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ホテル・インレーの夢 目次
この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
第一章 イタリアへの新婚旅行
第二章 変わり果てたミャンマー
第三章 夢の世界へ ① 五日市場
第四章 夢の世界へ ② 水上菜園
第五章 夢の世界へ ③ インデイン
第六章 夢の世界へ ④ リスの里
第七章 夢の世界へ ⑤ カックー遺跡
第八章 夢の世界へ
ホテル・インレーの夢 第一章 イタリアへの新婚旅行
窓を開けると乳白色をした朝もやが目の前に広がり、深い緑色をした広い畑がうっすらと透けて見えた。窓から入ってくる乳白色の朝もやからの空気は冷たく、その冷気が乳液のように肌に沁みこんでくるように感じられた。部屋の中にこもっていたもやっとした感覚が一気に消え去り、昨夜の陶酔感が体から抜けていった。
以前、同じ様な光景を見たことがあるなと思ったが、それがミャンマーのどこの場所であったのかを思い出すことは
ホテル・インレーの夢 第二章 変わり果てたミャンマー
インダー、アカ、クン、シャンジー、ラフ、リス。インレー湖に住む6つの少数民族の中から1人ずつ選ばれた6人の若い女性がアルバートさんの前に並んだ。それぞれの後ろに屈強そうな壮年の男が1人ずつ立った。その横に、私と私の看護師時代の親友のピューシェンニーとポーターマーが並び、全員の前にアルバートさんと通訳も兼ねるアウンカイジーが立った。
「皆さん、揃いましたね」
アルバートさんがミャンマー語で話すと、
ホテル・インレーの夢 第三章 夢の世界へ ① 五日市場
「やけに静かなところだな」
クン族のホテルスタッフのコークンが漕ぐ猪牙舟(ちょきぶね)が音も立てずに水の中から生えている群生植物を舳先で掻き分けながら進んでいる。猪牙舟は船首を左に向けて静かに曲がった。湖の水の色は抹茶ラテのような緑色だったが、湖畔に近づいてくると茶色く変わってきた。水上に生い茂った緑の葉の中を暫く進むと今度は右に90度に曲がった。群生植物が大分密集していることから、舟が岸辺に近
ホテル・インレーの夢 第四章 夢の世界へ ② 水上菜園
「今日は沢山集まったわね」
ピューシェンニーは薬草庫に入ると、運ばれてきた薬草の仕分けをしているアウンカイジーに向かって言った。
「そうだね、今日は天気が良かったから彼らも沢山集めることが出来たのだろう」
アウンカイジーの脇には葉っぱ、根っこ、種、木の皮などが積み上げられていた。
「私も手伝うわ」
ピューシェンニーはそう言うと、ロンジ-を緩めて横座りに座り、アウンカイジーの脇の山に手を伸ばした。
ホテル・インレーの夢 第五章 夢の世界へ ③ インデイン
「ここだよ。これが長い間、閉ざされていたシャンの山奥の秘境、インデインだよ」
ヘンリー・パーヴス・ファイアは妻のメアリーの手を引っ張って、背の高い赤茶色の仏塔が立っている横の長い階段を上った。仏塔の色が金色でなく赤茶色いのは、長い間、仏塔に寄進する人が居なかった所為で、金箔が剥げ落ちてしまったからだろう。
「ヘンリー、大丈夫? 私、なんか薄気味悪いわ」
「大丈夫だよ、ほら後ろからホテルのスタッフ
ホテル・インレーの夢 第六章 夢の世界へ ④ リスの里
「ミャンマー語の語源がチベットだって知ってた?」
「あの、ダライ・ラマのチベット?」
「そう、あのチベット」
「あの時は大変だったよな。ダライ・ラマを巡って、チベット舞踊団と中国人とインド人がレストランで取っ組み合いの喧嘩になって」
「レストランからの損害賠償がとても高かったわね」
「そもそも、チベット舞踊のパリ公演を催そうと言ったのは父だよ。父に請求書を回せば良かったな」
