」
・ドラゴンとトカゲ
・潜在意識と無意識の違い
・ニューソート

<キーパーソン>

・兵頭晶子(1978-)
歴史家。『精神病の日本近代ー憑く心身から病む心身へ』を読んでみたい。


・フランツ・アントン・メスメル(1734-1815)
ドイツの医者。動物磁気説の提唱者。催眠術師。mesmerize(メズマライズ:魅了する)の語源となった人。

彼の学問的な子孫にフロイトがいる。



・ミハイル・バフチン(1895-1975)
ロシアの哲学者、思想家、文芸批評家、記号論者。
『フランソワ・ラブレーの作品と中世・ルネッサンスの民衆文化』を読んでみたい。

装丁画からして面白そう!↑(「笑いについて」の考察がある本だそうだ。)


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