「そうね、あの時はあ
ホテル・インレーの夢 第七章 夢の世界へ ⑤ カックー遺跡
「お前の知っていることもあるだろう、知らないこともあるだろう。しかし歴史を振り返ってみることは、未来を考えていく上で参考となることが少なくない。ここでは何にも邪魔されない。私からミャンマーでの事業を引き継ぐお前と一緒に、ゆっくりと私たちマールワーリーの歴史を振り返ってみることも意味あることではないかと思ってね」
バハードゥル・バブラルム・ラルカは娘のアンキティの手を取って、静かに語り始めた。
ホテル・インレーの夢 第八章 夢の世界へ ⑥スピリットゲート
「アカ族の村への入り口には、男性と女性のイメージを描いた精巧な彫刻で飾られた木製の門が両側に取り付けられています。それはアカ族の「スピリットゲート」です。
山の中の藪の中の乾いた土の道を歩きながら、黒い民族衣装を着たマーアカがノルウェー人夫婦を振り向いて説明した。
「流石に、ここまで来ると私の会社の携帯の電波は届かなかっただろうな。ここは、少数民族の村というよりも、原住民の村という方がしっくりく
ホテル・インレーの夢 第九章 夢の世界へ ⑦ タンルウィン川
「ゲストの皆様、お待たせ致しました。本日は当ホテルにご滞在頂いておりますヘンリー・パーヴス・ファイア様に、タンルウィン川についての特別講義を頂けますことを心から嬉しく思います。ヘンリー・パーヴス・ファイア様は歴史学の研究で有名なイギリスのゴスター大学の非常勤講師を務めていらっしゃいます。また、ヘンリー・パーヴス・ファイア様のご一族は代々、このミャンマーとも深く関わりを持っていらっしゃり、今回、当
もっとみるホテル・インレーの夢 第十章 リチャール室の夢
「ゲストの皆さま、お待たせしました。本日の湖畔でのランチは如何でしたか?」
ソーミンがリチャール室に戻ってきたロシア人、フランス人、アメリカ人、インド人、中国人、そして午前に講義を行ったイギリス人に向かってマイクを持った。
「ゲストの皆様には、当ホテルにご到着された初日に、体の状態を当ホテルの医師により診させて頂きました。皆さまが本来持っていらっしゃる人間としてのオリジナルな状態を取り戻すため
ホテル・インレーの夢 第十一章 責任
「ゲストの皆様、そろそろお目覚めでしょうか」
ソーミンが静かに声を掛けた。リチャール室の全ての窓が開け放られていた。部屋の中に籠っていた空気は新しい空気に入れ替わっていたが、夢を見るように今まで感じていた陶酔感はまだ頭の中に留まっていた。ゲストの全員に新しいお茶が配られた。
「本日は、大変に素晴らしい日でした。ゲストの皆様が今、ご覧になられていたのは、体と同様に皆さまの脳が人間本来の脳としてご覧
ホテル・インレーの夢 第十二章 ハッキング
サコベ・ビルット様、サラ様が当ホテルにご滞在中にあの人物を連れて参ります。
「コーアカという男はそう言っていたよな」
「そうよ、そしてもう3日も経ったわ。私たちがここに居るのはあと2日。明後日にはここを出るわ」
ノルウェー人夫婦は部屋の中でコーアカとお金が戻ってこないことにいら立っていた。
「ここに来たのはあのお金を取り戻すためだ。ミャンマー中を探して、ようやく仮想通貨のマイニング拠点にあいつら
ホテル・インレーの夢 第十三章 オークション
気持ちが良い朝だった。インレー湖に向かって窓を開け放つと、すーっと風が入ってきて私の体の中を通っていった。昨日部屋に戻ってから夫と長い時間話し合った。義父が国連大使をしていた時の伝手で当時のミャンマー大使の秘書を紹介され、仕事から完全に隔離できる所としてこのホテルに滞在した。
携帯から目を離すことが出来なくなって精神が病んでしまったのは夫だけでなく、毎月の記事のネタ探しと嫉妬と見栄と権力による人